~サーバ海~
「カバー」南部に位置する海、サーバ海の果て。
新生宝鐘海賊団一行は、さらに南、そのまた南、果てへ果てへと船を進める。
「あーん……むぐむぐ……」
そんな中、ノインは食堂で航路を確認しながらサンドイッチを食べていた。
「風が吹かなくなってきたね」
マストに立っていたまつりは、すっかり風が止んでしまった海に違和感を覚える。
「……果てが近くなってきたのらね」
それを聞いたルーナは、人差し指の関節を顎に当てながら、目的の「果て」を訪れる準備もとい考え事を始めた。
「ルーナたん。その『果て』っていうのは何なんですかぁ?マリンもあくたんも、それが何なのか……詳しいこと、何も知らないんですけどぉ……」
「『果て』っていうのは……世界の端っこって事なのらよ。そして……そこには『世界の秘密』があるって、そう信じてるのら」
「へぇ~……もしかして船長達、すごいところに向かおうとしちゃってますぅ?」
「付き合わせちゃってごめんなのらね」
「……よく分かりませんけど、ここまで来たら一緒に行ってあげますよぉ。そもそも、この船を作ったのはルーナたんなんですしぃ」
「ありがとなのら。……できれば、マリン船長とあくあちゃんには迷惑をかけたくねーのらけど……何かあったら、ごめんなのら」
そう言って再び考え事を始めるルーナの頭を軽く撫でた後、マリンはルーナが長らく籠っている部屋から甲板へ出て、舵を握っているあくあの側へと向かう。
「どうですかぁ、舵の調子は?重かったり、変に引っかかるような感じが有ったり……しませんかぁ?」
「だ、大丈夫だよ、せんちょ」
「ならよかったですぅ」
「……ね、せんちょ」
「ん?どうしたんですかぁ?あくたんから話を振ってくるなんて珍しいですねぇ」
「……せんちょ、気にならないの?あてぃしが、せんちょと出会う前に何をしてたのか、とか……あてぃしが変身するの、とか」
「うーん……あくたんはあくたんですしぃ、気になると言えば気になりますけどぉ……別に、船長がズカズカと踏み込んでいいラインなのかどうかも分からないことを、わざわざ聞く気にはなれなかったんですよねぇ」
かつて、たくさんの仲間に加えて親友でさえも失ってしまったマリンにとって、何も知らない相手の過去に踏み込むことは、そのトラウマを抉ってしまうことになると、身をもって知っていた。
かつて、マリンは正体を隠して「ムラサキ村」という村を訪れたことがあった。
その際に、「宝鐘海賊団、全滅!?」と大きく見出しに書かれた新聞紙を見ただけで胃液と涙が大量にこみ上げてきたという経験がある以上、それを他の人にもする気にはなれなかったのだ。
もしも、あくあが難破船唯一の生き残りだったとしたら?
もしも、あくあが海に投げ捨てられた捨て子だったら?
かつてのマリンと同じように、フラッシュバックに苦しむことであろう。
そしてマリンには、当然ながらそれを確かめる術は無い。
だからこそ、マリンは他人、それがたとえ家族のような存在であったとしても、自分以外の存在がもつ過去について「自分から核心へ迫るようなことは聞かない」と決めていたのだ。
しかし、今回は違う。
「……興味が無ければ、そのまま聞き流してくれて大丈夫だから……聞いてよ、せんちょ。あてぃしが、せんちょと出会う前の話」
「お、おおお……いいんですか、あくたん?」
「いいよ。話しても、今から何かが変わることじゃないし。それに……ルーナちゃんが言ってる『果て』ってやつ……多分、あてぃしが生まれたことにも関係あるから……今の内に、話しておかなきゃって思って」
あくあはマリンの左袖を掴み、いつになく必死に、そして真っ直ぐな目で、自分からゆっくりと話を始めたのだ。