〜ブッシュ森林・アルマ村付近〜
とある日。
アルマ村の警備隊長である不知火フレアは、密かにノエルと交流を続けていた。
「はぁ……私、なんでこんなことしてるんだろ」
「こんなことって……団長が戦いに勝ったから、ご褒美っていうかさ、そういう賞品みたいな感じで、デートしてよってお願いしてるんだよ?」
「いやあ、そうなんだけど……侵入者と、こんなにのんびり過ごしてるなんて、我ながら信じられないんだよね。お互い、いつでも首を狙える距離なのに」
「でも、フレアは団長のこと…… 『隙ができた瞬間、すぐにでも殺そう』だなんて思わないでしょ?」
「思わないけど……はぁ。ノエル団長と会った日は、里の皆に合わせる顔が無いよ」
フレアは、自身の警備隊長という立場と、自身が今とっている行動に矛盾を感じ、頭を抱える。
一方、ノエルはアルマ村の住人と友達になることができた気になっているらしく、すっかりフレアに気を許していた。
腰に下げていたメイスが、ただのアクセサリーとしてしか役目を果たさない程度には。
ノエルは、ため息をつくフレアを横目に周囲を散策していた。
見覚えのあるもの、そうでもないもの、様々なものが視界に入る。
「この森は、いつ来ても新しいものが見つかるね」
「だからこそ、あんまりポンポン出たり入ったりされると困るんだけどねぇ」
「まあまあそんな堅いこと言わずにぃ〜」
「あ、ちょ、そっちに行くのは……」
ノエルはフレアの静止を無視して、さらに森の奥へと進んでいく。
それを走って追いかけるフレア。
しかし数十秒後、何かを見つめてじっと立ち止まっているノエルの姿を見つけたフレアは、戦闘中に突撃を行う際の体勢のままスピードを下げることができない。
そのまま大木を蹴り、「ズザザザザザ」という音とともに、何とか地に足をつけることができたフレアは、大きなため息をついた後、息を切らしながらノエルの側へ駆け寄った。
「わぁ〜」
「ノ、ノエル団長!?そっちは」
「綺麗な建物だね〜!これは何……」
目を輝かせて、大地の神殿を正面から見つめるノエル。
「だーっ!そこはダメ!バレ、バレるよ、ノエちゃん!」
「あーっ!今、『ノエちゃん』って呼んでくれた!フレア〜!えへへへ、えへ」
フレアの美しい顔が、ノエルの豊満な胸へと沈んでいく。
「もがもが!もががががが!もごごご!」
再び抵抗するフレアだったが、何故か身体に力が入らない。
「ねえフレア。もし団長が、ちゃんとこの村に入れたら……その時は、ここで式を挙げたいな」
「気が、気が早、もががが!気が早すぎ、もごもごがっ!」
それから一分程、ノエルにされるがままの状態だったフレア。
フレアの意思など関係なく、フルパワーで背骨にダメージを与え続けるノエルの抱擁から、やっとのことで解き放たれたフレアは、まるで生気を吸われたかのように痩せ細って見えた。
「あっ、ごめんフレア」
「この数分でいろんなモノを失った気がするよ」
大木に寄りかかり、虚な目で一点を見つめるフレア。
そんなフレアを見て、少しやりすぎたかもしれないと反省するノエル。
しばらく、無言の時間が流れた。
数分後。
先に口を開いたのは、ノエルの方だった。
「……ねえ、フレア。あの人達は誰?」
無邪気な瞳で神殿を指さすノエル。
その指先に目を向けたフレアは、一瞬にして目に光を取り戻し、ノエルの腰を掴んで「お姫様抱っこ」の体勢になる。
そして、そのままフレアは魔術で音を消し、木の幹を壁走りの要領で蹴り歩き、付近の茂みに紛れ込んだ。
「危ない危ない。あれは巫女と長老の人達だよ。部外者が見つかったら大変だ。狭いだろうけど、しばらく隠れるよ、ノエ……ル……?」
フレアは途中で言葉を止めた。
ノエルの様子が、明らかにおかしいのである。
つい数分前までは、自ら「大地の神殿で一緒に式を挙げたい」と、相手であるはずのフレアに対して堂々と宣言してしまう程にまで強気だったノエルが、ものの数分で純情な乙女に早変わり。
顔を赤らめ、「あ、あのっ、ちょ、顔、近っ……」と、枯れ葉が地に落ちる音よりも小さな声で呟く彼女は、騎士団長というより、初恋を覚えた幼気な少女のようであった。
「ちょっとかわいいな」と思ったフレアだったが、それも束の間。
「ふぁぁぁぁぁーっ!」
ノエルは大声をあげ、その後、幸せのあまりとろけきってしまった表情で意識を失ってしまったのだ。
「ちょ、ノエル団長!?」
そして、その大声がアルマ村のエルフ達に聞こえないはずも無く。
「聞き慣れない声……あれ、フレアちゃん?と……そっちの人は?」
「あ、アキ先輩……!?」
フレアは、大地の神殿で祈りを捧げていたアキを筆頭とした村中のエルフに、外部の人間と茂みで密着している姿をバッチリ見られてしまったのだった。
歌
祈りや憂いを込め、音に乗せて概念を紡ぐ
何処かの世界では、祈りの歌を風に乗せて魔を祓う機械人形があるという
魔術は言霊により行使される
詠唱も歌も、それらは言霊を降ろすものであろう