~サーバ海・果て~
宝鐘マリンの切り札に、意識と身体を分けられてしまった白い獣。
白い獣の意識は瞬く間に限ってだが止まり、それはまるで、彼女にとっての世界が一時的に「夢そのもの」と化すようであった。
しかし一方のマリンも、無理に己の精神へ刻みついた幻想へと干渉し、それをこの世界における「夢」として書き起こしたが故に、意識を失ってしまった。
宝鐘マリンは、夢に浸る。
マリンは、かつて多くの仲間をもつ宝鐘海賊団の船長であった。
かつて、マリンは船長であった。
マリンは船長であった。
それが最初だった。
気付けば、船長だったのだ。
宝鐘マリンは、船長であった。
宝鐘マリンは、海へ出た。
宝鐘マリンは、海へ憧れた。
【雑音】鐘マリ【雑音】は、海を見た。
【雑音】は、【雑音】た。
………………。
……「赤鐘 まり」は、 海へ出ることが叶わなかった。
赤鐘まりは、海を描こうとした。
赤鐘まりは、取り憑かれた。
描けない。
描けない。
描けない。
描けない。
描けない、描けない、描けない、描けない、描けない、描けない、描けない、描けない。
描けない描けない描けない描けない描けない描けない描けない描けない描けない描けない描けない描けない描けないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけないかけない。
赤鐘まりは、死亡した。
世界樹は、街に恵みをもたらした。
植物は生い茂り、人の世界は、その街を中心に栄え始めた。
……否、そのような法則が、この世界へと押しつけられた。
それが何者かの幻想によるものか、はたまた全くの偶然によるものかは、誰も知ることなどできないだろう。
世界は崩れた。
富も、愛も、命さえも。
そして、もう一度組み立てられた。
……赤鐘まりは、死亡した。
赤鐘まりは、蘇生した。
宝鐘マリンが、誕生した。
宝鐘マリンは、死亡した。
赤鐘まりは、死亡していない。
赤鐘まりは、蘇生している。
命は終わっていない。
歪み切った少女だったもの、しかし赤鐘まりの魂は、それでも正気を保ちながら、闇の中を進む。
宝鐘マリンも、赤鐘まりも、今では彼女という存在の「主要な枝」でしか無い。
あたしは、ここにいる。
海賊として海へ出たあたしも、かつて海に憧れたあたしも、どちらもあたしだ。
ただ、それだけが事実。
そして、その先。
「丁度……良カッタデス」
「なっ……!」
稲荷が生み出したであろう、真っ白な光の穴へ吸い込まれるように、空間と空間の狭間を潜り抜けると、そこには。
「え……?」
「ようこそ、いや……おかえり、というべきですかねぇ。『まり』さん」
かつて、憧れた海の絵がキャンパスに描かれている部屋があった。
世界樹
その樹は、世界となった
世界は樹によって歪められ、人々はそれが当然であったかのように過ごす
死は終わりではない
しかし、それは間違いなく無理をしていたのだ