〜死者の谷〜
半年前に突如として現れ、「カバー」の各地を蹂躙し、踏み荒らしては去っていく亡者の軍団、「ウルハ」。
その本拠地「死者の谷」では、王である「ウルハ 【名称喪失】」のオトモダチである「夜空メル」と、その直属のヴァンパイア達によって、古代兵器の発掘作業が行われていた。
「みんな、頑張って〜!」
「「「ウォォォォォォォ!」」」
メルの応援に、ヴァンパイア達の熱気は一段と跳ね上がる。
(吸血鬼なのに熱気とはこれいかに。)
いかにもな岩壁を砕き、空洞の奥へ進むメルとその眷属。
そこには、光を発している一つの大きな筒があった。
筒の中に、少女らしき姿が見える。
「お、女の子……?でも、なんでこんなところに?」
メルは恐る恐る筒の側に近づいた。すると、
「付近に、ヴァンパイアロード及び複数のヴァンパイア、反応あり。『Radical buster crusade Type 3O』、起動します」
突如、付近に設置されたスピーカーから機械じみたアナウンスが流れた。
「………………う〜ん。何か久しぶりのような気がする〜」
そして筒の側面が大きく開き、中の少女が飛び出してきた。
「わっ!?き、君は誰……?」
「ん〜?ボクは『Radical-buster-crusade-Type3O』。みんなからは『ロボ子さん』って呼ばれてるよ〜。キミは〜?」
「名前?『夜空メル』だよ!今日はね、あなたにお願いがあってきたの!」
「何々〜?」
「メルね、もっと仲間が欲しいんだ!だから、
「う〜ん、どうしようかな〜?……それよりもキミ、見たところ……ヴァンパイアロード、だよね?」
ロボ子の目が険しくなる。
ロボ子は元々、ヴァンパイアも含む「魔物は倒す」ようにプログラムされていたらしいが……今は人工知能の学習により、必ずしも「魔物を襲う」というプログラムの命令を実行しなければならないわけでは無くなっているようだ。
メルを見た瞬間、すぐに攻撃しなかったのはそのためだろう。
「そうだけど……」
「メルちゃん、人間は好き?」
「好き!……メル、ヴァンパイアなのに血が苦手で、昔から困ってたんだけど……人間の血は栄養バランスが良いから、ちょっとしか吸わなくて済むの〜!」
メルが笑顔でそう答えると、ロボ子は数秒間に渡って沈黙した後、
「そっか。じゃあ、そのお願いは聞けないなぁ」
右手の平から、黒く塗装されたチップのようなものを
取り出した。
「へ?おお、お、落ち着いて、ロボ子ちゃん!何をする気なの……!?」
そして、ロボ子がその箱にもう一度触れると、
「……展開。擬似神器『ガラティーン』」
周囲に紫外線を放つ、青いレーザーで伝説上の武器を再現したものへと変形した。
「え、ちょっと待って。……ロボ子ちゃんは人間が嫌いなの?」
先ほどの問答からして、「人間は好き」と答えたにも関わらず襲われそうになっている現状に、メルは違和感を感じた。しかし、
「好きだよ。でも、メルちゃんの言う『獲物として好き』なのとは違う。ボクは人間のことを、『護るべき創造主』として好きなんだよ」
「ロボ子ちゃん……」
「だから、ごめんね、メルちゃん。キミとは、ここで戦わなくちゃいけない」
ロボ子は無機質な目で、メルに刃を向ける。
「それなら、こっちもそうするしか無いね。……ロボ子ちゃんとは、良いお友達になれると思ったんだけどな」
胸に剣先を向けられたメルは、一歩後方へ下がる。
そして、自身の血液に秘められたヴァンパイアロードとしての力を解放した。
黒に黄色の紋様が刻まれた瞳は、右だけがみるみる赤く染まる。
牙は長く、指は鋭く変形し、メルの身体は人の血を奪い取ることに特化した形へと成った。
「……これが本当の姿なんだね、メルちゃん」
「ハァァァ……。じゃあいくよ、ロボ子ちゃん。友達になりたかったあなたとだからこそ、全力で!」
「臨むところだよ、メルちゃん!」
「「はぁぁぁぁぁぁっ!」」
ロボ子は、擬似的に太陽の光を再現したレーザーを纏わせた剣を構え、斬りかかる。
一方、メルは自身の血を凝固させて自身の両手に鋭い爪を生成し、ロボ子を切り裂かんと突撃した。
「っ!」
「やぁぁっ!」
しかし、ロボ子の剣がメルの爪に触れた瞬間、一瞬でメルの爪が液体の血に、そしてその血は灰と化して消滅してしまった。
「これは……ちょっと相手が悪かったかなぁ」
「やっぱり弱点は日光!なら!」
弱点を明確に看破したロボ子は、両手を通常のものからエネルギー系攻撃装置へと切り替え、先端に紫外線照射装置を露出させた。
「まずい!みんなー!撤退するよー!」
危機を察知したメルは、眷属のヴァンパイア達に帰還指令を送る。
そして、メル自身も身体を戦闘に適した形態から元に戻し、遺跡からの逃走を図った。
「紫外線照射装置、展開!」
「間に合わない!?なら、せめて時間稼ぎをしなきゃ!はぁぁっ!【
しかし、ロボ子の両腕から間もなく光が照射される。
逃走が間に合わないことを察知したメルは、自身の血を大量に使用して血の壁を作り、少しでも日光を遮断しようと試みた。
「逃がさないよ!照射範囲を絞って……。展開……!【擬似神罰・
「っ!きゃあああああああっ!?」
血壁に、光度を強めた太陽光を擬似的に再現したレーザーが照射されてから、僅か1秒後。
メルが自身の魔力を注いで強化した血の壁は溶け、光の柱はそのまま、メルの右脚を一瞬にして灰と化した。
「このまま、2本目の光を……!」
「逃げ……なきゃ……!【再構築】、【緊急離脱陣・流れ星】!」
メルは、莫大な量の血液と魔力を使用することで体組織を急速に再生させ、欠損した右脚をもう一度生やす。
そして、小型の転移陣を宙に描き、陣の名前通り、流れ星のように高速でどこかへ吹き飛んでいった。
この際、方向などはどうでも良い。
深い森の中であろうと、危険な恐竜が暴れ回る荒地であろうと、今ここで、危険な古代兵器のレーザーによって灰にされてしまうよりはマシだ。
眷属達は次々と焼け、灰となり、自分自身もどこかわからない場所へと逃亡することになってしまった。
この大惨事に、メルは、無理矢理捻り出したような悲痛に呟く。
「ごめんね、みんな……」
こうして、メルは眷属達の顔を思い浮かべながら、死者の谷を後にするのであった。
一方、ロボ子は、
「これで、眷属のヴァンパイアは全員倒したかな。みんな、ちゃんとあの世にいけますように。……さて、ボクはこれからどうしようかなぁ。とりあえず……今の世界を見て回ろうかなぁ!ボクが生まれた時よりも、文明はよわよわだけど……。その分、面白い魔法みたいなのがあるみたいだし!」
カプセル内で自身のメンテナンスを済ませた後、死者の谷を出て、付近の人里を探すのであった。
擬似神器
神話や歴史の中で語られる武器を擬似的に再現したもの
古代の文明は非常に栄えていた
故に、神話の再現も夢ではなかった
しかし、夢は鋼の少女を苦しめた
それでも彼らは手段を選ばなかった
栄光は、鋼の少女と夢があって初めて為されるものなのだ
彼らは、そう信じてやまなかった