ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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出航!新生宝鐘海賊団!

〜サーバ海・名も無き島〜

 

サーバ海に浮かぶ小さな島の、これまた小さな家屋の一室。

 

マリンメイドの少女「湊あくあ」は、意識を取り戻した。

 

「あれ……?ここ、どこ?」

 

意識を失う前とは景色が違いすぎたのか、情報量の多さに困惑するあくあ。

 

あくあが寝ているベッドから一枚の扉を隔てた部屋には、キッチンがあるのだろうか。

何かを炒めているかのような音が聞こえてくる。

 

「とりあえず、家主の人に挨拶しないと……」

 

あくあは扉を開き、キッチンで鼻歌を歌いながら料理をしているマリンに挨拶を試みる。

 

「あ、あのっ、お、おは、ッスゥ-……おはようごじゃいますっ!!」

 

しかし人見知りが祟ったのか、あくあは緊張のあまり、何回も言い直した挙句、最後に大きく噛んでしまった。

 

「おはよう。身体も冷たかったし、衰弱してたみたいだけど、元気そうで一安心だワ」

 

「やっぱりあてぃし、溺れてたんだ。何日くらい寝ちゃってました?やっぱり三日くらい……」

 

「一週間、ずっと寝てたけど」

 

「一週間!?ッスゥ-……エ-ット、ソレハタイヘンゴメイワクヲオカッ、オカケシマシタァ……」

 

眠っておきながら体感時間も何も無いような気もするが、それでもあくあは、思っていたよりも二倍以上長い日数が経過していたことに、そして、その七日間ずっと見知らぬ人の家に居座ってしまったことに、驚きと罪悪感を感じずにはいられなかった。

 

「ダイジョブダイジョブ〜。船長、お金ならあるから」

 

「船長?」

 

「あっ。……つい昔の癖で、自分のこと船長って言っちゃった。あたし、昔は海賊やってたんだよね〜」

 

「へぇ……」

 

「まあ、ちょっとした事件の時に、船長以外は割とあっさり全滅しちゃってさ。そういえば、アレからトレジャーハントも海賊業もやってないねぇ」

 

マリンは少し俯きながら、かつて船長として大海原を旅していた頃を思い出す。

 

「それで今、この島にいるんですか?」

 

「そういうこと。魚釣ったり、野菜育てたりして……陸の方まで買い物に行く機会は少ないかもね。さ、昼ご飯も出来たことだし、とりあえず食べなよ。ずーっと寝てたんだから、お腹も空いてるでしょ?」

 

マリンは、皿に盛りつけたサーモンのムニエルとフォカッチャをテーブルに並べ、あくあをイスに座らせ、料理を食べるよう促した。

 

「えっ!いいんですかぁ!?」

 

「もちろん。寝かせるだけ寝かせといてパンの一枚も食べさせないのも気が引けるしね」

 

マリンはフォカッチャを一口[[rb:齧>かじ]]った後、テーブルに並べ忘れていたことに気づいたのか、自分とあくあ、二人分の水をジョッキに注いで持ってくる。

 

「んー!美味しいー!」

 

「うんうん、キミみたいな可愛い女の子に喜んでもらえて、船長は嬉しいですよぉ!」

 

マリンはあくあの顔を眺めながら、その頬を少し緩めた。

 

 

「船長……かぁ。そういえば私、自分のこと何も覚えてないや。……名前も、何もかも」

 

「ん?もしかして、記憶喪失ってヤツ?」

 

「多分そうだと思います。何となく、ずーっと……この島みたいなところにいたような気がするってことは覚えてるんですけど」

 

あくあは窓から外を眺めながら、どこか故郷を懐かしむかのような視線をマリンに向ける、

 

「……じゃあさ。船長と一緒に、海に出てみない?」

 

「えっ?」

 

「だーかーらー。船長のボートで、沖の方まで行くんですよぉ。海とか島とか……そういうものに、懐かしさを感じるなら、実際にそういうものが目に映る景色を見に行くのが一番だって、昔読んだ本に書いてあったし!」

 

料理をあっという間に食べ終えたマリンは、かつて着ていたであろうジュストコール(コートのようなもの)とパンツを取り出し、海賊帽を被った。

 

「えーと……?」

 

「キミがそのご飯を食べ終わったら、一緒に出航するよ。……と、その前に。船長の名前を教えてなかったね。あたしは『宝鐘マリン』っていうんだ。『船長』とか、『マリンたん』とか……好きに呼んでね。あと、丁寧な言葉使わなくても大丈夫だよ。海賊はみんなそんな感じだからね」

 

「いいの?ありがとう。それにしても、マリンちゃんかぁ。今も昔も海の側で暮らしてる船長にピッタリな名前だね!」

 

「へへっ、ありがとう。そういえば……キミは名前も思い出せないんだっけ?」

 

「実は……ね」

 

あくあは、少し申し訳なさそうな表情をする。

 

「じゃあ、船長が名前つけてあげようか?」

 

「えっ」

 

物心がついてから、誰かに名前をつけてもらう。

 

人格を持つ存在にとって、そんな機会は滅多に存在しない。

故に、遺伝子にも社会にも、そんな常識は組み込まれていないわけである。

 

当然ながら、あくあも驚いて「えっ」と声を漏らしてしまう。

 

「嫌ならテキトーに呼ぶけど……これから先、船長のところを離れることになった時とか……仮の名前が無いと不便かなって」

 

「い、嫌なわけないじゃん!恩人につけてもらう名前なんだから!それに……マリンちゃんは、少なくとも今のあてぃしにとって、初めての友達なんだし!」

 

「そうなの!?良かったー!なら、船長がとっておきのを用意しちゃおうかなー!」

 

「用意してあったんだ……名前」

 

「まあ船長たるもの、急遽何かに名前をつけなきゃいけなくなった時に、つける名前くらい用意しとくでしょうよ」

 

初耳である。海賊とは……そういうものなのだろうか。

 

「……決まった?」

 

「うん!決めた!今日からキミは『湊あくあ』!漂流してた紫玉ねぎちゃんには、ぴったりな名前だと思うけど」

 

「紫玉ねぎ!?」

 

「あくあが船長の船に漂流してきた時、一瞬だけそう見えたから」

 

「そんな状態で漂流してたんだ……変な顔してなかったかな」

 

気絶していた時の自分がアホ面をしていなかったか、今更になって気になり始めるあくあ。

 

そんなあくあを横目に、マリンはサーベルと拳銃を手に取り、四人用の小さなボートに乗り込む。

 

「さあ、準備もできたことだし、行くよ、あくたん!いざ、陸とか島がよく見える所らへんへ!出航ー!!」

 

「あくたんって、私……?あわわわわわわわ、しゅ、しゅしゅしゅ、出航ー!」

 

「違う違う、ついていく人は『ヨーソロー!』って言うんだよ」

 

「ヨーソロー!!」

 

マリンとあくあはボートに乗り、二人で海へと旅立った。

 

あの頃のように大きくもなければ、最新型の大砲が設置されているでもない、ただの小さな手漕ぎボートは、みるみる浜辺を離れて沖の方へと進む。

 

二人を乗せたボートは風に乗り、かつて沈んだ船に掲げていたものと同じ、ボロボロになった宝鐘海賊団の旗をはためかせていた。




時雨


「カバー」には稀に、異世界より人が流れ着く

そして流れ着く命は、とある「カミ」によって生み出されたものだという

カミが人を生み落とす様と、母が子を産み落とす様
それのどこに差異があろうか
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