〜ブッシュ森林・アルマ村付近〜
「出て行け、人間……!」
アルマ村警備隊の隊長である不知火フレアは、侵入者に向けて弓を構える。
「待って!話を聞いて!団長……って言っても分かんないかもしれないから……。私!私はノエル!白銀聖騎士団団長の、白銀ノエルっていうの!あなたは?」
一方のノエルは、腰に下げていたメイスと剣を地面に置き、敵意が無いことを証明するように、両手を挙げる。
「余所者に名乗る名など無い!」
しかし、血走ったフレアの目は依然変わりなく、構えていた弓を引き、ノエルの頭部を狙って矢を放った。
「うわぁっ!?」
ノエルは咄嗟に身を引き、同時に右脚から繰り出した蹴りで矢を弾く。
「なるほど、全身が武器というわけか……!なら、もはや話をするまでも無いな!」
「待って、話をしよう!?」
フレアの耳に、ノエルの声は届いていない。
村での様子とは打って変わって、別人のような口調で、警戒心と殺気を剥き出しにするフレアの行動には、もはや「白銀ノエルという人間を信じる」という選択肢は存在していなかった。
「……もう一度警告する!ここを立ち去れ!さもなくば、殺す」
「立ち去らないし、死なないよ!団長は、この村に用事があって……。これ、この紙、見て!今日は、アルマ村の交流を……」
ノエルは上官からの書類をポーチから取り出し、フレアに見せるように指差す。
しかし、フレアの視界は依然として弓を構えたまま、魔術を用いて矢に炎を纏わせた。
「立ち去らない、か。……あまり手を汚したくは無かったけど……」
「何で……何で、そんなに拒むの……」
頑なに交流を拒むフレアの前に、ノエルは拳を握りしめる気力も無く、ただ立ち尽くすばかりであった。
「ここは、そういう村なんだよ。そして私も、そんな村で教育を受けた。そうなるのは当然だろ」
しかし、外部の人間をそこまで拒む理由、コミュニティが閉鎖的である理由は、フレアにも解っていなかった。
「そういう」人々に囲まれ、「そういうふうに」教育され、成長し、もう200年以上も生きてきた。
閉鎖されたコミュニティの中で育ってきた彼女に、それ以外の考え方などあり得なかったのである。
「そんな、そんなのって……」
ノエルの声は、震えていた。
しかし、その声こそ届けど、想いがフレアの耳に届くことは無い。
「さらば」
フレアの火矢が、ノエルの頭部めがけて放たれる。
「はっ!」
直後、ノエルは飛び上がり、火矢の矢尻に冷気を込めた脚を当て、矢を弾くと同時に火を消し、そのまま防壁や木を飛び回りながら、フレアが弓を構えている[[rb:櫓>やぐら]]へと飛び乗った。
「登ってきたか。ならば……!【
フレアはタイミングを合わせて、高速で矢を4連射する。
「はああああッ!」
しかしノエルは、その矢をメイスで弾き、4本目の矢を弾いたタイミングで飛び上がってフレアの背後をとった。
「なっ!?」
白銀ノエルは、巨岩をも破壊する怪力の持ち主。
彼女の手にかかれば、周囲の地形ごとフレアを跡形も無く消すことだって可能であったはずだ。
しかし、あろうことか、ノエルは背後から手を回し、フレアをぎゅっと抱きしめた。
「っ……!?」
4本目の矢を撃ってから、この一瞬で何が起こったのか、フレアには理解できなかった。
「こんな戦い、意味が無いよ……。だから、一旦落ち着いて。そして、話をしよう」
「……私の、負けか」
フレアは弓を降ろし、矢を矢筒に戻し、ノエルの方へ向き直る。
「良かった……!じゃあ、もう一回自己紹介するね。団長の名前は、『白銀ノエル』。白銀聖騎士団の騎士団長だよ」
武器を納めたフレアに対し、ノエルは改めて自己紹介をした。
「白銀聖騎士団……?聞かない名前だね」
「そう?そこそこ有名だと思ってたけど」
「いや、私が外の世界に疎いだけだと思う」
フレアは、自身の記憶を辿る。
しかし、やはりそんな名前の騎士団は、長老達にすら出てきたことが無かった。
「ところで……あなたの名前は?」
「私は『不知火フレア』。村の警備隊長をやってるんだけど……いやいや、まさか一対一で負ける日が来るなんてね」
フレアは、頭を掻きながら溜め息をつく。
「フレアっていうんだ〜!大丈夫、フレアも強かったから!戦ってて楽しかったよ」
「楽しまれてたのかー……そりゃあ勝てないはずだよね」
ノエルに攻撃する気が無かったとはいえ、あの白銀ノエルを相手に一応は無傷であったフレアも、相当な猛者なのである。
「ねえねえ、フレア。今日はさ、村に入れてくれなくても良いから……ちょっと、森の中を散歩しない?まずは、団長のことを信じて欲しいんだ」
ノエルは、まず彼女達の警戒心を解くところから始めなければならないと判断し、今日はフレアと遊び、少しでも、自身が村に害を及ぼす存在ではないということを信じてもらおうとした。
「いいよ、どうせ私は負けたんだし。今、こうして命があるだけでもマシだと思っておくよ」
しかし、言葉だけで解けるような警戒では無い。フレアは、まだ自身を捕虜として利用されると思っているらしい。
「団長はそんなにバーサーカーじゃないよっ!?……さ、行こ!フレア!」
ちょっとやそっとの会話で警戒心は解けなくとも、時間をかけて接すれば、必ず交流への糸口は見つかる。
ノエルはそう信じて、フレアの手を引く。
これが、アルマ村の未来を大きく変える、最初の出逢いであった。
白銀聖騎士団
白銀聖騎士団は、団長に白銀ノエルを置く騎士団
剛力無双の団長と名のある精鋭達で構成される、カバー最強の騎士団であった
かの団長に、死の文字は無い
今日も彼女は独り、任務に励むのだ