白銀のヒーローソウル【WEB版】   作:鴨山兄助

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挿絵は匿名の絵師様より。


Page02:はじまりの依頼★

 結局の所、レイはわんぱく小僧のまま事務所に戻る事となった。

 

「アリス、お前はもう少し人目って言葉を気にした方が良いと思うんだが」

「アリスは全然気にしない、レイが気にしすぎ」

 

 レイの言葉に淡々と返すアリス。

 後でこいつに羞恥心という言葉を叩きこもう、そう心に誓うレイであった。

 

「それに、此処は八区の果て。 人はあまり来ない」

 

 そうこうしている内に、二人は事務所へとたどり着いた。

 

 セイラムシティ第八居住区。それが事務所の所在だ。

 外観はレンガ造りの二階建てと、その真横に工房が併設された建物。周りに他の建物は無く、殺風景に見える。

 レイの本業は所謂なんでも屋だ。出来る事なら大体何でもこなすと謳ってはいるが、何時も閑古鳥が鳴いている売れない事務所の所長なのだ。

 

 レイはアリスに手を引かれて、ズルズルと事務所の中に引きずり込まれていきく。

 

「はい、座って、服脱いで」

 

 室内に入るや否や椅子に座らされ、服を脱ぐよう指示されるレイ。治療の為なのは解っているので素直に従う。

 これから怪我の治療が始まると言うのに、二人揃って薬も包帯も用意しないのは些か奇妙な光景かもしれないが、別に間違ってはいない。

 少し、変わった治し方をするだけだ。

 

「ロキ、力を貸して」

「キュッキュイ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アリスがそう言うと、ロキの身体は光を放ちその姿を大きく変え始める。

 光が収まるとロキが居た場所にそれまでの姿は無く、ミントグリーンをした一枚の栞『獣魂栞(ソウルマーク)』が浮かんでいた。

 アリスはロキが姿を変えた獣魂栞を左手に持つ。そして右手には小さな魔本、グリモリーダーを構えて、その言葉を唱えた。

 

「Code:ミント、解放」

 

 アリスが獣魂栞に向けてCode解放を宣言すると、獣魂栞からミントグリーンの魔力(インク)が滲み出して来た。

 魔力が出て来た獣魂栞をアリスはグリモリーダーに挿入する。

 そしてグリモリーダーの中央に備え付けられた十字架を操作して、最後の呪文を唱えた。

 

「クロス・モーフィング」

 

 装着と変身。

 グリモリーダーから解き放たれた魔力がアリスの全身を包み込み、その肉体を魔力に最適化されたモノへと変化させていく。強化された肉体の上から更に魔力で紡ぎだされたローブ、ベルト、ブーツが具現化されてアリスの身体に装着される。

 そして、最後に放たれた魔力で頭部を覆い隠すフルフェイスメットが形成される(何処となくカーバンクルの意匠が見受けられる)。

 僅か一秒足らずの出来事。その一瞬間に、アリスはミントグリーンの魔装に身を包んだ戦士へと姿を変えたのだ。

 

 『グリモリーダー』。

 正式名称、変身魔本グリモリーダー。ラジオ機能はあくまでオマケ、本命機能は契約魔獣の魂の結晶『獣魂栞』から出る魔力を用いて魔装を身に纏う事。

 要するに、変身機能である。

 

「なー、ラジオ点けながらでもいいか?」

「いいけど、ジッとしてて」

「了解、便利で良いよな~操獣者(そうじゅうしゃ)ってのは」

 

 一人ぼやきながらグリモリーダーを操作してラジオを点けるレイ。

 身体についていた傷は、アリスの手から放たれている治癒魔法で徐々に消え始めていた。

 

『え~続きまして、ギルド本部からのお知らせです♪ 禁制薬物の流通が確認されたので、見つけた人はスグに本部に通報して下さいとの事です☆彡 続けてもう一つ、最近セイラムシティ内でボーツの異常発生が――』

 

 ラジオから流れてくる少女の声を耳にしつつ、レイは少々物思いに耽る。

 

 人と魔獣が共存する時代と呼ばれ始めて、八百年程が経過した。

 長き年月の中で人間は魔獣と心を通わせ、魔獣の力を身に纏う術を手に入れた。

 それが魔法戦士『操獣者』。

 

 八百年の時の中で操獣者となる者は世界中で爆発的に増えた。

 現に今こうして魔法でレイを治療しているアリスは別に何か特別な存在と言う訳ではない。この世界ではそれなりにありふれた存在なのだ。

 しかし一方で、特別な者が存在するのもまた事実。

 ただしレイにとっては、悪い方向でだが。

 

「あ、ここにも傷……なんでこんなになるまで?」

「だってよぉ、ボーツが居住区に来たら面倒じゃん」

「操獣者に任せればいいのに?」

「出来る事が目の前にあったんだから仕方ないだろ」

「レイ、操獣者じゃないのに?」

「うっセ! 絶対なってやるかんな!」

「魔核が無くて召喚魔法使えないのに?」

 

 この女は淡々と心の傷に塩を塗り込む。レイは忌々しそうな表情を浮かべて、心の中でそう呟くのも無理はない。

 獣と共存する時代。操獣者でなくとも、魔獣と契約して魔法を使うのが当たり前の時代。

 魔獣と契約するには原則として召喚魔法で呼び出す必要がある。そして人間には、召喚魔法と契約魔法を使う上で必要不可欠な霊体器官『魔核』という物がある。

 さて、単刀直入に言ってしまうとレイ・クロウリーと言う少年は生まれつき魔核が無い。これが悪い意味で彼が特別な理由だ。

 

「それに、操獣者になれなくても戦力は持ってるから問題無いだろ!」

「それは怪我せずに帰ってくる人が言う言葉……はい、治療終わり」

 

 アリスの治療が終わったので、腕や腰を動かし身体の調子を確認するレイ。治癒魔法のおかげで身体の痛みは引き、傷も跡形なく消えていた。

 レイが服を着ていると、変身を解除したアリスがパンパンと手を叩く。

 

「はい、じゃあレイはお仕事再開」

「へーい。 てか、溜まってる仕事なんか何も無いんだけどな」

「依頼が来るかもしれない」

「こんな辺境に態々仕事依頼しにくる物好きなんて居ねぇよ」

「八区の人からの依頼も来る」

「あぁ偶に来るな、子供の小遣いで迷子のペット探しとか」

「それも立派な仕事、それに魔本(そっち)からの依頼もある」

「最近纏まった依頼をこなしたとこだから、しばらくは来ねぇよ…………つか、お前は自分の仕事をしろよ」

 

 あたかもレイの事務所の職員の様にそこに居るが、アリスの本業は救護術士(所謂フリーの医者みたいなもの)である。故に、仕事をサボっているのはアリスも同じなのだ。

 レイがそれを指摘するも、当のアリスはどこ吹く風。

 

「レイ、アリスが居なくなったら誰が事務所を維持するの?」

 

 そう言ってアリスは床を指さす。

 脱ぎ捨てられた服が散乱し、工具が転がり、何時の物か分らない書類や設計図がぶちまけられている惨状と呼ぶに相応しい床(及び室内)。

 レイを知る人間は皆口を揃えてこう言う。『アリスが居なかったら、この事務所は三日でゴミ屋敷になり、一週間で廃墟になる』と。

 それを自覚しているレイは何も言い返すことが出来なかった。

 

 そんなやり取りをしていると、気づけばラジオは終わっており、再びレイにとって退屈な時間がやって来たかに思えた。

 それはちょうどラジオ放送が終わった直後のことだ。

 レイのグリモリーダーからピッピッと音が聞こえてきた。

 通信機能に誰かがかけて来た音だ。

 レイはグリモリーダーの十字架を操作して、通信に出る。

 

『おぉーレイ! 元気にしてるかー!』

「あぁ親方か、俺はさっき元気になったばかりだよ」

『そうか! 元気で何よりだ!』

 

 通信してきた男の名はモーガン・キャロル。

 ギルド直属の魔武具整備課の整備士にして、事務所のお得意様でもある。

 基本的に閑古鳥が鳴いているレイの事務所だが、これでも一応安定した収入源は持っている。それが操獣者用の魔法武器『魔武具(まぶんぐ)』の開発と整備である。

 魔核も愛想も無いレイだが、唯一魔武具の開発とそれに必要な術式構築の才能だけは持っており、こうして度々魔武具整備の依頼や下請けを請け負っているのである。

 

「で? 何だ、依頼か?」

『そんな所だ、剣を一本作ってやって欲しい奴がいる』

「了解。 で、どんな剣を作ればいいんだ?」

『頑丈なやつだ、使用者がうっかり砕いちまわねぇような頑丈な剣と術式を頼む』

「…………もしかして、専用器か?」

『話が早くて助かる』

 

 うへぇとした表情を浮かべるレイ。

 

『まぁ安心しろ、こっちに足運んでもらう必要はねぇからよ!』

「え、いいのか?」

『あぁ、それと依頼人が専属整備士を探してるっつーから紹介しといたぞ』

 

 上げて落とすとはこの事だろう。

 モーガンの言葉を聞いた瞬間、レイは額に青筋を浮かべた。

 

「親方、俺がそういう依頼人にはなんて言うか知ってるだろ?」

『そうか! 引き受けてくれるか!』

「お断りだッ!!!」

『依頼人は整備課(ウチ)で作ってる最高硬度の剣を一ヶ月で十本破壊した強者だ、開発頑張ってくれよ~』

 

 レイは絶句した。

 整備課で作られている最高硬度の剣と言えば、金剛石を千回切っても刃毀れしないと評判の代物である。

 専門的な知識が無ければ壊す事は疎かヒビを入れる事すら難しい。

 

「おいちょっと待て、何だよそのバケモンは! なおの事お断りだよ!」

『がっはっはッ! お前ならそう言うと思ったぜ! だから依頼人が到着する直前に連絡を入れた、後は任せる!』

「 ふ・ざ・け・ん・な、任せるな! もしもし、親方!? もしもーし!? 切れやがった」

 

 人の話を聞かない男である。

 

「よかったね、お仕事だよ」

「よくねぇ!」

 

 そこまで仕事をしたくないのかと、呆れ果てたジト目でレイを見つめるアリス。

 実際面倒にも程があるのだ。今すぐここから脱出する事こそレイにとっての正解に他ならなかった……が。 

 

――コンコン――

 

 無情なノック音が、レイの退路を断った。

 

「い、居留守でーす。 誰もいませんよ~」

「はーい、今出まーす」

「出るな」

「普通のお客さんの可能性も……ある?」

「ねぇよ! 疑問符つきじゃねぇか!」

 

 トテテテと足音を立てて玄関に向かうアリス。レイの意見は華麗にスルーして扉を開けた。

 

 アリスが開けた扉の向こうには二人の男女の姿。

 一人は金髪長身の爽やかな風貌の少年。

 もう一人は黒髪褐色肌で、活発そうな雰囲気が滲み出ている少女である。

 

 二人の姿を見たレイは安堵の溜息をついた。

 

「なんだ、ジャックとライラじゃねぇか」

「やぁレイ久しぶり、アリスちゃんも久しぶり」

「おひさ」

「オッスオーッス! 養成学校の時以来っスね!」

 

 少年の名前はジャック・ルイス。

 少女の名前はライラ・キャロル。

 二人共レイの学生時代の知り合いであり、現在は操獣者をしている。

 

「急にどうしたんだ、思い出話でもしに来たのか? それとも仕事の依頼か?」

「一応仕事の依頼がメインだけど、個人的には両方だね」

「まさかとは思うが、一ヶ月で剣十本もダメにしたバケモノはお前らじゃねーよな?」

「違うっス!  風評被害も甚だしいっス!」

 

 先の通信のせいで若干疑心暗鬼になっているレイが凄んで問うと、ライラは両手をバタバタさせて否定した。

 

「えーっとレイ君、お父さんから連絡来てるっスか?」

「明らかに厄介事を投げつけるような連絡なら来たぞ」

「なら話が早いっス!  剣を作って欲しいっス!」

「お前ら親子は人の話を聞く習慣を持たないのか?」

 

 腹立たしくも似た者親子である。

 レイは眉間にしわを寄せて、大きなため息をつく。

 

「はぁ~っ、で?  どっちが剣を作って欲しいんだ?」

「あぁ、作って欲しいのは僕達じゃなくてね」

「ウチの姉御が作って欲しいんスよ!  姉御ーッ、レイ君に挨拶……姉御?」

 

 後ろを振り向き「姉御」なる存在を呼ぶライラだが、彼女達の後ろには誰もいなく硬直する。

 ジャックも同様に後ろを向いたまま固まっている。

 

 しばし気まずい雰囲気が四人の間に漂った。

 

「お前ら、禁制薬物(ヤク)でもやったのか?」

「正常だよ、悲しい程に」

「姉御ォ、また迷子っスかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 膝から崩れ落ちて叫ぶライラ。この様子だと初犯ではないのだろうと、レイは心の中で同情するのだった。

 

「ジャック、剣の依頼より先に首輪とリードを作った方がいいか?」

「いや、遠慮しとくよ……そこまで酷くは無いと信じたいからね」

 

 生気の無い目でそう答えるジャック。流石のレイも不憫に感じた。

 

 

 さて、依頼人が居なくては話が始まらない。かといって彼らを追い返すのも後味が悪すぎると思ったレイは、一先ず二人を事務所に招き入れた。

 

「いや~、相変わらず汚いっスね~」

「ほっとけ!」

 

 前述の通り、事務所の中は工具やら書類やらが散乱している地獄絵図。

 とは言え、流石に応接用の机と椅子は綺麗にしてある(アリスが)。

 

 とりあえずジャックとライラを座らせるレイ。

 普通なら級友との思い出話にでも花を咲かせるのだろうが、二人が身につけているそれが目に入った瞬間レイの中でその気は蒸発した。

 ジャックは右腕に、ライラは首に巻く形で身に着けているスカーフ。

 赤を基調として炎の柄が入っているそのスカーフが何を表しているのか、レイは知っていた。

 

「レッドフレアか」

「お、レイ君ウチのチーム知ってるっスか!?」

「あぁ、噂なら聞いてるよ。 あっちこっちで派手にやってる暴れん坊チームだって」

「あはは、やっぱりそういう評価なんだね」

「でも、期待のルーキー達って……ギルドで評判」

「いやぁ~、それほどでもっス」

 

 照れるライラを尻目に、レイの中では少々どす黒い感情が渦巻いていた。

 これが夢に近づく者と、果てしなく遠い者の差なのだろうなと。

 

「でもでも! レイ君の評判も色々聞いてるっスよ!」

「嫌味か?」

「違う違う、親方さんから聞いた話だよ」

「そっス! 難しい魔武具の開発依頼を難なくこなす凄腕だって、お父さん褒めてたっス!」

 

 ライラの言っている事は真実だ。実際レイの元に来る依頼の大半は、整備課ではどうしようもない程困難な魔武具の発注ばかりである。

 どんな無茶振り発注でも完成させてきたので、レイ・クロウリーという少年は整備課の面々から若干神聖視されている節がある。

 

 確かに、レイ・クロウリーという少年に才能はあった。

 だがそこに、彼が望んで止まない夢に向かう為の力は存在しなかった。

 

「作る才能だけあっても……意味ねーんだよ……」

 

 小さな声で吐き捨てるレイ。

 レイを除く三人は皆、彼が抱える事情を知っている数少ない存在であった。故に、思わず心の闇をこぼしてしまったレイに対して何も言う事が出来なかった。

 

 少しの静寂が場を支配する。

 その静寂を破ったのはジャックだった。

 

「なぁレイ、剣の依頼とは別に頼みがあるんだ」

「専属整備士のお誘いならお断りだぞ」

 

 モーガンから話を聞いていたレイは、ジャックの誘いをバッサリと切り捨てた。

 それを想定していたのか、ジャックとライラはどこか納得を含んだ苦笑いをする。

 

 その時であった、何処からか着信音が鳴り響いてきた。

 音の発生源はライラのグリモリーダーだ。

 疑問の表情を浮かべながら、ライラはグリモリーダーの十字架を操作して通信に出る。

 

「もしもしライラっス」

『あ、ライラぁ~、今どこー!?』

「姉御!? もうとっくに目的地に着いてるっスよ!』

『マジで、整備士勧誘できた!?』

「既に勧誘失敗済みっス」

『そんなぁぁ』

「てか姉御は今どこにいるんスか?」

『えっとねー…………森!!!』

「全然分かんないっス」

 

 あぁ、これは本当に迷子なのだなぁ。

 

「ジャック、レッド・フレアの奴は全員そのスカーフを着けてるって認識で間違いないよな?」

「あぁ、そうだけど」

 

 それを聞ければ十分だと言うと、レイは渋々といった表情で立ち上がった。

 

「アリス、二人にお茶でも入れておいてくれ」

「いいけど、どこ行くの?」

「迷子探し」

 

 忌々しくもせっかく来てくれた依頼人に怪我をされては後味が悪い。

 そんな事を考えつつ、グリモリーダーとコンパスブラスターを身に着けて出かける準備をするレイ。

 と、その様子を疑惑の目で見るアリス。

 

「サボる?」

「客人置いてまでサボらねーよ!」

 

 前科者に信用は無かった。

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