ここは死の町、「果て」の先。
生きも還りも、ありません。
ただ溺れてた、水の中。
わたしは息を、吸うのです。
~???~
一息。
真新しい白のシャツとチェックのスカートをだらしなく着た茶髪の少女は、横になって潰れたポニーテールを直しながら起き上がる。
「はっ。……ここは……教室……?私、何を……」
彼女はスマートフォンを取り出し、画面を見た。
ホーム画面に表示されている時間は、「あの時」のまま止まっている。
生徒手帳は朽ち始めており、写真も青みがかって色が剥げているところであった。
「『夏乃花火』……?そうだ、『私』の名前……!」
名前を見た瞬間、それが紛れも無く自分のものであることを自覚するとともに、今まで全く違う名前を名乗っていたような気もした。
「カフェ……そうだカフェ!カフェで、眠って……何で学校にいるの……!?」
慌てて立ち上がった花火は、廊下を駆け回り、現状を把握しようとする。
「あっ……」
「んな……?」
昇降口にて、花火は見覚えのある少女と遭遇する。
「あっ、あっ、名前、君の名前!私、知ってる!!えっと、確か『姫川』……!」
「『ルーナ』。……んな、今は『美月』って言った方が良いのら?」
「そうだ、美月さん!でも、ルー……ナ?っていうのは何かな?あだ名?」
「『まつりちゃ』は……少し時間が必要そうなのらね。何も細工しないで突っ込んできたからなのら」
己を「選定の王」、すなわち次元を超える者たらしめる術をかけないで「果て」を越えたせいか、花火の記憶は完全なものではないようである。
「えーっと……?どういうこと?美月さん、何言ってるの?」
「……ま、いいのら。詳しいことは後なのら、まずは外に出るのらよ」
「え?あ、うん!」
二人は廃れた校舎を飛び出して、そのまま「果て」の世界へ飛び出していく。
しかし、美月と花火が足並みを揃えて校庭へ飛び出した瞬間。
「「……へぇ?」」
視界を埋め尽くす程に大きな、朽ちた巨木に二人は目を奪われた。
「何、これ……」
「思ったよりひでーことになってるのら……」
「これは……どういうこと……?何が、起こったの……?」
「……『花火ちゃ』。『白上フブキ』については……どこまで知ってるのら?」
「白上フブキ……?」
「本名は『白雪 稲荷』。かつて人が『稲荷博士』と呼んだ、あの……妄執の化身なのら」
「稲荷!そうだ、稲荷!誰だか、まだよく分からないけど……花火の親友!その名前がどこからきたかは分からないけど……稲荷……あの子が、何か……あったの……?」
「……思い出してきたようなのらね、いいのら。その調子なのらよ」
美月は、「姫川 美月・姫森ルーナ」と書かれた、朽ちた紙を制服の胸ポケットから取り出した。
「これは……?」
「『名前』なのら。私……が『カバー』へ飛ばされる前に、この世界に戻ってきた時……『こっちの世界』の自分を忘れないように、名前をメモしておいたのらよ。……『名前』っていうのは、とても大切なものなのら。花火ちゃは……運が悪かったのらね」
「うん……。本当に、何があって町がこうなったのかさっぱりで……あの木は何?何で誰もいないの?」
花火は、木を指差して美月へ話をせがむ。
「ああ、その話だったのらね。花火ちゃの言う通り、アレは重要なものなのらよ。この世界の話をするときに……アレが無くっちゃ、何も喋れねーのら」
そんな花火をなだめながら、美月は改めて巨木を指差した。
「この木……何だかおかしいよ、さっきから変な気配がする……」
「それはそうなのらよ。この木は……簡単に言えば『世界樹』で、世界を支える大きな大きな木。燃えない、枯れない、壊れない……筈、だったのらけど……。……んー、これは口だけじゃ説明しにくいのらね。花火ちゃ、本当に忘れちゃったのら?」
「……お、お恥ずかしながら……」
「しょーがないのらねー。ちょっと待つのら」
そう言って、美月は散らばっている誰かの落し物の中からペンケースとノートを取り出し、花火がすっかり忘れていた出来事、抜け落ちていた記憶について書き始めた。
「ありがとね、美月。私……何も思い出せないんだ」
「……昔の花火ちゃに何があったかまでは知らねーのらけど、心当たりならあるのらね」
「ほんと!?」
「本当なのら。でも、それには……まず、この世界が何でこうなったかを知らなきゃいけないのらね」
「よろしくお願いしまーす、美月先生!」
そして花火は地面に座り、美月はノートを見せながらこの世界の在るべきであった最期の話を始めた。
エラー
この世界は、どこかで発生したエラーとは似て非なる世界
本来交わることも、存在する筈も無かった物語
それは、更なる現在が因果を引き寄せたものであった