白銀のヒーローソウル【WEB版】   作:鴨山兄助

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Page44:後味が悪い

 空間の裂け目に幽霊船が消えた後、ロキに足を掴まれたままレイは広場に戻って来た。

 全員変身を解除して街の様子を軽く見て回る。

 街の住民を昏睡させていた霧は完全に消え去っており、その為か眠っていた住民は次々と目を覚ましていた。

 

 一先ずの問題が収まった事を確認したレイ達は宿屋に戻り、フレイア・ジャック・ライラの三人から諸々の話を聞く事となったのだが……

 

「…………」

「あ、あの~、レイ君?」

 

 宿屋の食堂の一角を借りている一同。

 一通りの事情を聞いたレイは無言でどす黒いオーラを放っていた。

 オリーブも思わず心配げな声をかけてしまう。

 

「えーっと、話を纏めるぞ……俺が受けた依頼は実は難易度Dでは無かったと……」

「そっス」

「何処かのアホの手違いでそうなってたのであって、実は難易度Aだったと……」

「そうだね」

「で、それに気づいたギルド長が大慌てでフレイア達をこっちに寄越したと……」

「そういう事。頼もしい助っ人でしょー」

 

 改めて事情を確認し終えると、レイはプルプルと小刻みに震え始めた。

 

「えっと……レイさん、大丈夫ですか?」

「…………あ」

「あ?」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんのクソジジイィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!! なんつー依頼を寄越しやがんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「レイ、夜だから落ち着く」

「落ち着いてられっか!」

 

 怒りのあまり「ガルルル」と獣のような怒声を張り上げるレイ。

 あまりに近所迷惑なのでアリスはナイフを突きつけてレイを静まらせた。

 

「落ち着いた?」

「落ち着かざるをえなくなった」

 

 だがおかげである程度頭が冷えたレイ。

 テーブルに置いてあったジュースを一気に飲み干してから着席する。

 

「とりあえずお前らが来た事情は分かった」

「分かってくれたっスか」

「だけどジャック、お前はマジで何で来た?」

「え、僕!?」

 

 突然名指しされたジャックが困惑の表情を浮かべていると、レイは手に持ったグラスを勢いよくテーブルに叩きつけた。

 

「もう一回聞くぞ、何で来た?」

「えっと、一応理由はさっき言った通りなんだけど」

 

 先程とは毛色の異なる怒りの炎を燃やすレイを見て、マリーはひそひそとアリスに語りかける。

 

「アリスさん、レイさん随分とお怒りのようですが」

「そうだね」

「これはアレでしょうか? 男性が自分だけの所謂ハーレム状態を阻止されたからでしょうか?」

「違う。絶対もっと下らない理由」

「キュキュ~」

 

 ロキさえもが、やれやれと首を横に振る。

 

 気づけば再び怒りで身体を震わせ始めたレイ。

 

「お前が、お前が来たら……」

「レ、レイ君。そんなにジャック君を責めなくても――」

「お前が来たら、誰がラジオの録音をするんだよォォォォォォ!!!」

「ほへ? ラジオ?」

 

 レイを優しく嗜めようとしたオリーブだが、当のレイの口から発せられた意外な単語に少々面食らった。

 

「レイ……とりあえず落ち着いて欲しいんだけど」

「俺言ったよな? セイラムの外じゃ聞けないから、広報部のラジオ録音しといてくれってあれほど言ったよな!?」

「そ、そうだね。でも今回は緊急事態だったから」

「ハ! もしや誰かに代わりの録音を頼んだのか!? そうだよな、そうなんだよなジャック!?」

「…………ごめん」

「グッバイ今日のナディアちゃぁぁぁん!」

 

 未だかつてない悲しみの声を上げて号泣するレイ。

 広報部のラジオは全て必ずチェックしておきたいという、悲しきドルオタの咆哮である。

 キースとの戦いでもレイはこれほど泣く事はなかったので、フレイア達は普通に引いていた。

 

「え~っとアリス、話が進まないからレイを黙らせてもらっていい?」

「言われなくても」

「ギュ」

 

 流石のフレイアもうるさく感じたので、最もレイを熟知する者に鎮静を頼んでしまう。

 アリスはナイフの柄で思いっきりレイの頭を殴りつけた。

 ついでにロキもレイの指に噛み付いた。

 

 

「悪い、少し取り乱した」

「あれは少しの範疇なんスか?」

「レイ君……とりあえず頭と指の血、拭こう」

 

 何食わぬ顔で話を進めようとするレイだが、額から流れる血をオリーブに拭いてもらっている姿はあまりにも格好がついていない。

 

「で、ジジイはなんだって?」

「事が事だから、依頼を降りて良いって言ってたっス」

「その場合、代わりの試験用依頼を用意するとギルド長から伝言を預かってきてるよ。一応今受けている依頼をそのまま続けても構わないとも言っていたけど……」

「レイ、どうする?」

 

 レイに判断を仰ぐアリス。

 無難に考えるならば、ここは依頼を下りてセイラムに戻るべきなのだろう。

 契約魔獣の格が高いとはいえ、所詮はレイは駆け出し未満の操獣者。

 通常は大規模チームが協力して解決するようなランクAの依頼。操獣者となって日の浅いレイには荷が重すぎる事は明白であった。

 

「……アリス達は先にセイラムに戻っててくれ。俺はしばらく此処に残る」

「え、レイさん!?」

「みんなは俺が依頼を降りた事をギルド長に伝えてくれ。引継ぎのチームが来るまで、俺はバミューダに残って幽霊とかの相手をする」

「レイ君、まさか一人でやる気ですか!?」

「当然。元々これは俺が受けた認定試験だからな。オリーブやマリー達まで付き合わせる訳にはいかない」

「レイ、降りる気あるの?」

「……後釜が来たら降りるさ」

 

 アリスの懐疑の目線から全力で顔を逸らしつつレイは答える。

 

「つまりギリギリまでは降りる気はない、と。レイ解ってるとは思うけど――」

「ランクAをつけられている時点で一人で解決できる内容じゃあない。そんな事は重々承知さ」

「だったら大人しく身を引いた方が賢明だと、僕は思うけどね」

「……後味悪いじゃん」

 

 拗ねた子供の様に、目線を逸らして小さな声で呟くレイ。

 その脳裏には今日一日で出会った街の人々の姿が映し出されていた。

 幽霊騒動や暴走魔獣によって苦しむ人々。特に親元から離れて暮らす子ども達の姿は何度もレイの中で思い返されていた。

 

「一回首突っ込んで色々見ちまったのに、何もせずに帰ったら後味悪いだろ」

「レイ……」

 

 レイの意志を受け止め、それ以上否定的な言葉を出す事を辞めたジャック。

 一方フレイアはレイの本音を聞いた途端に、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 

「なんだよフレイア、その顔は」

「ん? いやいや、レイならそう言うだろうな~って予想が当たっただけだから」

「お泊りセット持って来てて正解だったっスね」

 

 連れ戻すだけにしては、やたらと大きなカバンを持って来ていたフレイア達。

 その理由が解った瞬間、レイの顔は真っ赤に染まってしまった。

 

「て、ちょっと待て。お前らも此処に残るのかよ」

「うん残るよ」

「依頼の手助けに関しては、レイ君は心配ご無用っス。万が一依頼を続けるって言われた時は手助けして良いってギルド長が言ってたっス」

「勿論、レイが主体で動くことが条件だけどね」

 

 色々と見透かされていた事で、レイは恥ずかしさを感じながらも複雑な表情を浮かべる。

 

「ジジイにはお見通しかよ……」

「そういう事でしたら、わたくしも引き続きお手伝いいたしますわ」

「うん。それに私達も放っておけないです」

「まぁレイが残るならアリスも残るよ。どーせ無茶するんだし」

「お目付け役め……」

 

 だが良かったとレイは内心ホッとする。

 少なくとも一人ではない、それだけでもレイには心強く感じた。

 

「それでさレイ……これってどういう依頼?」

「……何も聞いてなかったのか」

「うん。幽霊船が出てるってくらいしか聞いてない」

 

 フレイアだけでなく、ジャックとライラも大筋しか聞かされていないようなので、レイは三人に依頼の詳細とここまでの調査内容を伝えた。

 

「――で、あの蛇野郎と戦っていたらお前らが乱入してきたわけだ」

「うんうんなるほど。だいたいは解った」

「ホントか~?」

「勿論。あの化物蛇をぶっ倒して幽霊船も倒せばいいんでしょ」

「極端に言えばな」

「なら大丈夫! 化物蛇はみんなで協力すれば勝てると思うし、デッカい幽霊船も何とかなるでしょ!」

 

 えらく自信満々に語るフレイアにレイは若干懐疑的な目を向ける。

 

「それにデカブツ相手だったら奥の手もあるし」

「姉御、ダメっスよ」

「え?」

「フレイア、僕も嫌だからね」

「いや、アタシまだ何も」

「フレイアさん? 二回目はお断りと言ったはずですが?」

「いやだから奥の手、奥の手ね」

 

 「奥の手」とやらを口にした瞬間、ライラ達に詰め寄られて断固拒否の集中砲火をあびるフレイア。流石に少々たじたじ気味になっている。

 だがフレイアがここまで自信満々に言う奥の手とは何なのか、レイは純粋に好奇心が湧いたが……

 

「オリーブ、大丈夫?」

「だだだ大丈夫です。ちょっとおまおまおまお股がささささささ割ける感覚を思いだだだだだだだだだだ出しただけでしゅ」

「どう見ても大丈夫じゃねーだろ」

 

 何かしらのトラウマを強く刺激されたオリーブが盛大にバグっているのを見て、レイは「絶対碌なもんじゃねーな」と、フレイア達から詳細を聞くのを止めた。

 流石に「お股から真っ二つ……」とうわ言のように呟くような手は御免被りたい。

 

「…………なぁ、少し聞いてもいいか?」

「なんだい?」

「キースの事だ」

 

 レイがキースの名を出した瞬間、場は一気に静まり返り、ジャック達は気まずそうに目を伏せた。

 

「本当に、殺されたのか?」

「うん。殺されたし遺体も見つかったよ」

「滅茶苦茶酷い仏さんだったらしいっスよ。内臓だけ綺麗サッパリ消されてたって聞いたっス。しかも回りには謎の生首がゴロゴロと。正直グロすぎてあんまり想像したくないっス」

「……そうか」

 

 それしか、答えることが出来なかった。

 空虚なものがレイの心に襲い掛かる。

 

「えっと、キースって、もしかしてキース先生の事ですか?」

「そっス。オリオリにはちょっとショッキングな内容かもしれないっスけど――」

 

 ライラがオリーブに先の事件について説明をしているが、レイの耳には大して入ってはこない。

 

「(結局、アイツが法で裁かれる事はなかったか……)」

 

 キースが死んだという事実が、少し遅れてレイの心に重く圧しかかってくる。

 これでキースを法で裁く事も、父親の死の真相を知る事もできなくなってしまったのだ。

 

「レイ、大丈夫?」

「キュー……」

「ん、あぁ……大丈夫」

 

 手の甲にヒンヤリと小さな手が置かれた感触で我に返るレイ。

 アリスやロキだけでなく、気づけばチームのメンバー全員がレイを心配そうに見ていた。

 仲間に余計な心配をかけた事に少々自省するレイ。

 過ぎた事を今ここで悔やんでも仕方がない。今は今、出来ることをするべきだと、レイは自信を鼓舞した。

 

「じゃあ改めて。フレイア、ジャック、ライラ、サポートを頼む」

「お安い御用さ」

「頼まれた!」

 

 えへんと子供のように胸を張るフレイア。

 その無邪気さを見て、レイは自身の心が少し軽くなるのを感じた。

 

「じゃあ早速、最重要事項を片付けるっス!」

「最重要事項? どれだ?」

「そりゃ勿論決まってるっス……」

 

 そう言うとライラはテーブルの上に大きな紙を一枚バンッと取り出した。

 もしや海図を元にした幽霊船の出没予想地点か何かだろうか。

 レイ達は緊張感に満たされた状態で紙を覗き込む。

 

 紙に書かれているのは大きな三つの四角形。

 

「ライラ……これは?」

「部屋割りっス」

「……は?」

「部屋割りっス!」

 

 気が抜けて、盛大にテーブルへと顔面を落とすレイ達。

 先程までの緊張感は何だったのだろうか。

 

「今空いてる部屋は三人部屋が三つだけらしいっスから、どういう部屋割りで寝るのか――」

「深刻そうな雰囲気で言い出すな! 部屋割り決めくらい普通に言え!」

「レイ君何言ってるんスか! お泊まりイベントにおいて部屋割り決めは最重要事項っスよ!」

「んなもん適当に決めればいいだろ!」

「チッチッチ、分かってないっスねレイ君は。お泊まりイベントにおける部屋割り。それは女子トークに花を咲かせる一晩のお相手を決めるって事っスよ。自分と相手双方の性格やメンタルの状況を読んだ上で、最高に女子力を高められる組み合わせを見つけ出す真剣勝負なんス!」

「お、おう……そうか」

「ボクはここで、神の一手を決めるっス!」

 

 ライラの凄まじい熱意にたじろぐレイ。

 どうも押しの強い女の子には弱いらしい。

 

「とりあえずレイとジャッ君は同じ部屋に押し込むっスね~」

「まぁそうなるね」

「そうしてくれると助かる(じゃないとまたアリスがベットに忍び込むかもしれん)」

 

 四角形の一つにレイとジャックの名前と『決定』のサインを書くライラ。

 

「で、次はメインの女子チームなんスけど――」

「はい、はい! わわわわたくしとオリーブさんは慣れ親しんだ同室コースでお願いいたしますわ!」

 

 妙に鼻息荒くオリーブとの同室を主張するマリー。

 それを見たレイは「……まさかな」と一瞬変な予想をしたが、すぐに胸の奥に仕舞い込んだ(というかそれ以上考えたくなかった)。

 

「ご安心ください。オリーブさんの夜の安全はわたくしが、わ た く し が! 責任を持って御守りしますので!」

「(何故だ、絶対にこいつに任せてはいけないと俺の本能が叫んでる)」

 

 レイの心が奇妙な警鐘をならしていると、アリスがマリーの腕にがっしりと抱き着いてきた。

 

「アリスさん!?」

「アリス、今日はマリーとお話がしたいな」

「そうだねー、アリスとマリーは今日会ったばっかりなんだし」

 

 もう片方の腕にフレイアが抱き着く。

 いや、見方を変えれば拘束されているようにも見える。

 

「フレイアさん!?」

「アタシもマリーとは色々話がしたいなーって。マリーも積もる話はあるでしょ?」

「そ、それはそうですけど……」

「じゃあ、決まりだね」

 

 そう言うと、アリスとフレイアは抱き着いた腕を放すこと無く、マリーを席から立たせた。

 

「それじゃあライラ、アタシ達先に部屋に行ってるから」

「後はよろしく」

 

 ズルズルとマリーを引きずりながら、二人はその場を去っていく。

 

「アリスさん!? フレイアさん!? ど、どうかお待ちに、お待ちになって! あぁ、オリーブさん~」

「ちょ、姉御!? アーちゃん!?」

 

 ライラの制止虚しく、三人は宿屋の階段の向こうへと姿を消してしまった。

 

 残されたのは男子二人と女子二人。

 

「……良かったな、部屋割り決まったみたいだぞ」

「え、えっと、よろしくねライラちゃん」

「ボクの……神采配イベント……」

 

 膝から崩れ落ちて項垂れるライラを、オリーブは優しく抱きしめて慰めるのであった。

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