ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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在りし日の海賊団

〜サーバ海〜

 

雄大な空と海が広がる、サーバ海。

 

たった一人の海賊団は、旧友を探して今日も大海原を進む。

 

「はぁ。船長は……本当に、このまま船長をやっていても良いんでしょうか……」

 

赤髪に三角帽子を被った少女は、ため息をついた。

 

宝鐘海賊団船長、「宝鐘マリン」。それが、彼女の名である。

 

五年前、圧倒的なカリスマ性を持った少女が率いる宝鐘海賊団の名は、世界中に広がった。

 

海賊というよりかは、優秀なトレジャーハンター達の集団であったが、船長のマリンがそう呼ばれることを望んだ故に、リスペクトを込めて海賊と呼ばれていたらしい。

 

そして船長のマリンには、幼い頃、いつか本物の海賊になった時は、副船長に任命すると決めていた親友がいた。

 

その親友の名は、「潤羽るしあ」。

 

少女の姿ネクロマンサーの少女である。

 

しかし、そんな彼女らを、一頭の巨大な飛竜が襲った。

 

〜二年前〜

 

船長のマリン、副船長のるしあ、そして多くの船員を乗せた船は、飽きることも無く宝を探して大海原を巡る旅に出ていた。

 

「ねぇマリン。そろそろ帰らない?この辺は竜の気性が荒くて危ないって……」

 

「ダイジョブダイジョブ〜!この辺りならまだ、大した竜なんて出ませんよ〜」

 

「そんなこと言ってると……あーっ!」

 

るしあが上空を指差し、叫び声を上げる。

 

「どうしたの、るしあ!?」

 

「あれ見てよ、あれ!絶対ヤバいでしょ、あの鳥!」

 

るしあが差した先には、かの有名な「アルゲンタヴィス」が、荒れはじめた空を滑空しながら、こちらを睨んでいた。

 

「……どうやらアイツ、船長達の船を狙ってるみたいですねぇ?」

 

「どうする?引き返した方が……」

 

「いいや……殺っちゃいましょう!」

 

つい先ほどとはうって変わって、マリンとるしあの目つきは瞬く間に鋭くなる。

 

「命の楔より解き放たれし、無垢なる霊よ……るしあに力を分けてくれ!なのです!!【冥々蝶々(ヘイル・バタフライ)】!」

 

「何かよくわかりませんけど、船長、あなたには性的な良くない思い出が付き纏いそうだと本能が感じ取ったので、落としちゃいますよー!【返事の鉛(レスポンス・オブ・ドレイク)】!」

 

るしあの霊魂とマリンの弾丸が、それぞれアルゲンタヴィスの顔面と腹部に命中する。

 

「当たったのです!」

 

「ヨォーシ、いいぞぉ!このまま続けて……」

 

しかし、喜んでいた時間も束の間。アルゲンタヴィスは墜落したと見せかけて雷を纏い、マリン達が乗っている船に捨て身の突撃を仕掛けたのだった。

 

まるで雷が落ちたような音が、船上に鳴り響く。アルゲンタヴィスは「サンダーバード」と呼ばれているが、本当に「サンダーバードと呼ばれているだけ」のソレが、何故雷を纏うことができたのだろうか。

 

アルゲンタヴィスが頭を沈めている船底には大穴が空き、瞬く間に船は沈み始めた。

 

「しまった!くっ、船長としたことが!キミたちぃー!無事ー!?」

 

しかし、返事は返ってこない。

 

逃げ場の無い海に、電気を纏った怪鳥が突っ込んできたのだ。

船内、つまりは水面より低い位置にいた船員が、感電していないはずが無い。

 

「マリン……!」

 

唯一耳に入ってきた声は、親友るしあのか細い声だった。

 

「るしあーっ!泳げる!?」

 

しかし、小学校の水泳はおろか、何の訓練も積んでいないるしあが泳げるわけも無く。

 

「無理……なのです……!るしあはネクロマンサー……ずっと引きこもって死霊魔術の研究ばっかりしてきたから、泳ぐ方法なんて知らないのです……!」

 

「るしあ……っ!」

 

マリンは、溺れかけているるしあに手を伸ばした。

 

るしあはその手を掴もうとするが、中々届かない。

 

そうこうしているうちにアルゲンタヴィスが水中から頭部を出し、再び羽ばたいて滑空を始める。

 

沈む船、手を伸ばすマリン、今にも溺れそうなるしあ。

 

状況は最悪だった。

 

るしあは何をせずとも勝手に溺れると思ったのか、アルゲンタヴィスはマリン目掛けて急降下を始める。

 

「マリ……ン……がぼがぼっ、ゲホッ!マリン、後ろ!!」

 

「え……」

 

アルゲンタヴィスのくちばしが、マリン目掛けて突撃してきた。

 

マリンは拳銃を構えようとするも、トリガーを引いた時にはもう身体を貫かれているであろう距離まで詰められている。

 

もし死んでしまっても普段ならるしあが生き返してくれるのだろうが、生憎、そのるしあは今にも溺れそうな状態だ。

 

「あっ。船長、死んだワ」

 

マリンが目を瞑り、覚悟を決めたその瞬間。

 

「ゔあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!(【断末魔(ラストカーニバル)】)」

 

るしあは手を口元に添えて拡声器に見立て、喉が張り裂けるほどに咆哮。

その衝撃をアルゲンタヴィスの首、その一点に注ぎ込んだ。

 

「グェッ」

 

アルゲンタヴィスの首は貫かれ、体内に侵入した叫び声の圧力で、身体中の血管という血管が破裂する。その後は、ピクリとも動かなくなった。

 

そしてるしあもまた、溺れかけていたにもかかわらず無理して反動が大きすぎる禁術を使用したためか意識を失ってしまい、水中に沈んでしまった。

 

「るしあ!?るしあ!?どこなんですか、るしあーーーー!?」

 

マリンはるしあを探し回った。

 

沈みかけている船の上はもちろん、沈んでしまった船内、付近の水中、漂流している可能性がある付近の島など、周辺をくまなく探索した。

 

しかし、いつまで経っても、どこを探しても、るしあが着ていた服の布切れ一枚すらも見当たらない。

 

「船長が悪いんだ……。るしあの言う通り、あの時引き返しておけば、あんな事には……るしあ……皆……!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

悲嘆に暮れ、大粒の涙を流しながら、有事の際に備えて用意しておいたボートに乗って移動して何とか付近の有人島まで辿り着いたマリン。

 

しかしその涙は、ボートが島に到着しても止まることは無かった。

 

 

 

そして、今も彼女は……残された一人きりの宝鐘海賊団船長、宝鐘マリンは、親友や船員達の帰りを待ちながら大海原を彷徨っている。

 

友情。

 

可憐な少女の容姿をとったネクロマンサーが、親友にかけた唯一の呪いの名であった。




詠唱


魔術や特殊な技などは、「カバー」が持っている「幻想世界」という概念から、自身が思い浮かべている攻撃を詠唱により「幻想という曖昧な概念から引き出す」ようなかたちで「実現」する

それらを無詠唱で実現させることは不可能では無いが、カバーという世界そのものが魔術や技を認識することが困難であるためか、発動まで時間がかかる、威力が弱まるなど、何かしらの枷が生じる

世界とは一種のシステムなのだ
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