ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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名前も知らない友人 後編

〜翌日未明・おまる座テント〜

 

宿酒場から飛び出してきた二人の少女。

 

雪花ラミィと獅白ぼたんは、見覚えのある、少し小さなテントへと向かう。

 

かつて銀獅子族の集落が滅びる直前、おまる座は公演を行っていた。

 

そこで再会したぼたんとポルカは、かつての思い出を語り明かし、それからというもの、かなりの頻度で連絡を取り合っていたのだ。

 

そして今日は、数日前にポルカが頼んだホログラムの発生装置を届けにやってきたのである。

 

「お邪魔しまーす。お待たせ、おまるん」

 

二人の片割れ、白いライオンの獅白ぼたんは、テントの玄関にあたるスペースで目を擦りながら待っていたポルカに、片手に収まる程度の小さなホログラム投影装置を投げ渡す。

どうやら、ラミィと出会う前に、滅びた故郷の跡から持ってきたものらしい。

 

「はい、お疲れ〜」

 

ポルカは、ホログラム投影装置とドローンを受け取ると、すぐさま自身の腕部や腰部に取り付ける。

 

一方、ねねはテントの奥で熟睡していた。

 

昨晩、互いがかつての親友だということを思い出したねねとポルカは、互いに抱擁し、手を繋いでテントへと帰り、そのまま思い出について小一時間ほど語っていた。

 

しかし、問題はその時間である。

 

深夜も深夜、変な時間に二人で目を覚ましてしまったことが問題だったのだろう。

 

ポルカは夜更かしする癖があったため、無理して早起きすることにも慣れていた。

一方で、ねねは早寝早起き、朝日と共に起き、夕日と共に寝るような人間である。

 

そんなねねに遅寝早起きなど、できるわけが無かったのである。

 

「ねねち〜。お客さんが来てるよ」

 

「ねねちって……え?」

 

ポルカは、テントの奥で熟睡しているねねの身体を揺さぶる。

 

「ふぁぁ……って、あれ?ししろん!?」

 

掛け布団に絡みつくような体勢で寝転がっていたねねだが、ぼたんの顔を見るなり、布団を吹き飛ばして起き上がり、人間離れしたスピードでテントを飛び出した。

 

「ねねち!?本当にねねちじゃん!」

 

「久しぶり〜!えっ、おまるん、何で言ってくれなかったのー!?」

 

「そうだよ〜。おまるん、ねねちと会ったなら言ってくれればいいのに〜」

 

「いやー、実は、この事を思い出したのがつい今朝と言いますか何というか」

 

一瞬、ねねの顔が曇る。

 

「確かに。私も、実は今朝まで、ねねちゃんの事忘れてたかも」

 

「何かねねの扱いひどくなーい!?まあ、ねねも二人との思い出……つい今の今まで忘れてたけど」

 

「なんだよーねねも忘れてたんじゃねーかよー」

 

頭を掻くように目を逸らすねねを人差し指でつつくポルカ。

 

このように、ぼたんとポルカは[[rb:然程>さほど]]気にしていないようだったが、ねねは、一連の流れに違和感を抱かずにはいられなかった。

 

ぼたんとポルカは互いのことを覚えているにも関わらず、ねねの記憶だけが、二人の中から綺麗さっぱり消えてしまっていたという事。

 

そして、ねねも二人のことをすっかり忘れてしまっていたという事。

 

さらに三人がそれらの記憶を、今朝、同時に思い出したという事。

 

ねねには、これらの事が偶然とは思えなかったのだ。

 

それに対して確信に近いものを持っていたねねには、心当たりもあった。

 

ねねは、元々「カバー」に生きる身では無い上、彼女は一度のみならず二度、「カバー」を訪れては離れている。

 

そして二度とも、ねねの意図しないタイミングで離れることになってしまっているのだ。

 

ねねの転移と、三人の記憶。

 

何かトリガーとなるものがあるのではないか。

 

「……もしかして」

 

一つだけ、気にかかったことがあった。

 

「どしたの、ねねち」

 

「……ううん、何でもない」

 

しかし、彼女はそのことを口にするのはやめることにした。

 

仮にその説が当たっていたとしても、現実がそのようなものであるとは信じたく無かったのだ。

 

この世界に、居所は在るか。

その世界に、存在を残せるか。

 

そして、それは叶うことであろうか。

 

自身の生を、生として口にできるか。

 

「嫌だよ。ねね……まだこの世界にいたいよ」

 

ねねは小声で呟く。

 

もし、己の仮説が合っていたとしても。

 

もし、仮に自身が夜に消えていく光であったとしても。

 

虚しい日々など、記憶にさえ残らない完全な消滅など無いはずだと信じて、今は、再会の喜びに浸っていたかったのだ。

 

「ところで……そっちの美人さんは?」

 

ねねの顔が曇りかけてきたところで、ポルカはすかさず、ぼたんの肩を叩いてラミィを指差す。

 

「あっ、私、『雪花ラミィ』っていいます!バッカス平原の果てにある集落からやってきました!」

 

「雪花ラミィ……?なんとなーく耳に馴染む名前だね。まあいいや。私は尾丸ポルカ!『おまるん』でいいよ。よろしくね、ラミィ!」

 

「私は桃鈴ねね!今日から仲間だね、ラミちゃん!えへへ」

 

ラミィに抱きつこうとしたねねだが、距離を見誤ったのか、ラミィの手前にある空に抱きつくこととなってしまった。

 

「……!はい!よろしくお願いします!ねねちゃん、おまるん!」

 

 

 

テントに集まる、四人の少女。

 

知らぬ日。

 

「カバー」は、また一つ先へ進んだ。

 

この再会は希望か、或いは絶望か。

 

見えている現実は、果たして全てが実像か。

 

はたまた、誰かの想い描いた虚像か。

 

 

 

私はまた、目を伏せてしまった。




星降る夜

「死んじゃった人はね、星になって私達を見守ってくれるんだよ」

全くもって、馬鹿げた話だ
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