白銀のヒーローソウル【WEB版】   作:鴨山兄助

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Page47:悪魔が集う②

 バミューダシティの教会。

 朝の礼拝もまだ先のこの時間帯に、教会を訪れる者はまずいない。

 そんな人気のない教会に、紋入りのマントを羽織った男が一人来ていた。

 

「此処か」

 

 男は教会の扉を乱暴に開けるや、ズカズカと床を踏み躙りながら入っていく。

 その顔は表情こそ変化していないが、微かな苛立ちを感じさせるものであった。

 

「ガミジン、何処にいる」

 

 男は教会の中を見回しながら、ここに居る筈の司祭の名を呼ぶ。

 だが返事は来ない。

 男は早く出てこいと言わんばかりにガミジン司祭の名を呼び続けた。

 

 ズルリ……背後から何かの気配を感じると同時に、迫り来る殺気。

 普通の人間なら気づく事も無いような微かなソレを察知した男は、勢いよく振り向き、自らに振り下ろされて来た日傘を手で受け止めた。

 

「パイモンか……」

「キャハッ♪ もうフルカスちゃんったら~、女の子が再会の挨拶してきたんだから、受け止めてくれてもいーじゃない」

「ほざけ狂人。そしてちゃんを付けるな」

「狂人ってそれ小粋なジョークのつもり? ブーメランになってるよ」

 

 「フン」と乱雑に掴んだ日傘を離す男、フルカス。

 目の前で苛立ちを漏らすフルカスなどどこ吹く風と言わん様子で、パイモンはピンク色のツインテール揺らして踊る。

 

「それで、何故貴様が此処にいる」

「え~フルカスちゃんがそれ聞いちゃうの~? パイモンちゃんはココの司祭様とか、今目の前でイライラしている騎士様がちゃーんと仕事してるか確認しに来ただけですよー。パイモンちゃんまだまだ乙女なのに、同僚が問題児ばかりでお肌荒れちゃう~」

 

 ケラケラと笑いながら嫌味を言ってくるパイモンを、フルカスは静かに睨みつける。

 

「礼節を知らぬ悪食娘が、減らず口を」

「フルカスちゃんが堅物すぎるだけだと思うにゃ~♪ それにパイモンちゃんは自由主義なのー」

「自由、か」

「あーもちろん、陛下から貰ったお仕事はちゃーんとこなすよ。どこかの騎士様と違ってね」

「俺が陛下から賜った使命を怠っていると……?」

 

 殺気を放ちながら、腰の剣に手をかけるフルカス。

 

「あれあれ~、怒っちゃった?」

「そう言う貴様はどうなのだ。相も変わらず悪趣味な殺しを楽しんでいるだけなのではないか?」

「悪趣味だなんてひっどーい!」

 

 頬を膨らませて子供のような怒りを表すパイモン。

 だが決して本気では無かった。ふざけた態度の中には、冷徹さも潜んでいた。

 

「それに〜、どうせ最後はみんな死んじゃうんだから、早いか遅いかの違いしかないじゃない。それなら折角だしぃ、パイモンちゃんのグルメ探求に付き合って貰った方が有意義ってものじゃない」

「それが悪趣味だと言うのだ」

「わからずやめ〜……で、フルカスちゃんは何しに来たの?」

「俺は変わらず自分の使命に従っているだけだ。ただ今回は陛下から言伝を頼まれてな……」

 

 そう言うとフルカスは剣を抜き、身体を勢いよく後ろに捻った。

 

――ガキン!――

 

 黒く美しい刀身に一匹の蛇型魔獣が噛み付いている。

 フルカスが剣を強く振るうと、蛇は地面に叩き付けられた。

 

「これこれ、神聖な教会で争いをするもんでない」

 

 奥から現れたのは膨よかな体型をした司祭。

 剣を抜いているフルカスを見ても顔色一つ変えていない。あくまで平時だと言わんばかりの様相だ。

 

「ガミジン……先に仕掛けておいて」

「私は何も命じてはおらんよ。全てはアナンタが私を思っての行動」

 

 ガミジンと呼ばれた司祭が一瞥すると、蛇の魔獣アナンタは噛み付いた剣から口を離し、ズルズルとガミジンの元へと這い寄って行った。

 

「それで、騎士殿はこのような辺境の地に何の要件で? まさか観光ではあるまい」

「陛下からの使いだ。俺はお前が使命を果たしているのか見に来ただけだ」

 

 身体に巻き付いてくるアナンタの頭を撫でながら、ガミジンは近くの椅子に座り込む。

 

「そんなものは()を見てくれればよいだけ」

「お前の口から仔細を聞きたいのだ」

 

 強情な騎士様だと、ガミジンは溜息を一つつく。

 

「船の造りは上々、今頃であれば残すは燃料となる魂の確保のみ……と言いたかったのだがね」

「問題でも起きたか?」

「王様が滅茶苦茶抵抗するんだってー! 意地汚いよね~」

「件の王は既に死んでいると聞いていたが」

 

 ゲラゲラと笑い転げるパイモンを意に介すこと無く、フルカスはガミジンを追及する。

 

「執念とでも呼ぶべきだろうか。件の王は諦めを知らぬ厄介者だ、既に肉体の自由は無いと言うに、五年も抵抗を続けておる」

「原因に心当たりは?」

「魂……でしょうな。王の魂が折れておらぬ」

「五年も現世に定着し続ける魂か……王の気高さの象徴とでも言うべきか、俺個人としては尊敬したいものだな」

「私としては迷惑以外の何物でもありゃせんがね」

「司祭様だけじゃなくて、陛下にとってもでしょ」

 

 一瞬、音が消える錯覚に陥る。

 『陛下』、パイモンがその言葉を放つと同時に、三人の間に緊迫した空気が張り詰めた。

 

「しかし五年か、ただの執念ではそこまで現世には留まれまい。何か裏があるのではないか?」

「……ハグレた魂がおる」

 

 僅かに歯軋りをしながら、ガミジンが渋々と語り出す。

 

「彼の王を仕留めた折、いくつかの魂を王が逃したのだ。そのハグレに何かしらの介入をさせておるんだろうと私は睨んでいる」

「ふむ、最初の犠牲者の中に契約者が居たか……確かに契約者の制御呪言(せいぎょじゅごん)を使えば魂の定着や抵抗も不可能ではないだろう」

「で、司祭様? そのハグレちゃんは見つかってるの~?」

「うぐっ……」

 

 意地の悪い顔で挑発するパイモンに苛立ちを隠せないガミジン。

 だが実際問題、原因となる魂を五年も取り逃がしている身を自覚していたので、何も反論できなかった。

 

「ではガミジン、そのハグレた魂を捕らえればあの船……【義体】は完成すると」

「えぇまぁ、そうさな。あの(わっぱ)共の邪魔さえ入らなければな」

「童?」

「GODが派遣してきた赤ちゃん操獣者。そこそこ数の居るちょーっと厄介なお邪魔蟲」

「全くだ、奇妙な魔法を使う者もおる」

 

 爪の手入れをしながら呑気に答えるパイモンに対し、昨夜の戦闘を思い出したガミジンは微かに眉を吊り上げる。

 

「奇妙な魔法?」

「ダークドライバーの黒炎を停止させられたのだ。躱すでも防ぐでもなく、まるで時を止められた様に空中で停止した」

「……それは、金色の魔力(インク)によるものか?」

 

 凄みすら感じる口調で聞くフルカス。

 

「早すぎる、色など視認できんわ……だが、騎士殿がここに居るという事は、あれが話に聞く【黄金の少女】とやらの仕業かもしれぬな」

「あ~、あの無差別襲撃女! パイモンちゃんアイツ嫌ーい! パイモンちゃんが作ってた義体、ぜ~んぶあの女に壊されたんだもん!」

「神出鬼没、素性も目的も不明の小娘。何故陛下もそのような女に執着するのか、私には分かりかねる」

「陛下の偉大な考えの元の事だ、口を慎めガミジン」

 

 怒気を強めてガミジンを諫めるフルカス。

 ガミジンはその忠臣ぶりには関心するが、行き過ぎて狂信者に近いとも感じていた。

 

「黄金の少女は俺の管轄だ。それに操獣者などどうでも良い、我々は一日でも早く義体が完成すればそれで良いのだ」

「あ、ちゃんと仕事してたんだ。パイモンちゃんもこれで一安心」

 

 「口の減らぬ小娘が」そう言うとフルカスは、小さな樽を取り出しガミジンに投げてよこした。

 怪訝な顔をするガミジンにフルカスはこう告げる。

 

「陛下からの賜りものだ。セイラムの捨て駒に作らせたボーツの種子を混ぜた魔僕呪だ」

「ほう、それはそれは」

「あのおじ様、最低限の仕事はしてくれたからね~♪」

 

 ガミジンが小樽の蓋を開けると、中には粘度の高い魔僕呪と、微かに聞こえるボーツの鳴き声が詰まっていた。

 並の人間なら恐怖するであろう異質な代物だが、ガミジンは顔色一つ変えずその中身を観察していた。

 

「どうせ魂の確保にも苦労してるのだろう? それで一気に決着をつけよとの事だ」

「……それは、陛下の御言葉か?」

「そうだ」

 

 溜息一つ。

 フルカスの言葉を聞いたガミジンは額に手を当て、眉間に皺を寄せる。

 要するにこの小樽の中身を使ってバミューダの民を殺戮せよという指令。

 だがその指令が持つもう一つの意味を理解して、ガミジンは酷く頭を痛ませた。

 

「……状況は芳しくないと言うことか、陛下の焦りを感じる」

「今のところ他の義体に関しては全滅だからね~……()()()()()、だけど」

「パイモンや騎士殿がこんな辺境の地まで来たのだ。私の作る船が最後と言うことなのではないか?」

「そうだな、お前の船が最後だ」

「つ・ま・り~♪ もしも司祭様が失敗しちゃったら~、次は表舞台で作らなきゃいけないの~♪」

 

 恍惚の表情で身体をくねらせるパイモン。

 それはまるで、主人からの褒美を期待する飼い犬の様であった。

 

「でもパイモンちゃん的にはそっちの方がいいかも~。もしそうなったら…………本当に()()の始まりなんだもん」

 

 花畑で踊る少女の様にクルクルと回りながら口走るパイモン。

 楽しくて楽しくて仕方がない様子を隠しもせず、無邪気に振り撒く。

 

「やめろパイモン。我らゲーティアは決して争いを目的とした集団では無い」

「ぶー、分かってますよー! フルカスちゃんはお堅いな~」

「黄金の少女が介入しようとも、GODの操獣者が邪魔をしようとも、俺達の目的は変わらぬ」

 

 全ては、世界を一つにする為に。

 全ては、偽りの共存を破壊する為に。

 全ては、醜き者達への復讐の為に。

 

 そして…………

 

「「「全ては、我らが故国の為に」」」

 

 彼らはゲーティア。

 世界に仇成す悪魔達。

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