白銀のヒーローソウル【WEB版】   作:鴨山兄助

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Page43:消えた巨影と乱入者

 灼熱の魔力刃によって切断された右腕を押さえながら悶絶する異形を横目に、フレイアはレイの元に近づく。

 

「なんかスゴいことになってるね〜。やっと街に着いたと思ったら変な霧に包まれてるし、なんかロキが大きくなって空飛んでたし……あ、レイ達は大丈夫だった?」

「俺達は大丈夫だけど……あの、フレイア?」

「て言うかこの霧、なんか色々混ざってない? 変な匂いするんだけど」

「それはアリスの魔法とあのバケモンが撒いた霧が混ざってるから……いやそれよりフレイア」

「てかアレもしかして幽霊!? スゴい初めて見たー!」

「オラァ!」

 

 ドゴスッ!

 幽霊を見て目を幼児のようにはしゃごうとするフレイアに、レイは容赦のない手刀を後頭部に叩きこんだ。

 

「痛ったぁぁぁ、なにすんのよ!」

「人の話を聞きやがれ脳ミソゴリラ女! 何でお前らが此処に居んだよ!?」

「あぁ~……ちょっと色々あって急遽助太刀に来ることになった」

「助太刀って、俺一応試験中なんだけど」

「レイ、それなら安心していい。僕達を此処に寄越したのは他ならないギルド長だ」

「はぁ!? ギルド長が!?」

「そうそう、それで色々と事情説明が必要なんだけど――」

 

 フレイアが振り向き異形の方を見る。

 レイ達も釣られてそちらに目をやると、先程まで聞こえていた悶絶の声は無く、異形の腕は今まさに再生を終えようとしていた。

 

「説明してる余裕、ある?」

「砂粒程も無いな」

「て言うか、ついつい勢いで腕切り落としちゃったけど、アレって敵で合ってるよね?」

「正解。しかも幽霊を出してる張本人だ!」

「じゃあ燃やしてOKね!」

 

 気合を入れる様に、フレイアは右手の籠手を左掌に叩きつける。

 それとほぼ同時に、腕の再生を終えた異形はこちらを睨みつけてきた。

 

「クッ、また邪魔者が増えたか……」

「そりゃあ、どっからどう見ても悪者なんだもん。邪魔の一つくらいさせてもらうわ」

「口の減らぬ小娘だ……」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 フレイアの返しに腹を立てたのか、異形は八つ当たり気味にダークドライバーから黒炎を放ってきた。

 碌に照準も合わさずに放たれた攻撃をフレイア達は軽々回避する。

 黒炎が着弾した地面を見て、フレイアは少しばかり冷や汗をかいた。

 

「うわぁ~、これ絶対当たったらヤバいやつじゃん」

「スレイプニル曰く、当たったら何でもかんでも消し飛ばす黒炎だとよ」

「それを撃ってきたって事は、遠慮しなくていい敵ってことね!」

 

 そう言うとフレイアはペンシルブレードを構えて、一気に異形へと斬りかかって行った。

 

「あのバカ、黒炎に当たったらマズいんだから距離詰めるなよ」

「フレイアならそのくらい大丈夫さ。それよりレイ」

 

 一瞬気が付かなかった。

 だが声が脳に届いたと同時に、レイはジャックから静かに放たれているソレを確かに感じ取った。

 

「アイツ、生け捕りでも問題ないよね?」

「お、おう、無闇な殺生は避けた方がいいしな……」

「それだけ聞ければ十分」

 

 ジャックが静かに身体から漏らしていたのは殺気。

 普段の彼からは想像もつかない様子に、思わずレイは圧倒されてしまう。

 腰に携えていたペンシルブレードを抜き、ジャックは異形へと駆け出した。

 

「どうしたんだジャックの奴」

『随分と荒々しい殺気だったな。飲まれて冷静さを失わなければ良いのだが……』

 

 どこか危うさを感じたスレイプニルが苦言を口にするが、ジャックには届いていない。

 

 

「どりゃァァァァァァァ!!!」

 

 ペンシルブレードの刀身に超高温の炎を纏わせてフレイアは異形に斬りかかる。

 が、異形はその見てくれに反した俊敏な動きで、フレイアの剣撃を躱した。

 

「先程は不覚をとったが、直情的な攻撃と分かれば造作ないものよ」

 

 何度も異形に斬りかかるフレイア。

 だがその悉くを、異形はヒラリヒラリと避けてしまう。

 

「全く、あの御方の為に一刻も早くハグレを探さねばならぬと言うに……私には貴様のような小娘と戯れている暇などないのだ」

「(ハグレ? 探す?)」

 

 異形が口にしたハグレという言葉が気になったレイだが、それもつかの間。

 瞬く暇もなく、異形はダークドライバーの先端をフレイアに向けた。

 

 黒炎が形成されていくのに気が付いたフレイアは、咄嗟に剣を黒炎の弾道上に構えた。

 そして構えると同時に至近距離から放たれる黒炎。

 強力な魔力の炎を纏っている刀身は、ほんの一瞬だけ黒炎を受け止めた。

 

「どりゃ!!!」

 

 その一瞬があれば十分。

 フレイアは力任せに剣を振り上げ、黒煙の弾道を上空に逸らした。

 

 バックステップをし、一度異形から距離をとるフレイア。

 

「あッぶなー、また剣壊れるかと思った」

「軌道を逸らしたのは見事だ。だが二度同じことが出来るかな?」

「うーん、二回目はお断りしたいから……プランBで。ジャック!」

「縛り上げろ、グレイプニール!」

 

 フレイアがそう言うと、ダークドライバーを構えていた異形の腕を無数の鎖が縛り上げた。

 

「何!?」

「腕を縛られたらお得意の黒炎も打てないだろ?」

 

 異形の腕を囲むように複数展開されている青色の魔法陣と、そこから放たれている無数の鎖。

 ジャックが固有魔法で生成した鎖によって、異形の両腕はフレイアに向けられぬよう絡めとられていた。

 

「クッ、ならば!」

「させないよ」

 

 異形は下半身である蛇の尾を使ってダークドライバーを持ち換えようとする。

 だが尾が触れるよりも早く、ジャックの射出した一本の鎖によってダークドライバーは弾き飛ばされてしまった。

 

「ジャック、ナイス!」

「貴様ァ!」

「さぁ、色々と白状してもらおうか。お前()には聞きたい事が沢山あるんだ」

 

 有無を言わせぬとばかりに圧の強い声色で詰め寄るジャック。

 何時もとは違う様子に、フレイアも少し驚いてしまう。

 

「揃いも揃って生意気な餓鬼共がぁ!」

 

 異形は怒声を上げると、縛られていない手首の動きを使って、未だ手に持っていた鐘を鳴らした。

 鐘の音はオリーブとマリーが交戦していた幽霊達に届き、幽霊達の標的をフレイアとジャックに変更させる。

 

「魂を狩りとってくれるわ!」

 

 幽霊は大鎌を構え直して、一斉にフレイアとジャックに襲い掛かる。

 

「フレイア、ジャック、避けろ!」

 

 レイの叫びに反応して、フレイアとジャックは振り下ろされる大鎌を回避する。

 その直後に鳴り響く幾つかの銃声。

 レイがコンパスブラスターで幽霊を撃ち抜いた音だ。

 

「うわっ!? アイツ幽霊も操れんの!?」

「気を付けろ! あの大鎌にやられたら魂を抜き取られるぞ!」

「ちょっとそれ冗談にもならないんだけど!」

 

 魂を抜き取られると聞いて流石に震えたのか、フレイアは周辺を浮遊している幽霊を注意し始める。

 それはジャックも同じだった。

 だがジャックが幽霊に気を引かれた一瞬、両腕を縛っていた鎖が緩んでしっまった事を異形は逃さなかった。

 

「ふん!」

「しまった!」

 

 鎖を強引に引きちぎって脱出する異形。

 追撃を防ぐために再び鐘を鳴らして、幽霊に攻撃をさせる。

 

 大鎌を勢いよく振る幽霊達。

 フレイアとジャックは剣で応戦しようとするも、悉くすり抜けてしまう。

 

「ウソぉ!?」

「物理攻撃は効かないのか」

「ジャック、フレイア! 魔力(インク)を使え! 魔力攻撃なら通用する」

「つまり燃やせって事ね」

 

 レイの助言を受けたフレイアは右手の籠手に炎を溜め込む。

 何体かの幽霊を自身の近くに惹きつけたフレイアはイフリートの頭部を模した籠手の口を開き、超高温の火炎を幽霊相手に解き放った。

 

 魔力で作られた炎は魔力の塊である幽霊の身体に引火し、次々と幽霊を爆散させていく。

 だがそれだけでは幽霊の攻撃は終わらない。

 治まる爆炎の向こうから次の幽霊が大鎌を構えて攻撃を仕掛けてくる。

 

「もー、しつこいなー!」

「この前のボーツよりはマシだけど、こうも数が多いとね」

 

 幽霊を焼き払いながら愚痴を零すフレイア。

 ジャックも固有魔法で生成した鎖に魔力を纏わせて幽霊を貫いていくが、一向に数が減る気配がない。

 

「クッソ、次から次へと」

『恐らく我々を足止めするつもりなのだろうな』

 

 コンパスブラスターの引き金を引きながら、レイは歯ぎしりをする。

 一体一体は弱くとも、高密度で襲い掛かられてはまともに身動きが取れない。

 

「ふん、精々そこで戯れていろ」

 

 完全に幽霊に気を取られている三人を尻目に、異形は悠々と転げ落ちたダークドライバーを拾いにいく。

 地面に鎮座するダークドライバーに、異形の指が触れようとしたその瞬間――

 

――弾ッ!――

 

 一発の魔力弾が飛来し、ダークドライバーを弾き飛ばした。

 

「何!?」

「わざわざ幽霊を離してくださって、感謝いたしますわ」

「これでようやく動けます!」

 

 異形が睨みつける先、そこには大量の幽霊から解放されたマリーとオリーブの姿があった。

 

「ぐぬぬ」

 

 忌々しそうに歯軋りをしながら、異形は弾き飛ばされたダークドライバーの元へと駆け始める。

 

「させませんわ!」

 

 マリーは手に持ったクーゲルとシュライバーを使って何発もの魔力弾を放つ。

 だがその何れも異形には当たらない。

 

「ハハハ、何処を狙っている!」

「とりゃぁぁぁ!」

 

 マリーの魔力弾が外れた事を嘲笑する異形。

 だがその隙をつくように、オリーブは重量を上げたイレイザーパウンドを異形に振り下ろした。

 勢いよく異形に迫る大槌。

 だが異形は俊敏な動きをもって、その一撃を躱した。

 

「その程度の攻撃、避けられぬとでも思ったか!」

「……避けましたね?」

 

 仮面の下でオリーブは小さく微笑む。

 異形が回避したその先、そこにはマリーの固有魔法で生成された魔水球(スフィア)があった。

 

「失礼。そちらは既にわたくしの射程範囲ですわ」

「なんだとォ!?」

 

 気づいた時には時すでに遅く、異形はマリーによって設置されていた魔水球にその身体を接触させてしまった。

 

「噛み付きなさい、ヴァッサー・ファング!」

 

 触れられると同時に弾けた魔水球は、巨大なトラバサミの形へと変化し、異形の身体に深く噛み付いた。

 

「グヌぅぅぅ! これしきの事ォ!」

 

 体表の鱗が防いでいるとはいえ、水の牙は僅かに身体に刺さり込んでいる。

 その屈辱に異形は顔を赤くしながら、力任せに鐘を鳴らした。

 

 今までにない大きな音量。

 周囲の建物の影から、鐘の音に引き寄せられた幽霊が大量に広場に押し寄せてきた。

 

「えぇぇぇ!? まだいたんですかー!?」

「念を入れて半分を影に隠しておいて正解だったわ」

 

 異形が鳴らす鐘の音に従って、幽霊達はマリーとオリーブに襲い掛かる。

 

「もぉー、またですの!」

「ひゃわ!? これじゃあまたさっきと同じですよー!」

 

 再び襲い掛かる幽霊を迎え撃つことになったマリーとオリーブ。

 先程と同じく数が多く、幽霊の相手に掛かりっきりの状態に陥っている。

 

 広場にいた五人全員が幽霊の相手をする事になった隙をみて、異形は今度こそダークドライバーを拾い上げた。

 

「全く、手こずらせてくれる童共だ」

 

 異形はダークドライバーをを強く握り締めて、その先端に黒炎を集め始める。

 

「だがそれもここまで、じっくり一人ずつ引導を渡してくれる」

「へぇ、六人まとめて相手にできんの?」

 

 業火一閃。

 周囲に纏わっていた幽霊を炎で一掃したフレイアが異形に問いかける。

 

「六人? 此処に居るのは五人であろう」

「本当は七人なんだけど、ちょうど今一人来たみたい」

 

 視線を上に向けながら話すフレイアを訝しげに見る異形。

 だがその直後、月の光で照らされていた広場を大きな影が覆ってきた。

 

「あれって」

 

 思わず見上げたレイが影の主を視認する。

 月光を遮っていたのは巨大な金属の翼を広げた黄色の鳥型魔獣。

 全身が金属化しているため一瞬分からなかったが、魔獣から聞こえた声でその正体が分かった。

 

「クルララララララララララ!」

『レイ君ー! 姉御ー! 大丈夫っスかー!?』

「その声、ライラか!」

 

 巨大な鳥型魔獣から聞こえたのは甲高い鳴き声とライラの声。

 広場に影を落としているのは、ライラと融合して鎧装獣と化したガルーダであった。

 

「大丈夫……って言いたいところなんだけど、幽霊だらけでかなり面倒な状況」

『じゃあまとめて雷落とせばOKっスね!』

「え、雷って、ライラお前」

『大丈夫っス! 幽霊の対処法はアーちゃんから聞いたっス!』

「いやそうじゃなくて!」

 

 大きく広げられたガルーダの翼に魔力を内包した雷が集まっていく。

 

「はいじゃあみんな上手く避けてねー」

「おいバカやめろォォォ!!!」

『まとめて吹っ飛ぶっス! レイニー・サンダー!』

 

 軽い感じで無茶ぶりをするフレイアにレイは仮面の下で顔面蒼白となる。

 ライラが魔法名を宣言すると同時に、ガルーダの翼に集まっていた雷が無数の針となって広場に降り注いだ。

 雨あられと降り注ぎ、幽霊の身体を貫いていく雷。

 

「きゃぁぁぁぁ!?」

「ひゃわわわわわ!?」

「おおっと」

「よっと。これ案外良いトレーニングなのよね~」

「こんな狭い場所で雷なんか落としてんじゃねぇぇぇ! 馬鹿忍者ァァァァ!!!」

 

 取り囲んで攻撃を仕掛けていた幽霊に雷を落としたので、当の幽霊を撃破出来たは良いのだが……地上にいるレイ達も盛大に巻き込んでいた。

 マリーとオリーブは悲鳴を上げながら雷を避け、ジャックは冷静に回避する。

 喜々として雷避けを楽しむフレイアに、怒声を上げながら回避するレイ。

 実に混沌とした光景が広場に広がっていた。

 

「クッ、おのれ!」

 

 やむなく雷を回避する異形。

 その目の前で幽霊達は次々と雷に撃たれて消滅していった。

 

 一通りの雷が落ち終わった後、焦げ臭いにおいを出す地面に黄色の魔装に身を包んだ操獣者が降り立つ。

 ガルーダとの融合を解除したライラだ。

 

「ふぅ、大掃除完了っ――」

「オラァ!」

 

 ゴチンと大きな音を立てながら、レイはライラの後頭部を殴りつける。

 

「殺す気かお前!」

「いやぁ~ゴメンっス。上からの攻撃だとあれが一番手っ取り早いんス」

「限度があるわ限度が!」

 

 レイがライラの頭を両拳でグリグリしている中、スレイプニルが周囲の状況を確認する。

 

『敵の数は幽霊が五体と、あのゲーティアの者が一人か』

 

 改めて異形の方に目をやる一同。

 幽霊を一掃されたのが相当気に障ったのか、憎々し気にレイ達を睨みつけていた。

 

「童ァ、生きて帰れると思うなよ」

「悪いけど、こっちは形勢逆転したつもりだぜ」

「減らず口を!」

 

 レイの挑発にますます苛立つ異形。

 レイは獣魂栞を取り出し、コンパスブラスターに挿入した。

 

「インクチャージ!」

 

 コンパスブラスターの銃口を異形に向けるレイ。

 獣魂栞の力で大量の魔力が供給され、コンパスブラスターの中で強力な魔力弾が生成されていく。

 

「一気にケリつけてやる」

 

 致命傷は避けるように狙いを合わせて、レイはコンパスブラスターの引き金を引く。

 異形目掛けて猛スピードで駆け抜ける魔力弾。レイが若干加減をしているので致命傷にこそならないが、着弾すれば無事ではすまない威力だ。

 刻一刻と異形に迫る魔力弾。

 

 だがその魔力弾が、異形に到達する事はなかった。

 

「はい、邪魔~♪」

 

 突如レイと異形の間に割り込んできたのは、ゴシックロリータの衣服に身を包んだ一人の少女であった。

 自分に迫り来る魔力弾をチラリと見ると、少女は躊躇うことなく魔力弾の弾道上に右手を差し出した。すると――

 

――パァァン――

 

 乾いた音を立てて()()する魔力弾。

 素手で防いだなどの次元ではない。少女は触れた瞬間に魔力弾を消し飛ばしてしまったのだ。

 

 突然の出来事にレイだけではなくチームの面々唖然とする。

 

「こんばんは~、蛇のおじ様」

「パイモン、何をしに来た」

「んもぉ、せっかく助けてあげたのにそんなに睨むなんて~、パイモンちゃん悲しい」

「戯れるな性悪娘。私に何の用だ!」

「要件はいろいろ♪ だからパイモンちゃん、おじ様の家でゆっくりお話したいなーって」

 

 ピンクのツインテールを揺らしながら、あざとく振る舞うパイモン。

 見た目こそ普通の少女だが、その得体の知れない気配にレイは強い警戒を覚えていた。

 

「オイ」

「うにゅ? もしかしてパイモンちゃんにご用事?」

「何者だ、テメェ」

「うーん……通りすがりの若年労働者?」

「ふざけてんのか?」

「ふざけてませんー。だいたい真実ですー」

 

 不貞腐れたように頬を膨らませるパイモン。

 

「セイラムでゴミ処理の仕事を終えたと思ったら、休む間もなく蛇のおじ様を迎えに行かなきゃなんて……このままじゃパイモンちゃん、行き遅れのお局ウーマンになっちゃう~」

「ゴミ処理……?」

 

 自己陶酔するかのように茶化すように愚痴を吐くパイモン。

 だがレイはパイモンの口から出た「セイラム」と「ゴミ処理」のワードが妙に気になった。

 

「お前、セイラムで何したんだ」

「大したことはしてないよ~。ゴミ処理兼ディナーに行っただけ」

 

 そこまで言うとパイモンはハッと何かに気づいた様な顔でレイ達を見た。

 

「そう言えば、アイツを地下牢に落としたのって貴方達なんだっけ」

「地下牢に、落とす?」

「……ッ、まさか!」

 

 満面の笑みを浮かべるパイモンに疑問符を浮かべるレイ。

 だがパイモンの言葉の意味を理解してしまったフレイアは、急激に血の気が引いて行くのを感じていた。

 

「意外と美味しかったですよ。あのキースっておじ様♪」

「何を……言ってるんだ」

 

 パイモンの発した言葉が悪い方向に繋がっていく。

 だがそんな筈は無い。ギルドの地下牢、その最深部は世界有数の警備態勢だ。

 レイは必死に否定の言葉を浮かべながらも、心臓の音が大きくなっているのを感じていた。

 

「アンタ、何か知ってるの? 地下牢でキースが殺された事件のこと」

 

 悪い意味での肯定は、フレイアの口から発せられた。

 

「殺された……オイ、それどういう事だよ!?」

「今朝、キースの奴が地下牢で変死体で見つかったの。看守の誰にも気づかれず内臓を抜き取られてね!」

「嘘だろおい」

 

 色々な感情がグルグルとかき混ざって、一気にレイの中に押し寄せてくる。

 許容量は容易に超えてしまい、その意味を理解するのにレイは数瞬かかった。

 

「で、どうなのよ? まさかアンタが殺したとも思えないんだけど?」

「そのまさかなんだけどな~。パイモンちゃん流の超可愛いグルメレポートを交えて教えてあげたいんだけどぉ……残念ながら、お別れの時間でーす♪ ほらおじ様、行くよ」

「何を言っておるパイモン。奴らを始末する方が先決――」

 

 パイモンに腕を掴まれた異形が抗議をするが、それを全て言い終える事はなかった。

 

『ブゥルオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』

 

 荒々しい魔獣の咆哮がバミューダシティ全域に響き渡る。

 だがそれは奇妙な音であった。咆哮の振動は広場にいるレイ達にも伝わる程大きなものであったが、肝心の音は微かに耳に届いてくるだけなのだ。

 だが例外もいる。マリーとスレイプニルだ。

 

「これは……ローレライと同じ海棲魔獣の音?」

『そのようだな。音が割れ過ぎていて、言葉としての体を成してはいないが……』

 

 海棲魔獣の音を聞き取れるマリー達には、この魔獣の咆哮がハッキリと聞こえていた。

 

 突然響いてきた咆哮に、広場にいる全員が驚く。

 だがそれは咆哮に対してだけではなく、僅かに残っていた幽霊に起きた異変に倒してもだった。

 

 咆哮が広場に届いたと同時に、残っていた五体の幽霊は大鎌を落として苦しみ始めたのだ。

 

「ほらね、戻らなきゃでしょ♪」

 

 苦しむ幽霊を指さして、パイモンは異形に語りかける。

 幽霊に起きた異変の原因を重々理解している異形は、深いため息を一つついて鐘を軽く鳴らした。

 

 鐘の音が幽霊に届くと、幽霊の身体は一気に霧散する。

 その中から出て来た小さな光の玉が、吸い込まれるように異形の持つ鐘の中に入っていった。

 

「皆殺しにしてやりたい所だが、どうもそうはいかなくなった様だ」

「そゆこと」

「彼の王が凝りもせずに抵抗をし始めた。最早貴様ら童に構っている暇はない」

「なーのーでー♪ 残念ながら私達とはここでお別れでーす」

 

 そう言うとパイモンは、どこからか取り出したダークドライバーを手に握り、横薙ぎに振る。

 するとダークドライバーの先端から大量の煙幕が吐き出され、広場を被いつくした。

 

「ゲホゲホ、煙いっス」

「目に沁みます~」

「何ですのこの煙。魔装越しでも視界が遮られてますわ」

「ウゲー、鼻が潰れるー」

 

「バイバーイ♪」

 

 チームの面々が煙に視界を奪われている隙に、パイモンは異形を連れて意気揚々とその場を去って行った。

 

「逃がすかァ!」

 

 他の仲間が煙の影響でパイモン達を完全に見失っている中、レイは武闘王波で強化された聴覚を元に、パイモン達を追い始めた。

 

 

 

 

 

「ガルーダ、煙を吹き飛ばすっス!」

 

 レイがパイモン達を追って広場を去った直後。

 ライラは一度変身を解除して、ガルーダに広場を被う煙幕を払わせた。

 

「ア”ァ”、鼻がヒリヒリする」

「オリーブさんは大丈夫ですか?」

「まだ目が沁みる~」

 

 ガルーダが翼を羽ばたかせて煙幕を吹き飛ばしたまでは良いのだが、フレイア達は未だに全快できずにいた。

 一先ず動けるジャックとライラが周囲を見渡す。

 

 異形やパイモン、幽霊の姿は影も形もなくなっていた。

 だがそれに加えて、レイの姿が無い事にジャックは気が付いた。

 

「レイは何処に行ったんだ?」

「ズビビー。多分あのパイモンって奴らを追ってったと思う。足音が聞こえたし」

「ではわたくし達もレイさんの後を――」

「ちょ、ちょっと待つっス。アイツらが幽霊の親玉って事は、アイツらもしかしなくても海の方に逃げてないっスか?」

「まぁ、順当に考えればそうなるだろうね」

 

 ジャックに肯定された瞬間、ライラが急激に焦り始めた。

 

「マズいっス。レイ君一人で海の方はマズいっス!」

「えっと、何かあったんですか?」

 

 オリーブの問に、ライラは顔を若干青くさせながらこう答えた。

 

「ここに来る直前にガルーダの目を通して見ちゃったんス。海の方に、ボロボロなのに滅茶苦茶大きい船から幽霊が湧き出るところっス!」

 

 

 

 

 

 

 建物の屋根を飛び移りながら、レイはパイモンと異形を追いかける。

 広場以外に煙幕は張られていなかったので、広場を脱した後は容易に見つける事ができた。

 

「待ちやがれ!」

「しつこい童だ」

「おじ様はそのまま船に行ってて。あの男の子は私が構ってアゲルから」

 

 そう言うとパイモンはくるりと身体を反転させ、後ろ走りの状態になりながらダークドライバーを構える。

 ダークドライバーの先端に小さな黒炎を幾つも生成すると、パイモンはそれらを追いかけてくるレイに向けて解き放った。

 

「燃えちゃえバーン!」

 

 先程まで異形が撃っていた黒炎と比べると小さなものだが、何発も同時に放たれた事で逃げ道が少なくなっていた。

 

「(だけどあの小ささならッ!)」

 

 レイは足を止める事なく、コンパスブラスターに獣魂栞を挿入する。

 

「インクチャージ!」

 

 迫り来る黒炎。

 だがレイは落ち着いてコンパスブラスターを逆手に持ち換え、頭の中で術式を瞬時に構築した。

 

偽典一閃(ぎてんいっせん)!」

 

 巨大な魔力刃がコンパスブラスターから展開される。

 最後の術式を省いた不完全な必殺技。

 横に並んで飛んでくる黒炎を相殺する為に、レイはあえて射程距離の長い偽典一閃を選んだ。

 

 コンパスブラスターを横に薙ぐと、巨大な魔力刃が飛来する黒炎と衝突する。

 魔力刃に斬りつけられた黒炎は瞬く間に相殺されていった。

 

「あらら、打ち消されちゃった」

「次はお前らに叩きこむぞ!」

「もー、しつこい男の子ってパイモンちゃん嫌ーい。ストーカー予備軍って呼んじゃうぞ」

 

 「誰がストーカーだ」とレイが内心悪態をついていると、風を連れて、すぐ横に大きな魔獣の影が現れた。

 鎧装獣化したロキとアリスだ。

 

「キュッキュイー」

『レイ』

「アリスか、ちょうど良い。アイツら捕まえるの手伝ってく――」

「隙ありだゾ♪」

 

 一瞬出来た隙をついて、パイモンは先程よりも二回り大きな黒炎をレイに向けて撃った。

 流石にこの大きさを相殺する事はできない。

 レイは咄嗟に横へと避けたのだが――

 

「あッ」

 

 現在地は建物の屋根の上。

 真横に跳んだ先には地面は無く……。

 

「あぁぁぁぁぁ!?」

 

 レイはそのまま街道へと落下していった。

 

「今度こそバイバーイ」

『レイ!』

「キュー!」

 

 ロキは急速に滑空し、地面に叩きつけられる寸ででレイを掴まえた。

 レイの両足を掴まえたまま、ロキは再び空へと上る。

 

「あっぶね」

『レイ、大丈夫?』

「俺は大丈夫だけど、アイツらは?」

『残念だが、逃げられてしまったようだ。何処にも姿が見えん』

 

 レイも周辺を見渡すが、何処にもパイモン達の姿はない。

 先程の一瞬で完全に逃げ切られてしまったようだ。

 

「逃げ足早すぎだろ」

『逃げたと言うより、消えた?』

「どっちも同じだっつーの」

『……レイ、海を見ろ』

 

 仮面の下で顔をしかめながらも、レイはスレイプニルに言われたままに海に目をやる。

 ロキに掴まれたままなので上下は反転しているが、空を飛んでいるおかげで遮蔽物もなく海を見渡す事ができた。

 

 眼に入るのはミントグリーンの霧が薄く待っている街並みと、港に密集している船たち。

 そして――

 

「……なんだよ、アレ……」

 

 それは、港から随分離れた沖の方に佇んでいた。

 遠目からでも全身の形が捉えられる程の巨大な船。

 ガレオン船の様な形はしているが、その外見は非常に異質であった。

 船体に使われている木材はあちこち朽ちており、帆はその役目を果たせないと素人目で見ても理解できる程にボロボロ。

 とても航海に使えるような代物ではない。それどころか次の瞬間に沈没しても不思議に思うことはないだろう。

 

『レイ、あれってもしかして』

「いかにも……だよなぁ……」

 

 念のため視力強化をして巨大船を見るレイ。

 やはりどう見ても航海ができそうな代物ではない。それどころか、砕けた船体のすき間から先程まで戦っていた幽霊達が顔を覗かせていた。

 

『幽霊船だな』

「だな……ところでさスレイプニル。あの幽霊船の後ろ、なんか裂けてね?」

 

 本命の幽霊船を見つけたは良いのだが、そのあまりの姿にレイ達は唖然となる。

 さらによくよく見てみると、幽霊船の後ろの空間に大きな裂け目が出来ていた。

 縦一線に走る裂け目に、幽霊船はその巨体を滑り込ませていく。

 

「なぁ、空間ってあんな風に裂けるもんだっけ?」

『裂けてるんだから、裂けるんだと思う』

「キュキュウ」

 

 幽霊船はズルズルと吸い込まれるように裂け目の中に入って行き、やがて一分と経たずにその姿を海上から消してしまった。

 

 幽霊船が消えた夜の海をレイ達はただ眺めつづける。

 

『レイ、アレをどうにかしなくちゃいけないんだね』

「らしいな」

「ギュゥゥゥ」

「本当に誰だよ。これをランクDの依頼とか言った奴」

 

 力なくそう零すレイ。

 だが返ってくるのは、波と潮風の音ばかりであった。

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