~福音の廃城跡~
ねねは目を擦り、起き上がる。
爆心であるラミィと、その亡骸を抱きしめていたぼたんは跡形もなくなっていた。
そして眼前には自身と同じく、傷だらけのポルカ、おかゆ、そしてころねの三人。
この旅で得たもの。
亡者の掃討と、ころねの魂。
この旅で失ったもの。
ラミィ、ぼたんの命。
天秤にかけるにもかけようがないそれらに、ねねはただ、涙を流すしか無かった。
「こんな……こんな、結末」
「……ねねの先輩は助かったけど……他に得たものは、この終わりかけた世界の残りカス……か。二人の代わりには、ならないね」
ねねとポルカは、互いに肩を組んで支え合いながら城を去ろうと、歩き出す。
「じゃあ、こぉね達はこれで……」
「ぼく達は、フブキちゃんとミオちゃんの様子を見に行って来るよ。あちら側からの連絡が無い以上、無事とは限らないからね。ねねちゃんとポルカちゃんは……とりあえず、地上で何が起こっているか、情報収集をお願いね」
一方のおかゆところねは、転移陣を展開して、カミ達が居座っている筈の神社へと飛び去った。
しかし、安心したのも束の間。
瞬時に、ポルカの身体が宙へ浮かぶ。
重力が無くなったという訳ではない。
「……おま、るん……?」
「え?どうした、ねね……ごはっ」
血を吹きながら、ゆっくりと腹部を見下ろすと、そこには胸部を貫く氷の槍。
あまりに突然のことだったためか、はたまたアドレナリンと槍の冷気が悪さをしていたのか。
ポルカは痛みさえ感じていなかったようであった。
「……う、そ」
「ああ……『ラミィ』。お前は……最初から……」
「コマンド……000!【ピクセル・パルス】!」
ねねは瞬時に「カミ」の力を使い、空間そのものを歪ませて震わせる剣を生み出す。
そして、地面に座り込んだまま絶命したポルカとすれ違うように。
「【アイス・バリスタ】」
それは、確かに苦楽を共にした雪花ラミィと同じ容姿をもつものだった。
しかし、輝く黄色の瞳は黒の混じる紫色に染まり、その表情は貼り付けられた、まさに鉄仮面といった様子である。
そしてラミィのようなそれは、杖から氷の塊を発射。
「やあっ!はっ!」
ねねはパルスで氷を震わせて破壊し、続けてラミィらしきものが生み出した氷の砲台を破裂させて割り、続けてラミィの杖との鍔迫り合いへと持ち込んだ。
「……逃げ、なきゃ、逃げ、なきゃ」
「ラミィ!どうして!」
「逃げる、ため、キュウクツな、村、から」
「何で!」
「自由、が、欲し、かった」
「それなら何で!何で、おまるんを!」
「???逃げ、逃げ、ニゲ、ナ、イ、ト……」
「……その手は、もう」
ラミィは、「最初から」狂っていた。
村を飛び出し、追われていたところをぼたんに助けられたあの日。
ラミィは、「令嬢であるから」追われていたのではない。
あれから、ラミィを追う者は人っ子一人見つかっていない、それはラミィの真実そのものであった。
宿にて、緑色の髪をした少女に「印」を刻まれた時。
それは「ウルハ」として、自らの身を守るための妨害工作をしていた訳ではない。。
「ウルハ」は、辛うじて取り戻した自我を以て、「それ」を弱らせるための工作へ向かったのである。
ねねは、ラミィに引導を渡す。
「……ぐ、あ、あ」
「……さようなら、ラミちゃん」
全身を細かく震わせ、空間を歪ませる刃。
ラミィの心臓を貫くそれは、ついに純粋なる狂気を、いとも容易く打ち破った。
「……う、うう……でも、これで」
「もういい、もういいんだよ、ラミちゃん」
「世界は、正常に」
そう言い残し、ラミィは消滅する。
あの日は、遠く。
「……もう、どうしたらいいんだろ」
ねねはたった一人、廃城の跡へと残されてしまった。
ピクセル・パルス
空間を歪ませ、全てを細かく震わせることで、触れたものを瞬時に破裂させる権能
「ゲーマーズ」の遣いであったねねの、本来もつ「外」の力
その一端を解放するものである