龍を屠る、全てを護ると願った男の生涯の話

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人類最強が龍の左腕を切り落とす話

人類最強…その称号、もしくは栄誉を得たのはいつだったのだろうか、田園風景が美しく、長閑な風の吹く街のとある一般家庭に生まれ落ちた私は一身に沢山の愛情を両親から受け育った。物心のついた時から時々街に寄ってくる冒険者から話を聞いては様々な武勇伝に胸を躍らせ、いつの日かその英雄になると決心し、外に出るとその日の天候は私の決意を祝福するかのような澄んだ群青の青空だった。

 

そんな私はまず体を鍛え始めた。英雄は冒険者出身が殆どらしい、聞いた話によると魔物と呼称される人に対して害を与える存在を討伐、もしくは駆除の役割を持つのが冒険者というらしい。

冒険者という割に冒険なんてしてないじゃないかと思った若き日の子供姿の私は話をしてくれる冒険者に対して無邪気に質問を投げかけたがその男は苦笑いをしながらもその理由を語ってくれた。

 

「冒険者、というのはね、今から何百年も前に迷宮と呼ばれる地下深くに存在していた建物に潜ってそこから迷宮に眠る宝を取ってくる役割を生業としていた人を冒険者と呼んでいたんだ。でもね、その迷宮がいつの日にか無くなってしまってね、宝を守る役割を持った魔物だけが残ったんだ。そこから迷宮を冒険する者から魔物を倒す者に変わってしまったというわけさ。」

 

私達の呼称が変わっていないのはその頃の名残りみたいなものだね、と語ってくれた男は優しく、荒事を好まないような見た目をしていた。そんな彼は私によく遠くにいる弟の話をしていた。

 

鍛え始めてから何年かたったある日に私の故郷は焼き尽くされた。私はたまたま森に入って鍛えていたので助かった。

燃え盛る街の光景、匂い、全てを鮮明に覚えている。

 

そんな夜空に銀色、金色とありえない光沢を放つ龍を見た。

 

龍は全ての生物の頂点に達する捕食者だ、冒険者組合での危険度のカテゴリーにも最大の脅威と分類されている。群れを持たずに単独で全てを蹂躙し、全てを無に帰す存在は一時期神として祀られていた事もあった。しかし龍というのにも分類がある。鱗の色によって上位種、下位種という区別ができるのだ。

その日私の見た龍は龍の中の頂点に君臨する最上位種であった。上位種である龍は高い知能を保有し、魔法に対しての適性及び耐性が高くその上あらゆる攻撃から身を守る硬い鱗を持っているのだ。

 

そんな龍を前に成す術を持たない私は逃げることしかできなかった、村を焼かれた悲しみも父母を失った悲しみも、そして何も出来ない私に対しての悲しみと悔しさをちっぽけな子供の胸に溢れんばかりにしまい、そこから漏れ出た涙を流しながら近くの街に対して走った。

憎しみなんてない、ただただ悲しみと悔しさだけが胸を渦巻いて走り続けるしかなかった。

その時だろうか、何者からも護れる強さを欲したのは、そして龍をも屠る力を切望したのは。

 

そこからの私は必死だった。孤児院に入り、必死に働きながら銭を貯めつつも剣を振り、地を走り、時には別れに立ち会った。所属していた冒険者組合から一人前と認められ、名の知れた冒険者となってからも危ない橋を渡り続けた。

 

私という人間について来てくれた仲間もいた。捻くれていたが、実は誰よりも平和を望む大魔術師のガーネット、故郷を追い出された賢者の末裔で剣士であるドルドテ、異世界からの集団転移で、くらすめいと?という者達から追放されたといい、俺は世界を救う男だといつも嘯いていた荷物持ちのリョースケ、永遠の時を生きて世界を観測し記録する世界樹の次代の門番である妖精で魔術を駆使する盾役のアヴェルといった四人がいつも私を手伝い、喧嘩し、酒を酌み交した。

 

その四人にいつか龍を屠りたい、と酒の席で酔った勢いで言ったことがあった。それを聞いた四人は否定するわけでもなく、馬鹿にして笑うのではなく、私の無理難題極まる目標を肯定し、あまつさえ共に行こうと言ってきたのだ。私は人生で久しぶりの涙を流した、まるで故郷を焼かれた日から溜め込んだ悔しさがもう一度溢れ出すように。

私の涙は暫く止まることはなかった。

 

五人の中で一番強かった私はいつの日か人類最強と言われるようになった。並び立つ者は一人もなく、鮮やか且つ豪快な斬撃は龍をも断つ。そんな噂が大陸中を駆け巡っていた。

私の力を悪用しようとする輩はいたものの全て私の仲間が追い払ってくれた。いつの日か本当に龍を断つのではないか、と言われるようにもなった。

 

それを試す日はすぐに訪れてきた。依頼を終えてゆっくりしていると、ドォン!と激しく揺れたのだ。何事かと家をでて空を仰ぐと金と銀の光沢をもつ龍が現れた。

その龍を見るなり何故か私の心に燻り続けた全てを護りたい、龍を屠りたいといういつの日かの誓いによく似た願望が滲みでてきた。

すぐさま装備を整えた私は仲間と合流し龍へと果敢に立ち向かっていった。

 

結果なんてものは分かり切っていた、いや私はそれを考えなかっただけかもしれない。自分ならばできると、努力をすれば全て叶うと、ちっぽけだった私が夢見た英雄になれるのだと。

 

盾役のアヴェルが脱落したのが崩壊の始めだった。最硬の象徴であるアディール鉱石をも断つ鉤爪で盾ごと裂かれたのだ。辛うじて命を繋ぎ止めたアヴェルをガーネットが治療をして渋るアヴェルを遠くへと転移させたのだ。装備をなくした味方を殺すよりもマシと判断したのだろう、ガーネットの判断は決して間違ってなどいない、例え常識とはかけ離れていても私は私欲で仲間が死んで欲しくなかった。

それを汲んでくれたであろうガーネットは私に対して滅多に見せない笑顔を向けてきた。下手くそで不器用な笑顔だったが、私はこの上なく嬉しかった。

 

戦いを始めて何時間たったのだろうか、破壊の限りを尽くした地表に立っている影は巨大な龍の影とちっぽけな私の影しかなかった。装備もボロボロで鍛えに鍛えた体力ももうこれっぽっちもない、長年付き添った剣も限界を迎えていた。様々な効果や魔術が刻み込まれた魔術石も一つしか残っていない。それに対して龍は消耗はしているものの、殺すには程遠そうな様子だった。

 

今にも倒れ伏してしまいそうな体、暗闇に誘う意識、傷を伝える激しい痛みももはや感じなくなっていた。私は今になって死を悟る。

 

ドルドテ、ガーネット、リョースケ、アヴェル、私は何がしたかったんでしょうか?故郷が焼かれ、そこから必死に生きてきた私は人類最強となりました、しかしこの状況が人類最強です、首を断つのではなく精々が切り傷程度、これが人という限界なのでしょうか?

 

しかし、私は……私は!

 

死を悟った体は急速に死という抗えぬ概念へと進んで行く、しかし偶然の果てに奇跡に近い偉業がここにて生まれた。棒立ちの男を強靭な顎で食いちぎらんとしていた顔を右に避けた男は龍の左腕の付け根へとこれまでの研鑽、努力、人生、魂、全身に宿る全てを鉄塊の様な腕についた傷にぶつける。ブチッと筋肉が千切れる音を聞くがお構いなしと言わんばかりに刃を食い込ませる。

 

龍を屠れずとも、全てを護れずとも、せめて証を…妥協に妥協を重ねた願いの形を残したい!

 

やがてパキンッと剣の折れる音とともに折れた剣の破片とともに金と銀の光沢を放つ腕が落ちるのを見た。龍を屠る、全てを護ることを妥協し一部を屠り、護った証明である左腕が男の目の前を落ちていく。

金と銀と剣の破片が織りなす光景に男は最後の最後で満足そうに、そして子供のように笑って目を閉じた

 


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