むかしむかし。
あるところに、かわいらしい王女さまがいました。
その王女さまは皆を大切にする心優しい王女さまで、皆もまた、そんな王女さまを大切にしていました。
しかし王女さまは身体が弱く、何もしていなくても、毎日少しずつ色んな病気にかかり、段々と普通に立っていることさえもできなくなってしまいました。
自分の身体が言う事を聞かなくなっていく感触に、王女さまはどんな感情を抱いたのでしょうか。
寝たきりの王女さまは、やがて街が戦火に呑まれる中で思います。
死ぬまでの間に、いつか海を見ておきたかったと。
しかし世界は残酷にも、そんな王女さまの願いを叶えてしまったのです。
王女さまには、水を生み出して操る魔法の力がありました。
街に攻め入ってきた敵の兵士達を洪水によって一掃し、戦争を終わらせた王女さま。
敵も味方も、もういない。
生きているのは、王女さまだけ。
……まあ、他にも何人か生きてる人はいたみたいですが。
それに王女さまが気付くのはもっと後のお話。
王女さまは自分を水で包み込み、水のふるさと、海に向かいます。
水の中でも溺れない王女さまは、ずっと、ずっと水の中で眠りながら、自分で生んだ水の中を、どんぶらこ、どんぶらこと流れていきました。
たまに流れがおかしくなって、陸に戻されることもあります。
それでも、王女さまはゆっくり、焦らずに海に流れていきました。
ある日、王女さまはおかしなものを見つけました。
ここはどこだろう?
久しぶりに目を開けた王女さまは、海の底に眠る何かに会いました。
そこに眠っていたのは、王女さまにそっくりな姿をした女の子でした。
「……ねえ、君。そこで何してるの?」
「……う」
王女さまは、海の底で眠っていた女の子に近付き、その手をとります。
「何か……あなた、私にそっくりだね」
「あてぃしは……何……して……」
そして、王女さまは自分が眠っていた水の中に大きな泡を作り、そこに女の子を入れてあげることにしました。
その女の子の名前は、「ヒカゲ」ちゃんというみたいです。
ヒカゲちゃんは、海で溺れて死んでしまったようでした。
それをかわいそうに思った王女さまは、ヒカゲちゃんを抱きしめ、ヒカゲちゃんを自分の身体に入れてあげることにしました。
そして、ヒカゲちゃんと王女さまは一つになり、海を流れることになりました。
その王女さまは、新しい名前をつけることにしました。
湊あくあ。
それが、王女さまとヒカゲちゃんが合わさった女の子の名前でした。
箱舟の少女
遥か昔、少女は争いの絶えない世紀末を生き、そして死んでいった
しかし、彼女は己の弱気を知っていた
魔法しか能が無いのなら、その魔法で己を守ればよい
祝福を望み、有りもしない淡い希望ごと、自身を水に溶かすように