〜天界の果て〜
天界の果て、身投げ場。
その外れ、処刑場跡にて、一人の少女は目的も無く彷徨っていた。
「ここどこ〜?なんかフワフワしてるし、ちょっと息苦しいなぁ」
彼女の名は「星街すいせい」。彗星の中から飛び出した、故知らぬ青髪の少女である。
すいせいは、残されていたギロチンから刃を抜き取り、刃の裏面を持ちながら、処刑人が着ていたであろう装束を身に纏った。
装束は、かつて血に塗れていたのだろうか。
赤黒いシミが全体にみられた。
「ん……?」
突然に、辺りの空が真っ赤に染まる。
そして、すいせいの周りを、罪人達の霊が囲み始めた。
「あれっ、もしかしてこれ……呪いの装備だったり……?」
戸惑うこともできないまま、悪霊の群れがすいせいを襲う。
いかにも普通ではない処刑人の衣類を身につけるという軽率な行動によって、突如として訪れた窮地に、なす術もなく倒れてしまうかと思われた、その瞬間。
「【流れ星】」
すいせいは星々に祈りを捧げ、周囲に彗星の如きスピードとパワーをもったエネルギー弾を撒き散らした。
なす術なく倒れていくのは、すいせいではなく悪霊の群れ。
彼女から放たれた無数のエネルギー弾は、悪霊達ごと処刑場跡一帯を破壊していく。
雲は破れ、処刑台は砕け散り、居住区と処刑場を分かつために置いてあったであろうバリケードも、塵さえ残さず吹き飛んだ。
「よし!星の力も使えるね!ここがどこだか分からないけど、ゲームの世界かな?なんでこんな事になったんだろう?」
すいせいは一人、両手の拳を握って、自身の力を確かめる。
握られた両手には、微かに冷たい、しかし蠢くエネルギーのようなものを感じた。
早速訪れた厄介ごとを払いのけ、市街地へ出ようとしたすいせいだったが、無人だったとはいえ、これだけ周りを巻き込んでおいて、タダで済まされるはずが無い。
物音を聞いて駆けつけた、天界学園の生徒会書記である天使、「天音かなた」が、羽を橙色に輝かせ、すいせいの眼前に立ちはだかったのだ。
「ちょっとちょっとちょっとー!何してるんですかこんなところでー!……これ、全部あなたがやったんですか……?」
「お、現地の人かな?あー!羽生えてる!」
慌てるかなたと、初めて会う現地人に感心するすいせい。
その温度差は、さながら氷山とマグマであった。
「この辺の住民はみんな羽生えてますよ?」
「何で?妖精?……いや、天使?」
「天使です。妖精の羽は、もっと細長かったり、透けてたりしますからね〜……って、今はそんなことを話してる場合じゃあないんですよ!」
「あれ?そういえば私、何で君に呼び止められたんだっけ?」
「……えーと、これはあなたがやったんですか?」
「うん。とりあえず現地に溶け込もうと思って、その辺に落ちてる服を着てみたら、霊が襲ってきてさぁ」
「そんなの着るからですよ……」
かなたは、すいせいが着ていた処刑人の服を脱がせ、元々着ていた、彗星をモチーフにしていたワンピースを露にさせた。
「おお!やっぱり、変なのは着ない方が居心地がいいや」
「あんなの着といて、逆によく無事でしたね?アレ、相当呪われてたものですよ?」
「逆に何でそんなものが放置されてるの」
「……あなたは、この辺りで起きた事を知らないみたいですね」
「ここには突然飛ばされたからね」
話はどんどん逸れていく。
しかし、かなたには説明するべき事と問うべき事が多すぎたのだろう。
話の順序など、さしたる問題では無いかのように話を続ける。
「なら、せっかくですし話しておきましょう。……この辺りは昔、処刑場だったんです。ついさっきまであったであろうギロチンも、さらに果てにある身投げ場も、全部、負の歴史が深く刻み込まれた地なんです。当然、置いてあるものは全部呪われてますよ」
「へぇ〜」
「割と深刻な問題なんですけどねぇ!?」
「でも、出てきたのはみんな倒したよ?」
「……その時に、周辺ごと悪霊を蹴散らしたと」
かなたはメモ帳を取り出し、すいせいが話した、一通りの状況についてメモをとり始めた。
「……ねえ、天使さんは何て名前なの?」
「僕?『天音かなた』。君は?」
「星街すいせい。……ここに来るより前のことはよく覚えてないけど、もっと変な世界にいた気がするよ」
「変な……世界?よくわからないけど、とりあえず……天界へようこそ!だね!よろしく、すいちゃん!とりあえず、学園来なよ!僕から話したいことは色々あるけど、まずは落ち着ける場所に行かないと」
「ありがとう、かなたん。じゃあ、案内してもらおうかな」
すいせいは、浮遊しながら天界学園へ向かうかなたの後を追う。
そして、他愛の無い話の後、かなたは当分の間、生徒会員の権限を使用して、寄宿舎の部屋をすいせいに貸すことにした。
二人の少女は、定着した。
それは切れぬ糸のように。
それはこびりつく血のように。
この少女達もまた、導かれるのであった。
「カバー」は、動き始めた。
少女達の運命と共に、歪み、廻り始める。
それでは、ヒトのようではないか
流れ星
己との繋がりがある概念を持つ星に似せたエネルギーの弾丸を放出する
星に祈りを捧げる、その姿は滑稽に見えよう
また、周囲を巻き込んで星々の力を振るう様は人々にとって暴力的な未知故に、侵略者の所業と揶揄される
所詮は、全て力無き者の戯言であろうに