この契約は、私のもの。
私が交わした、新しい契約。
腐る命は、お休みにして。
無理はしないで、受け入れよう。
~???・サーバールーム~
姫川美月は夏色花火へ世界の顛末を伝えた後、彼女がかつて「隠れ家」としていたサーバールームへと向かった。
この町には世界樹戦争以降、世界樹に最も近い町として、世界樹の力を管理すべく、様々な設備が置かれることとなった。
そしてこのサーバールームも、そんな世界樹を管理するためのシステムが入っていた場所、言うなれば、その残りカスである。
しかし、そのままではもはや無力でしかないプログラムの数々であったが、学生の身にしてプログラムに精通していた美月は、「カバー」へと転送される直前までそれらを全て書き換えていたようで。
「さあ、まつりちゃ。帰るのらよ、あの世界に」
「ねえ、世界が一回終わったのは分かったんだけど……何を言ってるのか、結局あんまり今の状況が分かんないんだけど……」
「まあ、『あちら』に戻れば分かるのらよ。『オルタナティブ・システム』起動……ほら、手を繋いで」
姫川美月はエンターキーを押し、「オルタナティブ・システム」なるものを起動。
「え、う、うん……!」
花火の手を掴み、転移カプセルの中へ入る。
数秒後。
起動した転移装置は、彼女らを改めて『カバー』へと送り込んだ。
~サーバ海・果て~
「二人共……何してるんですかねぇ……」
「流石に遅いよね……」
果てへと飛び込んだルーナとまつりを待つマリンとあくあは、船の上で寝転んでいた。
「この『果て』って……本当に、帰ってこれるんですかねぇ?」
「さあ……?」
そんな中、突如として「果て」の暗闇がプラズマを放ち始める。
「え、ちょ、何ですか急に」
「せんちょ、伏せてッ!!!」
あくあは、立ち尽くすマリンに覆いかぶさるかたちで、伸びるプラズマを回避。
光とともに「ズガアアアアアアン!」という轟音が鳴り響き、その中から、二人の少女が吹き飛ぶように出てくる。
それは、よく見慣れた少女達。
紛う事無き姫森ルーナと夏色まつりだった。
「ふ、二人共!?」
「よ、良かった、無事で……!」
「んなあああああああああ!!!全部、ぜぇぇぇぇんぶ『解った』のらあああああああああ!!!」
「待ってなーんにも覚えてないんだけどおおおおおおおおお!?」
「【アクアベール】!!!」
そして吹き飛んできたまつりとルーナを、あくあは空中に船の上空を埋め尽くす程のカーテンを生み出すことで受けとめる。
「ふう……。全部知ったそばからどうなることかと思ったのら……」
「全部って……何の事ですか、ルーナたん」
「そうだよ、一緒に行ったまつりも何が何だか分からないのに」
「何かあった筈なのに思い出せない」といった顔で頭をかかえるまつりをよそに、ルーナは座り込んで話を始めようとする。
しかし。
「ミツケマシタヨ……『全テヲ見タ者』……」
そこへ訪れるは一体の獣。
白い体毛を身に纏い、浮遊する一匹、というには巨大な狐。
「……ああ……やっぱり、あっちからこっちに行くのに機械使ったらバレるのらね」
「逃ガシマセンヨ……『姫川美月』」
「フン。大人しくあっちの世界でぬくぬく過ごしてるが良いのらよ、稲荷ちゃ!!!」
船の上から獣を見上げるルーナ。
「イ……ナリ……!?」
一方、困惑するマリンとあくあの横で、まつりは存在しない筈の記憶に頭を抱え始めた。
神なる者と、全てを見た女王。
少女達の世界を「識る」戦いの火蓋がまた、切って落とされた。
転移装置
かつて、世界樹を巡って滅びを歩んだ世界
その恩寵と災厄は、人々を狂わせ、世界を腐らせるに不足無かった
これは、肉体を冷凍して魂を稲荷博士の作った領域、「カバー」へと送り込むもの
魂を移す器、それはどこか、魂を還す樹に似ている