白銀のヒーローソウル【WEB版】   作:鴨山兄助

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Page04:ファースト・エンゲージ

「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

――業ゥ!!!――

 突如として放たれた巨大な炎に、十数匹のボーツが焼き払われた。

 何が起きたのか。

 レイは炎の発生源に目をやった。

 

 それは、操獣者だった。

 雄々しき二本の角が生えたフルフェイスメット。

 それと似たような魔獣の頭部を模した、巨大な籠手を右手に着けている。

 真っ赤な魔装の操獣者であった。

 籠手からは未だに炎がチロチロと出ている。あそこから炎を放ったのだろう。

 そしてシルエットと声から察するに同年代の女性だという事は分かった。

 

「いやぁ~、すごい数のボーツね」

「誰が助けてって言った」

「ん~……誰も言ってないね」

「じゃあ邪魔すんなよ」

「そんな事言って~、そのダメージじゃ説得力無いよ」

 

 心が痛むと同時に一つの確信を得るレイ。

 この女、苦手なタイプだ。

 だが彼女が言う事も一理ある。このままでは防衛すらままならない。

 無茶をしてボーツが居住区に溢れては本末転倒である。

 ならば今は、この女を利用してやろうとレイは考えた。

 

「戦いたいなら好きにしろ、俺はコイツを安全な所にポイする」

「雑だなぁ……まぁ好きにして良いならそうさてもらうけど!」

 

 赤い操獣者は腰から剣を抜きボーツに立ち向かう。

 その間にレイは男を掴んでボーツの大群から離れた場所へと駆けて行った。

 そして適当な場所に男を捨て置くと、レイはすぐに戦場へと戻った。

 

「オラオラァ!」

 

 戻ってきて最初に目に入ったのは、赤い操獣者が喜々としてボーツを切り裂いている光景だった。

 火炎を纏った刀身に焼き切られていくボーツ達。

 なんだか獲物を横取りされている気分がしたレイは少々ムッとなった。

 レイは若干ムキになった感じで加勢しに行く。

 

 レイの存在に気づいたのか何匹かのボーツがレイに襲い掛かってくる。

 

「このくらいなら、どうにでもなんだよ!」

 

 手に持ったコンパスブラスターで的確に首や胴体を切り落としていくレイ。

 身動きの取れない男と言う枷が外れたので、本領が発揮できているのだ。

 

 だが先程のダメージがレイの中で響いている。

 近距離戦では上手く戦えないと判断したレイは、コンパスブラスターに栞を差し込み、コンパスブラスターを剣撃形態(ソードモード)から銃撃形態(ガンモード)へと変形させた。

 

「変形する魔武具か~、珍しいね」

「こう見えて射撃は得意なんだよ!」

 

 褒め言葉は無視して、ボーツに向かって引き金を引まくるレイ。

 着弾した魔力弾はボーツの胴体を爆散させていった。

 

「ヒュー、やるぅ。 アタシも負けてらんないな!」

 

 赤い操獣者も負けじとボーツを切り捨てていく。

 少し気持ちに余裕ができたレイは、赤い操獣者の戦いや武器を見ていた。

 

「(ペンシルブレード……一番オーソドックスなG型か……けどアレは相当強度を高めた代物だな)」

 

 赤い操獣者が使っているペンを模した剣。

 操獣者が使う定番魔武具の一つペンシルブレードだ。

 魔力を纏わせてもそう簡単には壊れない様に出来ている頑丈な剣である。

 

 赤い操獣者はペンシルブレードに炎を纏わせて次々とボーツを倒していくが、如何せん数が多い。

 地面からは未だに何匹か追加で発生している。

 

「よっと! なんかこのボーツ強くない!?」

「ここで出てくるボーツは元々強い奴ばっかだ! しかも今日はどこかの馬鹿が地面に魔僕呪こぼしやがった!」

「それは厄日ね」

「まったくだよッ!」

 

 無駄口を叩きつつもボーツを処理していく二人。

 が、またしてもレイはボーツの大群に囲まれてしまった。

 

「短時間で二発も撃ちたくないんだけどなぁ!」

 

 再びコンパスブラスターに栞を挿入するレイ。

 

「インクチャージ! 本日二発目のォォ、偽典一閃!!!」

 

 構築した術式を解放し、魔力刃で周辺のボーツを一掃するレイ。

 その様子を見た赤い操獣者は、何かを閃いた様子を見せた。

 

「そうか、まとめてブっ飛ばせば良いんだ!」

 

 そう言うと赤い操獣者はグリモリーダーから獣魂栞を抜き取り、ペンシルブレードの柄に挿入した。

 

「インクチャージ!!!」

 

 赤い操獣者は魔獣の頭部を模した籠手で剣を握りしめる。

 するとペンシルブレードから彼女の身の丈以上はあろうかと言う、巨大な炎の刃が作られ始めた。

 周囲が凄まじい熱気に包まれ、足元の花が干からび始める。

 彼女の身体から、明らかにキャパシティオーバーをしたであろう魔力がレイの肌にビリビリと伝わってくる。

 どう考えても嫌な予感しかしない。身体の痛みも忘れて、レイは仮面の下で青ざめた。

 

「オイ、まさかそれブっ放す気じゃ――」

「そこのアンタ! 頭下げないと焼き切るよ!」

 

 そのまさかであった。

 間髪入れる事無く、赤い操獣者はペンシルブレードで前方を薙ぎ払った。

 

「必殺、バイオレント・プロミネンス!!!」

 

――業ォォォォォォォォゥ!!!!――

 

 それは、地獄の業火と呼ぶに相応しい火力であった。

 レイは剣が振られたと同時に後ろに仰け反って回避したが、そのとんでもない火力を間近で見る羽目になった。

 当たれば確実に死ぬ。横目に切り裂かれるボーツ達の姿が写ったが、明らかに熱したナイフでバターを切るよりも容易くボーツが葬られていた。

 変身していたおかげで炎が鼻先をかすめても大丈夫だったが、もし変身していなかったらと思うとレイはゾッとした。

 

「ん~~、もうボーツは残ってないね? 一件落着ゥ!」

「一件落着ゥ、じゃねーよ!!! 殺す気か!!!」

 

 勢いよく起き上がり、呑気に締めようとした操獣者へ思わず怒りの声をぶつけてしまうレイ。

 

「いやぁ、上手く避けてくれて助かったわ。危うく人間焼き切るところだった」

「お前はちょっと加減って言葉を調べてこい!!!」

 

 地面を指さしながら叫ぶレイ。

 操獣者が撃った必殺技の熱波によって花は吹っ飛び、木々からは葉っぱが消し飛び、周囲にはちょっとした荒地が完成していた。

 

「アハハ、ごめんごめん」

 

 そう言いながら変身を解除する操獣者。

 やはりレイが予測した通り、正体はレイと同い年くらいの少女であった。

 レイと同じ赤髪で女の子らしいロングヘアー、同年代に比べれば発育は良さげなシルエットをしている。

 服装は赤いジャケットに黒いズボンと、ボーイッシュな感じを出しており行動力の権化のような印象を受ける。

 

「避けろって、無茶振りだった?」

 

 どこか挑発するような目で問いかける少女。

 

「まっさかー」

 

 内心ちびりそうになっていたが、レイは強がってしまった。

 

 

 

 

 さて、戦闘に巻き込んではいけないと捨て置いた男だが、その後すぐにレイが回収してきた。

 ただし、その辺のツタで身体は拘束しているが。

 

「あれ、その人さっきアンタが守ってた人じゃないの?」

「好きで守ってた訳じゃねぇ、しかたなくだ」

「ふーん……ガッツリ縛ってるけど、何やらかしたの?」

「魔僕呪服用と地面にこぼしてボーツ大量発生の現行犯」

「うわぁ、諸悪の根源か」

 

 本当は自分で歩いて欲しいのだが、残念ながら意識が戻っていない。

 これからこの男をギルド本部まで運ばなくてはいけないのかと考えると、レイは憂鬱な気分になった。

 

「それはともかくさ! アンタずっとデコイインクばっか使ってたけど何で?」

 

 嫌な質問をしやがると、レイは顔をしかめる。

 

「生まれつきの体質だ、デコイインクしか使えないんだよ」

 

 あっさり真実を告げるレイ。

 誰かに見下されるのには慣れているが故の、壊れた感性からの発言だった。

 それに対して少女はというと。

 

「え、マジ!? それじゃあそれじゃあ、デコイインクだけで変身してたの!?」

「お、オウそうだけど……」

「それであのボーツの群れと戦ったり、銃を撃ったりしてたの!?」

 

 コクコクと頷くレイ。あまりにも予想外な反応をされて若干思考が停止している。

 

「スッゲー! 人間頑張ればココまでいけるんだ!」

 

 目をキラキラ輝かせる少女。完全に何にでも興味を示すお年頃な反応である。

 

「アタシ、フレイア! フレイア・ローリング! アンタは?」

「……レイだ」

 

 レイの名前を聞いた少女ことフレイアは、名前に聞き覚えがあるのか首をかしげるポーズをする。

 記憶力はあまり良くないのだろうか。レイは溜息を一つついた。

 

「はぁ~、アンタが依頼をする予定の男だよ……チームレッドフレアのフレイア・ローリングさん?」

「あれ、チームの名前って言ったっけ? もしかしてアタシ有名人!?」

「有名なのもあるけど、お前首に何着けてるか言ってみ?」

 

 照れと驚きの表情をコロコロ入れ替えるフレイアに対して辛辣に指摘するレイ。

 フレイアの首には炎柄のスカーフ。即ち、チームレッドフレアの証が着いていた。

 

「ん、依頼をする予定って……」

 

 今更その事実に気づいたのか、見定めるような目でレイを見るフレイア。

 

「整備士さん?」

「いかにも」

「一目見た時から心に決めてました仲間になってください!」

「お断りします」

 

 哀れフレイア、一秒で振られた。

 しかしめげないフレイア、頬を膨らませながらもレイに追撃をする。

 

「ダメ?」

「ダメ」

「どうしても?」

「どーしてもだ!」

「ぶーぶー! 何でよー」

 

 ぶー垂れるフレイア。

 一方で、この質問の答えはレイにとってはシンプルなものであった。

 

「俺を仲間にしたところで、お前にも俺にも何の得も無いからだよ」

 

 何を言っているのか分らないといった表情を浮かべるフレイア。

 だがレイにとっては分らないならそれで良い事だった。

 

「じゃあ次は俺の番だ、三つほどお前に言いたいことがある」

 

 指を三本立ててレイが告げる。

 

「一つ、戦闘中も言ったが加減を覚えろ。 常にオーバーキルを目指すような戦い方をすれば剣に負担がかかるのは当然だ。 魔法の出力は必要最小限に抑える努力をしろ、それだけでお前の剣の寿命は延びる」

「ほー」

「二つ、魔法の術式はもっと丁寧に組め。 火力強化の重ね掛けと魔刃生成をアホみたいな出力でブっ放すのは身体にも剣にも負担が掛かって良くない」

「おぉ、アタシの魔法の正体よく解ったな~」

「単純過ぎて一目で解った。 そして三つ目! お前の腰にある剣、もうすぐ砕けるぞ」

 

 「へ」と間抜けな声を漏らすフレイア。だが悲しい事に、彼女の耳にはピキピキと金属にヒビが走って行く嫌な音が聞こえていた。

 フレイアは青ざめた表情でペンシルブレードを引き抜くが、時は既に遅く。

 

――パリーーン!!!――

 

 あまりにも無情な音が響き渡る。

 フレイアのペンシルブレードは粉々に砕け散ってしまった。

 

「ノォォォォォォォォォン!!! 今月十一本目ぇぇぇぇぇ!!!」

 

 砕けた剣を目にして膝から泣いて崩れ落ちるフレイア。

 その姿を見たレイは思った、「こいつはアホだ」と。

 

「つーか十本も壊す前に専用器が必要だって気づけよ」

「うぅ~、だって専用器とか知ったのついこの間だったし」

 

 そうですかいと呆れた表情を浮かべるレイ。

 だがここでレイはある事に気づいた。

 

「……悪ぃ、言いたい事四つ目が出来た」

 

 「ふぇ?」と涙目でレイを見上げるフレイア。

 

「加減をしないのもまぁ良い、術の構築が雑で火力任せなのもそれで戦えるなら良いと思う」

 

 そう言いながら銃撃形態のままであったコンパスブラスターに栞を差し込むレイ。

 

「けどお前には足りないモノがあると思うんだ。 後先考えず突っ込む事、他人の事情を考えない事……そして」

 

 弾込めを終えたレイは、コンパスブラスターの銃口をフレイアに向ける。

 

「え、ちょ、レイさん?」

 

 突然銃口を向けられ焦るフレイアだが、そんな事は関係ないと言わんばかりに、レイは冷静な表情で引き金を引いた。

 

 銃口から魔力の弾丸が出ると同時に、フレイアは思わず目をつぶってしまう。

 放たれた弾丸はそのままフレイアの頭部に直撃――

 

 

 

 ――することは無く、直前で軌道を曲げて、フレイアの肌を傷つける事無く、フレイアの背後から襲い掛かろうとしていたボーツの頭だけを貫いた。

 世にも珍しいカーブする弾丸である。

 

 「ボッ」と言う断末魔が背後から聞こえたフレイアは、目を開いて自分の後ろで絶命しているボーツを認知した。

 

「背後の敵にも、ご用心」

 

 呆然とした表情を浮かべるフレイア。

 軌道変化の弾丸でボーツの急所を的確に撃ち抜くという離れ技を前に「スッゲー」としか零せなくなっていた。

 

 そんなフレイアをよそに、レイは歩み始めて。

 

「何してんだ、事務所に行くぞ」

「え、でも仲間にならないって」

「仲間になるのはお断りだが、剣くらいは作ってやるよ」

 

 ほら行くぞと言ってレイは男を引きずりながら、事務所へと進み始めた。

 

 フレイアはそんなレイの背中をジッと見つめる。

 そしてフレイアの顔には徐々に笑みが浮かんできた。

 

「見つけた……戦える整備士」

 

 それは宝物を見つけた子供の様な表情だった。

 それは一つの事を決心したリーダーの表情でもあった。

 

「決めた、アイツを絶対に仲間にする!」

 

 

 この数日後に、レイは次のように語った。

――あの時フレイアと出会わなければ……俺はきっと、もう少し胃に優しい生活が送れただろう――と。

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