ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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内側 前編

〜おかしの国・城下町〜

 

ノインとフレイは咄嗟に飛び上がり、待ち構えていたかのように繰り出される二人の攻撃を避ける。

 

「リュウコ!アラネ!……これはどういうつもり!?アクアは!?」

 

「アクア?アクアなら、姫とまつりちゃんを連れて脱走するっていう団長からの伝言を聞いた時に、僕がぶっ飛ばして記憶を消しておきましたよ。今頃は、いつも通り配膳でもしてるんじゃあないですか?」

 

アラネは、さも当然かのように答えた。

 

「二人とも、何で邪魔するの!?団長、二人に何か変なことでもしたかな?」

 

「はぁ……ノインパイセン、何も気づいてないんですねぇ」

 

「団長、そろそろ自覚してよ……団長とフレイ先輩がルーナの方についちゃったら、僕らは敵に回るしかなくなっちゃうんだよ?」

 

戸惑うノインとフレイに対し、呆れたような口調で淡白に返すアラネとリュウコ。

 

「ノインちゃとフレイちゃはルーナ達をこの街から外に出したくて、アラネちゃとリュウコちゃはルーナ達をこの街から出したくないってことなのら?……なんで?」

 

「ごめんね、ルーナ姫。説明してもわからないよ。……僕らか団長とフレイ……どっちかが消えないと、それはわからないんだ」

 

「消えるって……」

 

状況を飲み込めないまつりをよそに、戦いの火蓋は切って落とされる。

 

「【剛力烈拳(ドンキー・ボンバー)】」

 

まず先手を取ったアラネはフレイの背後へと瞬間移動し、爆風を伴う正拳突きを繰り出した。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

フレイは瞬時に刀を拳に合わせて構え、折られないように攻撃を受け流す。

 

しかし、ノインにも匹敵するほどの筋力を持つアラネの攻撃を受け流すことは、剣の達人であるフレイであっても難しいものであった。

 

全身の感覚を研ぎ澄ませて、刀と身体の全てにかかる圧力の向きを調整し、少しずつ衝撃に対して頭身を平行にずらしていく。

 

鉄は熱を帯び、しかしフレイは何とか、その衝撃を後方へ逃した。

刀へのダメージは相当なものであっただろう。

 

しかし、強力な一撃を放った後のアラネには大きく隙ができる。

 

同じ円卓の仲間だからこそ知っていたアラネの弱点を忘れていなかったフレイは、素早くアラネの懐へ潜り込み、

 

「【焔一文字(ほむらいちもんじ)】」

 

一瞬にして刀に焔を纏わせ、左肩から右腹部にかけて、一瞬で斬り裂いた。

 

「ぐっ」

 

しかし、アラネの身体は鋼鉄の如く硬い。

故に刀身が深くまで入らなかったのだろう。

 

アラネは地面を蹴って後退して治癒術で胸部から滴る血を止め、すぐさま体勢を整えた。

 

「今のはあんまり効かなかったか……そういえばアラネ、細いのに筋力すごかったよね」

 

「それが僕のアイデンティティだからね。知ってると思うからあえて言うけど、僕の身体はあんまり斬れないし、ちょっとくらい斬れても、こうしてすぐ治せるから……早く降参して、ルーナ姫をお城に帰してよ」

 

アラネは構えをとり、諭すような口調で警告する。

 

しかし、それを聞くフレイではない。

 

「笑止千万!裏切り者の言う事なんか聞くわけないじゃん!せっかく円卓でルーナ姫を国から解放する計画を立てたのに、何で裏切ったの!?」

 

「裏切ったって……そんなの、僕達が死んじゃうからに決まってるでしょ」

 

アラネは、全てを諦めたような目でフレイを見つめた。

 

「な、何を言って」

 

突然そんなことを言われても理解できるはずも無く、ただ呆然と立ち尽くすフレイ。

 

しかし、そんなフレイにアラネは容赦なく続ける。

 

「僕達は気づいちゃったんだよ。よく考えたら、僕達はルーナイトの中でも、最強の四人組でしょ?でも、結局僕達もルーナイトなんだよ」

 

「どういう……」

 

「ルーナ姫がこの国から出たら、僕達はどうなると思う?僕達はどうやって生まれたんだっけ?学生時代の記憶はある?何で僕達はルーナイトをやってるの?この城はいつ、誰が作ったの?そもそも姫森王って誰?何で王様なのに名前も知られてないの?……考えてみたら、この国はわからないことだらけだよ」

 

「確かに……。でも、何でそれがルーナ姫をこの国に閉じ込めておく理由になるの?」

 

「単純なことだよ。ルーナ姫は……姫森ルーナという人間は、『おかしの国そのもの』なんだよ」

 

ずっと、わからなかった。

 

自分がルーナイトである理由。

 

この国の先代国王、姫森王の存在。

 

やけに人が視界に入らないこと。

 

アラネは、疑問に思う事柄を全て調べ上げ、その結果、全てについて説明がつく結論を見つけてしまったのである。

 

この事は当然、リュウコにも伝えた。

 

今まで何となく生きていた日常は、すべて一人の姫の無意識下にあったものに、ごく一部の意識を混ぜ込んだようなものであったことを、その僅かな意識が発見してしまったのだ。

 

「へ?」

 

「逆に言えば、この国の全てはルーナ姫そのものってこと。そして街も、人も、僕達さえも、全てはルーナ姫に生み出されたものだったんだよ。そして、その中でも僕達、円卓は……ルーナ姫の意思が勝手に独り立ちした存在そのものみたい」

 

「何で、どうしてそんな事が言えるの!?」

 

「……まつりちゃんが来る前のルーナ姫って、すごく静かだったよね」

 

「……そうだったっけ?」

 

「さあね?僕もわからない。でも、僕が言ってるのはそういうとこだよ、フレイ。僕達は、まつりちゃんが来る前のルーナ姫を知らない。いくら王室への立ち入りが禁止されているからって、さすがにそこそこの年数をこの姫森城で過ごしていたら、一度くらいは目にするはずだよ」

 

「……」

 

フレイは、黙り込んで過去の記憶を呼び起こそうとする。

 

しかし、何も浮かばない。

 

ノイン、アラネ、リュウコ、そして自身が食堂に座り、アクアが食器を運んでいる……ノインがアクアに耳打ちし、女王誘拐計画、もとい姫森ルーナ救出計画の概要を話していた日、その日以前の記憶が、一切浮かばないのだ。

 

「ね?あの日以前のルーナ姫どころか、本当に何も思い浮かばないでしょ?」

 

アラネはため息をつき、動揺するフレイに近寄る。

 

「そ、そんな、そんなの……何かの間違いだよね、アラネ?悪い冗談でしょ?私達を騙して隙を突こうと思って言ってるんだよね?」

 

「だったらもっとくだらない嘘をつくよ。単純に意見が合わなくて戦うだけなら、わざわざこんなトンデモ理論を話す必要なんてないじゃん」

 

肩を落とし、がっくりと膝をつくフレイ。

 

我が身に宿る自我が自身のものではないことに気づいてしまった事に絶望したのだろうか。

身体は小刻みに震え、息は荒くなる。

 

「ア、アラネ。もしかして、ルーナ姫が外に出たら……おかしの国なんて、『本当は無い』ってことを認識したら……」

 

フレイは声を震わせ、アラネに問う。

 

そんなフレイに、アラネは容赦無く答えた。

 

「僕達は、瞬時に消えると思うよ」

 

「ッ!!」

 

フレイは顔をしかめ、そのまま頭を上げ、アラネを見つめる。

 

「だから僕とリュウコは裏で手を引いて、ルーナイト達に指示を出して、ルーナ姫を王室に隔離させた。でも、そこでイレギュラーが発生したんだよ。それが、夏色まつりちゃんってこと」

 

「じゃあ、ノインが言っていた『ルーナイトが悪巧みしてる』っていうのは」

 

そしてアラネは、フレイにとどめを刺さんとばかりに更なる真実を告げた。

 

「当然、夏色まつりちゃんの暗殺計画だよ。想像で創造する能力を持つルーナ姫が、無意識のうちに召喚した異世界人だよ?そして、まつりちゃんがこの世界に来たことで、ルーナ姫は少しずつ感情を取り戻していった。……けれど、ルーナ姫は明るい感情というものを、永く忘れていたからねぇ。それで、やり場のない、ぐちゃぐちゃな感情が集まったのが僕達、『円卓の騎士』ってこと。ここでまつりちゃんを殺さないでいると、いずれルーナ姫には大きな変化が起こるって、生まれた時から思ってたんだよ」

 

「……ふざけ、てる」

 

「ふざけてるっていったって、それが本当のことなんだから仕方ないよ。さあ、どうするの?フレイ。ルーナ姫に真実を知らせるか、それとも、このままルーナ姫の夢を現実にし続けるか。……多分、世界の真実を知ったルーナ姫は、今までの日常が自分の力で創造されていた世界だったと知ったら、絶望すると思うけど」

 

「ごめん、アラネ」

 

「ごめんっていうことは……そういうこと?」

 

「私達が消えることになっても、ルーナ姫が真実に絶望したとしても……ルーナ姫には、この世界の姿を知らせる必要があると思う。ルーナ姫が、どうしてこんな国の幻想を抱くようになったのかは知らないし、私達が生まれるくらいルーナ姫に影響を与えたまつりちゃんが何者なのかも知らない。……でも、一つだけは言える事がある」

 

「何かな?」

 

「……私は『赤目』のフレイだよ。だから、姫森ルーナの目として、彼女の行くべき道を照らす篝火として、生まれてきたんだと思う。本当に、そう思ってるだけだけど。でも、それでも私は、ルーナ姫に世界の真実を見せたい!私達が消えることになっても、『おかしの国』なんてものが、跡形も無く綺麗に消滅しても!最後の最後に、『私の意思』で!姫森ルーナに真実を見せたいんだよ!」

 

フレイは地面に落としていた刀を拾い上げ、再び構えをとった。

 

「意気や良し、だね。じゃあ……」

 

「「はじめようか」」

 

再び、二人の拳と刀がぶつかり合った。




円卓の真実


姫森ルーナは、やり場のない感情を人の似姿に見出した

そして、感情の理解と共に騎士は数を減らす

もはや、それを人の器に収める必要など無くなったからであろう
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