ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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桜吹雪と一陣の風

〜ムラサキ村・桜神社〜

 

冷たい風が吹く日の夜。

 

ムラサキ村の丘に位置する、桜を祀った小さな神社。

 

今日は、年に一度の奉納祭り。

 

紫と桃色、そして少しの赤で彩られた境内の中央では、桃色の装束を身に纏った少女が舞を舞っている。

 

そんな少女を、草むらから覗く怪しげな影があった。

 

「(さっきから、草むらの中に何かいるにぇ……)」

 

少女の名は、「さくらみこ」。

 

幼い頃から巫女としてこの神社で奉仕に励み、今では神主として務める、可憐な少女である。

 

舞にも集中しつつ、みこは付近の草むらに目を向けた。

 

「……?」

 

やはり、何者かの気配は消えない。

 

食糧を探しにきた野生動物がお供え物を狙っているのかと考えたみこは、一体何が供えられているのか、舞を舞いながら目を通すことにした。

 

そして、数分後。

 

舞が終わるとともに、音楽も止まる。

 

みこが一礼すると、村の人々は手を叩いたり、出店を見始めたりと、各々散り始めた。

 

そのタイミングを見計らってだろうか。

 

舞の直後、みこが少し目を離した隙に、お供え物から「人参」だけが見事に無くなっていたのだ。

 

「人参が……無い!?ど、どこいったーーー!!?」

 

みこは、必死になって辺りを探索する。

 

しかし、人参はどこにも見当たらなかった。

 

いつの間にか人参が無くなっていた。そのことが広まってしまえば、村の人々に少なからず不安が残るだろう。

 

みこは熟考の末、付近をよく観察してヒントになりそうなものを探すことにした。

 

生まれながらのエリートである自分に、不可能など無い。

 

……そう信じて止まない彼女は、神の奇跡を人間レベルに落とし込んだ追跡用の術、「【生気残し】」を使用する。

 

「足跡よ、出てこーーい!」

 

しかし、もうすでに犯人は付近から立ち去っているのか、この術によって見えるようになる足跡が、どこにも見えなかった。

 

「……しけてんにぇ」

 

みこは地団駄を踏みながら悔しがった。

 

〜TAKE2〜

 

「次は犯人じゃなくて人参を探すにぇ!【生気残し】!」

 

みこは再び、術を使用する。

 

今度は犯人ではなく、人参の生気を追う。

 

しかし、いや、やはりと言うべきだろうか。

人参は犯人に全て持っていかれてしまったのか、足跡、もとい残された生気は確認できなかった。

 

悲嘆に暮れるみこの背中に、再び、怪しげな影が一つ。

 

ひどく落ち込み、これからどうすれば良いかを必死に考えているみこに、影は懐から、一本の人参を差し出した。

 

「なーに落ち込んでるぺこ。これでも食べて元気出すぺこよ」

 

「あ、ありがとにぇ……ん?」

 

影から人参を受け取ったみこは、いざ、探していた人参を目の前にして状況を整理する。

 

「ん?どうしたぺこ?もしかして、人参は嫌いだったぺこ?」

 

「……【生気残し】!」

 

みこは両手を合わせ、祈りを込めて、「犯人」の生気を追う。

 

すると、たった今、生気の残滓を意味する煙は、みこに人参を渡した影の脚へと伸びていった。

 

「???」

 

「おめーが犯人かー!!!」

 

追っていた犯人である兎の獣人が目の前にいる。

このチャンスを逃すわけにはいかないと感じ取ったみこは、神主となって得た力、「桜花」を使い、辺り一面に桜の花を咲かせた。

 

「犯人っ!?どういうことぺこ!?」

 

「どうもこうもないにぇ!【包囲網・桜吹雪】!」

 

この神社には、桜が祀られている。

 

当然、そんな神社に桜の木が一本も植えられていないはずは無く、みこの術により、境内を囲む桜の木も次々と花を咲かせた。

 

そしてみこは、それらを一斉に散らせ、煙玉をも上回る隠密性を持つ桜吹雪を起こした。

 

「……ハッ!もしかして、ここの神主っておめーぺこかぁ!?」

 

「ご名答ッ!【桜花爆撃】!」

 

そして、みこは花びらに仕込んでおいた神秘の力を解放し、それらの一枚一枚を小型爆弾とし、兎の獣人を囲むように、爆撃を行った。

 

「ぺこーーっ!?」

 

全方位からの絨毯爆撃を受けた兎人間の少女は、どう足掻いてもみこの攻撃を防ぐことができず、全身に爆撃の傷を負う。

 

花びら一枚一枚の威力は強くないものの、おびただしい数のそれが全身を襲うのだ。

 

全身に強いデコピンを浴びるような感触だろうが、それでも全身に数百発ともなれば、さすがに身体能力が高い獣人といえども、無傷ではいられなかった。

 

「ど、どうだにぇ!」

 

「かぺぺぺぺぺぺ……」

 

人参泥棒の兎人間は、桜の花びらに包まれた状態で気を失っている。

 

みこは、彼女が付近の草むらに隠していた人参を発見し、それらをお供え物としてお社に戻した後、兎人間を抱き抱えて、居住スペースへと帰っていった。

 

この世界では、何かが起きている。

 

みこは、舞を舞っている最中に気付いたのだ。

 

「……赤い?」

 

赤。本来は提灯くらいしかこの場にないはずの色である「赤」が、境内を彩っていた。

 

みこは違和感を感じたが、それ以上、その赤について調べるといったことはしなかった。

 

 

 

彼女はエリートであった。それは確かだ。

 

彼女の勘は、神に奉仕する存在であるにもかかわらず、まるで神の如きものである。

 

とはいえ、彼女はまた万能ではない。

 

彼女は神では無いのだ。

 

 

 

ムラサキ村は、赤に染まる。

 

それは、甘酸っぱい恋の苺でも無く、人々を照らす焔の色でも無く、生臭い血の色さえ無い、ただ「大いなる赤」であった。




喰式


グラビティ・イーターの名で知られる黒魔術
「黒」の術式を残した魔術師の、新たなる遺品

かの魔術師は「黒」以外の魔術にも、本人にしか知り得ない術式を織り交ぜた

故にだろうか、グラビティ・イーターの名では何者も喰えぬ
鬼をも喰らうは神威を振るう、だが禍つ魔術である
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