ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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名前も知らない友人 中編

〜追憶2〜

 

「カバー」某所。

 

雪原近くの町外れに、サーカス団がテントを開いた。

 

これは、白に飲まれた少女が光を見出してすぐ、独立を計画している頃。

 

あの夜に似た、天を光が彩った日の翌朝であった。

 

「さっっっっっっっっっっむ!!」

 

一人、宣伝のために街を回らされていた道化の少女、尾丸ポルカは、肌の露出が多い衣装のままテントから出てきてしまったことを悔やんでいた。

道端で震えながら、看板を掲げているポルカ。

 

そこへ、二人の少女が現れる。

 

「ん?ガクガク……どうしたのかな?ブルブル……サーカs、クシュンッ!サーカスに興味があるのかい?」

 

そして二人の少女は、

 

「お願いします、助けてください」

 

「ごめんね、ちょっと失礼するよ」

 

そうポルカの耳元で囁き、そのまま楽屋テントへと潜り込んでしまった。

 

「えっ、あっ、ちょっ」

 

突然の出来事に戸惑うポルカだったが、一体、少女が何か逃げていたのかは、すぐに判明することになる。

 

「あー、そこのお嬢さん。髪が水色な女の子、見なかった?」

 

市街地の方から、杖を持った魔術師らしき男性が、ポルカに尋ねてきた。

 

男が探しているであろう少女は恐らく、つい数十秒前、ポルカに「助けてください」と頼み込んできた方の少女のことであろう。

 

「あー、見てないですねー」

 

ポルカには、少女達が潜り込んでいったテントに、男を案内するという選択肢もあった。

 

しかし、半ば勝手にテントへ潜り込まれたとはいえ、少女に緊迫した表情で「助けてください」と頼まれて、それを聞かないポルカでは無かった。

 

「……そうか。ありがとう」

 

男は残念そうに肩を落とし、さらにブッシュ平原の方へと走っていく。

 

その姿を見送ったポルカは、ゆっくりと学やテントの中へ入り、物陰で息を潜める二人の少女に声をかけた。

 

「二人とも、もう出てきていいよ」

 

ポルカが木箱の影から、二人の少女が被っていた布切れを剥ぎ取る。

 

「いやー!危なかった!」

 

少女の片割れ、黒いスーツに白い髪が特徴的な少女が、大きなため息をついて、安堵したように頬を緩めた。

 

「……はぅ」

 

一方、もう一人の少女は全身に込めていた力が抜けたように、ため息と共に声を漏らした。

 

「事情を説明して欲しいんだけど……何がどうしてこうなったのさ」

 

「いやあ……私達、捕まっちゃいけなくてね」

 

「何かやらかしたの?」

 

「そういうわけじゃ無いんだけど……」

 

何故か質問に答えようとしない白黒の少女。

 

しかし、ここで水色の少女が口を開く。

 

「あ、あのっ!実は私……」

 

少女が事情の説明を始める。

 

そこそこ長い話であったため、要約すると、

 

水色の少女は雪原に築かれた集落を治める一族の長、その娘であり、彼女は父親である長による[[rb:雁字搦>がんじがら]]めの生活に耐えられなくなってしまい、逃げ出してきた……ということらしい。

 

そして白髪の少女、獅白ぼたんとは、道中で通りかかった銀獅子族の集落で知り合って、そのままここまで一緒に旅をしてきたようだ。

 

「なーるほど。で、あの魔術師みたいな人が追っ手?」

 

「はい……」

 

「えーっと、お嬢様生活でそういう癖が身に染みついちゃったのかもしれないけど、そんなにガチガチな感じというか……[[rb:畏>かしこ]]まらなくていいよ。タメ口とか、あんま気にしないし」

 

「そう……なの?じゃあ、普通に話そうかなぁ」

 

「いやー、大変だねぇ。私は趣味でついてきちゃっただけだけど……そっちは逃避行なんだから」

 

「ほんとだよ〜……。でも、ししろんが一緒に来てくれたから、ここまで来れたのかも」

 

「私はついてきただけなんだけどね」

 

ぼたんは照れ隠しのためか、立ち上がって近くの箱をテーブルに使い、拳銃のメンテナンスを始める。

 

ポルカは二人の様に、かつての自分とねねを重ね、自分と二人の間に残る溝に目を向けてしまったのか、少し虚しさを憶えるのだった。

 

二人は、共に困難を乗り越えて旅を続けてきたきた仲。

 

それに対して、自分はしがないサーカス団員。

ただ、追っ手から二人を匿っただけ、それだけの理由で二人と関わっているだけの存在ある。

 

「はぁ……ツイてないなー。やりたいサーカスは出来ないのに、レッスン漬けで友達はできない。友達ができたと思ったら、いつの間にか消えちゃうし。……この空に光ってる星が、全部ポルカのホログラムだったらなぁ……きっと、いつもみたいにキラキラ光って……いや、こんなこと考えても仕方ないか」

 

ポルカは星空を見上げながら、微睡みの中で空を眺め、かつての友人を夜空に描いていた。

 

しかし、その顔が夜空に映ることは無かった。

 

思い出せないのだ。

 

どうしても、どんな顔を想像しても、それはかつて過ごした友人の顔では無い。

 

「……はぁ」

 

ポルカは、友人の顔さえ思い出せないのかという虚しさのあまり、大きなため息をついた。

 

刹那、夜空に流れる星が一つ。

 

「あ……」

 

ポルカは思わず、星を目で追ってしまう。

 

目線が星へ向かい、真上から少し目を逸らした、その瞬間だった。

 

「……お〜まるん。久しぶりだね」

 

「っ!?」

 

いつか見た少女、たった一人の友人が、目の前に現れたのだ。

 

「また会えてよかった!前会った時の夜は、一緒に寝てたら連れ戻されちゃって……朝起きた時、びっくりしなかった?」

 

「うっ、うっ……ねねち……!幻じゃ無いよね!?」

 

「そりゃそうだよー。ねねはちゃんとここにいるよ?」

 

「うわあああああああん!!会えてよかった……あえてよがっだよおおおおおお!!」

 

ポルカはねねに抱きつき、その質感を確認する。

 

自身の手の中には、柔らかくて、ほのかに桃のような香りを漂わせる、正真正銘、知っている桃鈴ねねの身体があった。

 

「本当に、久しぶりだね。おまるん」

 

そして、ねねもポルカの背中に腕を回して、優しく抱きしめ返す。

 

そこに、いなくなったポルカを心配して探しにきた二人の少女も駆けつけてきた。

 

「おーい!」

 

「心配しましたよっ!」

 

「二人とも、わざわざ探しに……?」

 

「そうですよ!もし、私の追っ手に殺されでもしたら……」

 

「物騒な事言うね!?」

 

「ところで……そっちの女の子は誰?」

 

「この娘は桃鈴ねね。本当に……しばらくぶりに会った、ポルカの親友だよ」

 

ポルカは涙を流しながら、ねねの肩を抱き寄せた。

 

そして、尾丸座が公演を続けている間、ポルカ達は街の中心部や、ブッシュ平原の野原など、付近を探索して回った。

 

「この子どうするー?」

 

「とりあえず親を探さないとね」

 

「でも親っていっても……どうやって探すの?」

 

「ねねわかんない」

 

時には迷子の親を探し回り、

 

「どわーっ!魔物だー!骨の魔物ー!助けてししろ〜ん!」

 

「任せなっ!!次、ハイ次!ドーン!ドーン!」

 

「ししろん、援護するよ!」

 

「ちょちょ、危ない危ない!ねね達も巻き込まれちゃうよ!」

 

時には魔物の群れを蹴散らし、また時には、

 

「おいひ〜……。これ、テントに持ち帰って次の公演先までのお供にしたいなー」

 

「え?腐らない?ねね心配だよ?」

 

「腐るね」

 

「腐りますね」

 

B級グルメを食べ漁りながら、四人にとって夢のような日々を過ごした。

 

一人は家柄に束縛されず、一人は生を証明し続け、一人は好奇心を解き放たれ、一人は現実から目を背ける。

 

そして、過ごした時こそ短いものの、それぞれにとって大切な友達と旅をすることができたこと。

 

それは、きっと彼女達にとって素晴らしい日であった。

 

しかし、そんな日々も長くは続かない。

 

尾丸座は、カバー全体を回りながら公演を行うサーカス団。

 

長くないうちに、滞在している地とはしばらくの別れを強いられる事となる。

 

そして数日後。

予定通りのことではあったが、ポルカのいない尾丸座は、ついに千秋楽を迎えた。

 

「……終わっちゃったね、最後の公演」

 

テントを遠目に眺める一同。

 

ねねは、尾丸座のテント上空に打ち上げられた花火に目を向けると、どこか憂いを含んだ表情を浮かべた。

 

「ねえ、ポルカはこれからどうするの?やっぱり、お父さん達と一緒に行くの?」

 

「……そうするつもりだよ。まだ、家出の準備は整ってないからね」

 

「家出をするために家に帰るなんて……ふふっ。なんか……面白いね」

 

「でしょ?ポルカの人生、面白くてナンボだよ!やっぱり、自分が面白く生きてこそのエンターテイナーだからね!……それじゃあ!」

 

ポルカは胸を張り、腰を上げてテントへ向かって歩き始める。

 

「……おまるん!」

 

「ん?」

 

「また、会おうね」

 

「うん」

 

「短い間だったけど、楽しかったよ!」

 

「うん」

 

「……じゃあね」

 

「……うん」

 

ポルカの頬を、数滴の涙が伝う。

 

しかし、ポルカは振り向かなかった。

 

もし、その目を背後に向けてしまったら。

 

もし、もう一度、三人の姿を目に入れてしまったら。

 

きっとポルカは、二度とテントに戻ることはできない。

 

だから……さようなら。

 

そっと呟き、ポルカは手を振る。

 

しかしその時でさえも、結局ポルカは、その顔を見せることは無かった。

 

その後。

 

また夜空に一つ、星が流れた。

 

 

 

ポルカがサーカス団のテントへ戻り、尾丸座がバッカスシティを出発してから数日後。

 

ねねが帰って行き、二人きりになってしまったぼたん達は結局、追っ手に捕まってしまった二人の少女は、各々が住んでいた村へと帰された。

 

片方は不本意であったが、もう片方は、そろそろ旅も止め時であると感じていたようだ。

 

その後、長い時が流れた。

 

月は一定の満ち欠けを繰り返し、星空は変わり映えしない普通の日々。

 

そして、そんな日々を繰り返すこと、はや数年。

 

 

 

それは、星降る夜のことであった。

 

河川敷で眠りこけていたポルカとねねは同時に目を開き、互いを見つめる。

そして、

 

「……おまるん?」

 

「ねねち……?」

 

 

 

少女達は、全てを思い出した。




不死者

一度以上の死を経験し、しかし乗り越えた者

多くは理性を失い、魔物として現世を徘徊することとなる

しかし稀に、理性を保ったまま不死者となる者も有る
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