奇跡の種は、山肌を転がり落ちる。
それは植えられることなく、岩場へ落下した。
それは岩に阻まれ、育つことなく行方をくらませたという。
美空時乃は桜に案内され、稲荷が管理している施設……かつて桜が「さくらみこ」として存在していた世界が管理されている部屋へと、足を踏み入れた。
そこで待っていたのは白雪稲荷と、制服を着た傷だらけの少女、赤鐘まり。
そして、外から送り込まれた少女……もとい、世界の滅びを知りながらも、「作り出された異世界」である、「カバー」を維持せんと、そこに発生したバグ、イコール腐敗した世界による侵食から、「輝ける者達」を守るために動いていた、桃鈴ねね改め、「杏 鈴音」であった。
「来て、しまったんですね。桜ちゃん」
真っ先に口を開いたのは、まりであった。
彼女は稲荷と対立し、美術室で刃を交えた。
「カバー」から持ち込んだ拳銃とナイフ、それが吹き飛ばされてからは、ペインティングナイフ、筆、全てを使って戦った。
しかし、まりは「カミ」である稲荷に勝つことはできず、そのまま縛りつけられてしまったのだそうだ。
その証拠に、桜がまりの足首と肩、そして手首を見ると、透明な縄で縛られている。
光学迷彩によるものだろうか、異世界である「カバー」と現実世界との境目が曖昧なものとなった今、現実はもはや現実と呼ぶには相応しくない、異常な世界であった。
「それで、何しに来たんですか。私のラボまで、はるばる」
「稲荷ちゃんは、この世界を続けようとしてるんだよね?」
「ええ。世界をごちゃ混ぜにして、中途半端に混沌とした世界にしてでも……私は、この世界をせめて残しておきたいんです」
「わたしもそう思ってた。でも」
「この世界は、どう足掻いても滅びる。私達だけが最後に、ほんの少しだけ他の命より長く生きていることと……何をしても、皆の記憶が捏造されている異世界を作っても、私達がここに居てしまっていることが、何よりの理由」
桜の言葉を遮り、時乃が口を開いた。
「何が言いたいんです」
「命を運んでくると書いて運命。あなたの好きな漫画に、そんなセリフを言ってる人がいたっけ」
「そうですね。今となっては、もう朽ち果ててその漫画も読めないかも知れませんけど。……残しておきたかったなあ」
「……まだ、生きたかった。って、言ったら?」
鈴音は目に涙を浮かべ、一言。
「またいつか会えるから大丈夫って言うよ」
時乃は、つい数時間前に桜へ話した言葉を繰り返す。
「……仕方ないですねぇ。どの道、このアジトがバレた時点で、白かm……いえ、私の野望は終わりです。甘んじて受け入れますよぉ、その未来ってやつ。また次の世界でも、あの漫画にまた会えると良いですねえ」
「この世界は、もう終わる。最後に……せめて、私達の魂が引かれ合いますようにって、もし神様がいるなら……そう、お願いしとこうかな」
時乃がそう言い終えた瞬間に、全ては消し飛んだ。
サーバーも、カートリッジも、大木も、校舎も、異世界に遺された魂も。
ビックバンによる、破壊と再生の始まりである。
しかし、ただ一つ。
その中で消えずに残っているものがあった。
「カバー」において栄えた旧文明の遺物。
型式番号、RBC-6853。
正式名称をRadical-buster-crusade-Type3Oとする、絡繰の少女。
そのOSに成り代わっていた、械塚 幸であった。
円環
世界は巡り、また新たな宇宙が誕生する
歴史は繰り返す
彼女は言うだろう
また、いずれ会えると