〜ブッシュ平原・墓守の丘〜
「ねぇ、AZKiちゃん」
「どうしたの?ロボ子さん」
二人の出会いから、半日と数時間後。
ロボ子さんは、朝日が顔を出したブッシュ平原の丘で鼻歌を唄うAZKiの肩に触った。
その手は冷たく、とても硬かったが、AZKiに初めて触れる知性体の手は、とても温かく感じた。
「AZKiちゃんには、ボクみたいに……ご主人様とかいたの?」
振り向くAZKiの視界に、ロボ子さんの幼げな顔が大きく映る。
優しくて無垢な、これから明るい未来を背負う少女のような顔つき。
しかしAZKiはその顔に、憂いとはまた違う、無機質で、どこか冷めたようなものを感じた。
「ご主人様かあ。私にはいなかったかも」
「そっかあ」
「記憶がないから、いなかった気がするっていうだけだけどね。でも」
「でも?」
「私の……いや、AZKiの世界を、もっと観たり聴いたりしてくれる人達はいたかも。なんていう人達だったかは、思い出せないけど」
「へー!ファンがいっぱいいたんだね!」
「ファン?……うん、そうだね。ファンがいっぱいいた。……ような気がする」
「やっぱりAZKiちゃんには記憶が無いのかー」
「うん。そもそも昔から歌を歌っていたり、ファンがいたり……そういうのも、本当に『そんな気がする』だけで、実は化け物だった……なんてことだってあるかも」
「いやいやそれはないでしょ〜」
ロボ子さんの頬が少し緩む。
化け物に対して何か思い入れがあったということは無いだろうが、旧文明のことだ。
何か、化け物が登場する冒険譚のようなものがあったのだろうか。
AZKiは、丘の斜面に座り込むロボ子さんの隣に座り、ロボ子さんの肩を寄せた。
「ねえねえ。ロボ子さんには好きな歌とかある?」
「好きな歌かぁ……なんだっけ。よく覚えてないや。でも、人間の街で流れてた歌は、全部素敵だったなぁ。[[rb:量産機>ファミリアー]]達も、みんな楽しそうに聴いてたよ。……まあ、昨日の夜に連絡を取ろうとしたら、誰の声も聞こえなかったから……多分だけど一機も残らず、みんな壊れちゃってたみたい。丈夫な素材で造られてるし、残骸くらいはあると思うけど」
再び雲がかかったような表情を見せるロボ子さんを前に、AZKiは少し考え込むような仕草をする。
「そうなんだ……ねえ、ロボ子さん。そのファミリアーって、中に入ってる魂が身体を動かす……みたいなタイプの人形?」
「そうだよ?よくわかったね。ちなみにボクも、そのタイプだよ」
「……ロボ子さん。ファミリアー達の残骸がある場所に心当たりは?」
「あるよ〜。今の世界だと、アルマ村?ってところらへんかも」
その返答を聞いたAZKiの目つきは、一瞬で変わった。
額から冷や汗が垂れる冷や汗から、ただ事ではないということが見てとれる。
「ロボ子さん、二人で今すぐそこに向かおう。……ちょっと思い出したんだ」
「いいけど……思い出したって?」
「私がここにいる理由。……私がどうして生まれたのか、私がどうして『歌姫』として存在しているのか」
「へー!良かったじゃん!」
「良かった……けど、これは思ったよりマズいことになったみたい」
「マズいって?」
「……今、この世界は『ウルハ』に蹂躙されつつある。そのことは、知ってる?」
「あー。それなら、なんかそういう人達の仲間っぽい女の子には会ったよ」
「会ったの!?」
「うん。ボクと『オトモダチ』になりたかったみたいだけど……人を食べるって言うから、断っちゃった。そしたら戦いになったから、軽くビーム砲を撃ったら逃げちゃったよ」
AZKiは目を丸くして、次第に口角を上げていく。
「ロボ子さん、もしかしてすごく強い?」
「うん!最終兵器だからねっ!」
「いける……ロボ子さんと一緒なら、アルマ村を……未然に救えるかもしれない!行こう、ロボ子さん!アルマ村へ!」
「うん!」
こうして、二人はアルマ村へ向けて歩みを進め始めた。
ロボ子さんには飛行機能があるものの、燃料すなわち食料の消耗が激しくなるため、AZKiに合わせて歩くことにした。
軽い足音と重い金属音が、平原の風に消えていく。
激しい横風は、物言わぬ予兆であった。
機械人形
古代兵器の一つ
稲荷博士によって造られ、白銀騎士団長率いる第1師団に配属された、命ある兵器達
人工知能によって自動で動き、敵を殲滅する
また、身体を失った者の魂を投入し、仮の身体として扱わせることもできる