ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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Who am I?

〜ブッシュ平原・ムラサキ村付近〜

 

「ふっふふ〜ん♪」

 

二つの丘を挟んだ先にムラサキ村が見える、ブッシュ平原の名も無き平原。

 

金髪に碧眼、胸元の赤いリボンが印象的な少女、「赤井はあと」である。

 

「ちょっと痛いけど、全然動けるわね!さーて!今日の晩ご飯はここで食べよー!」

 

日が沈み切って数刻後だろうか。

 

はあとは皮袋から、何とも形容し難い……兵糧丸のようなものを取り出して口に運ぶ。

 

そんな彼女は何故か傷だらけだが、ケガの原因は本人もわからないらしい。

 

そんな治りかけの彼女に、運命からの追い討ちが加わるのだった。

 

〜ムラサキ村・上空〜

 

「あ〜れ〜」

 

一方、自身の切り札と眷属達によって、何とかロボ子との戦闘から離脱したメルは、コントロールを失ったまま宙を飛んでいた。

 

ちなみに「飛んでいた」とあるが、飛行しているわけではなく、「吹き飛んで」いるのである。

 

〜ブッシュ平原・ムラサキ村付近〜

 

そして、そのまま落下する先はというと、

 

「うわー!?」

 

「あぎゃー!?」

 

ムラサキ村付近の平原で昼寝をしていた無名の旅人である赤井はあと、その頭上であった。

 

「うーん……」

 

この場面を切り抜いた写真を飾りつけるとするなら、十中八九のメルの頭上に星やヒヨコが飛び回っているかのような加工を施すだろう。

芝の上で大の字になり、そのまま焦点が合わない目で寝転んでいた。

 

「いたたたたた……もう!何してくれたの!痛いよ!!」

 

一方のはあとは高い治癒力のせいか、すぐに回復したが、勝手に上空から降ってきておいて気絶しているメルに腹を立て、軽くだが憤慨した。

 

似たような光景をどこかで見たような気が……

 

「うーん……あっ、ごめん、人間ちゃん!痛かったよね……?」

 

気絶しかけていたとはいえ、流石に誰かを怒らせてしまったことを察してか、メルは立ち上がって平謝りする。

 

「それはそうよ!痛いもの!ふん!」

 

しかし、はあとはそっぽを向いて、ムラサキ村とは反対方向に歩き始めてしまった。

 

「待って!」

 

それに負けじと、はあとを引き止めようとするメル。

 

「何よ?」

 

ここは丘に阻まれているため、ムラサキ村から様子はメルの挙動は見えない。

 

そして、こんな状況でヴァンパイアであるメルがやることと言えば一つ。

 

「ちょっとだけ、血……吸っていい?」

 

「今度は何よ!?」

 

「だってメル……今まで吸った血、ほとんど全部使っちゃって……お腹ぺこぺこなんだよぉ〜……無理に眷属にはしないからさぁ、ね?血を……ちょっとだけお願い……」

 

実際、先の離脱に使用した緊急離脱陣は多くのリソースを要する。

 

有り体に言ってしまえば、MPやマナと呼ばれるソレを大量に消費する技、ということである。

そして、それはメルの場合、血に該当する。

 

その上で、リソースを切らすと、次に無理矢理リソースとして消費されるものはスタミナであるという通説も存在するのだ。

 

……つまりは、そういうことである。

 

しかし当然ながら、意図していないとはいえ上空から杭のような頭突きを食らわされたはあとが、「そうですか、ならば私の血を使ってください」などと承諾するはずもなく。

 

「嫌よ!ただでさえ頭ぶつけられたのに!っていうか、血吸わせろって何!?ヴァンパイアか何かかっ!」

 

はあとは素早いバックステップで後退し、初対面から間も無く自身の血を吸おうとしている目の前の少女に、最大限の警戒心を向けた。

 

「ヴァンパイアだよっ!だから血が無いといつか死んじゃう……」

 

「えぇー!?」

 

そして、ツッコミのつもりで言った「ヴァンパイア」発言が見事に的中してしまい、メルの唐突なカミングアウトによって、はあとはさらに脳内を引っ掻き回されることになってしまう。

 

「お願い……あっ」

 

はあとが情報を整理した上で悩んでいる間に、限界が近づいてきたメルは少しずつ顔色が悪くなり、脚はいつの間にかもつれ、バランスを崩したメルは草の上に倒れ込んだまま、動かなくなってしまった。

 

「……しょーがないわねぇ。ほら」

 

目の前でこんな姿を見せられては、さすがにはあとの怒りも収まったのだろうか。

 

うつ伏せの状態で倒れたままだったメルの身体を仰向けにしてから、はあとは自身の左手首を短剣で切りつけ、そこから流れ出た血をメルの口内に流し込んだ。

 

「……ハッ!?」

 

それから数分後。

 

メルは、はあとの左手首から流れ出る血によって意識を取り戻した。

 

「はぁ……これでいいかしら?」

 

「うん!でも腕は……大丈夫なの?それに、人間がこんなに血を流したら死んじゃうんじゃ」

 

手首から、決して少なくはない量の血を流し続けているはあと。

 

さすがに出血多量を心配してしまうメルであったが、はあとは、すでに再生が始まらんとしている左手首に力を込めて傷ついた箇所を癒し、メルの方に見せた。

 

「大丈夫よ!私、こう見えても人間だから!」

 

「う、うん?」

 

一瞬、はあとの目つきが変わったような気がしたメルだったが、力を入れた瞬間に力みすぎて表情が歪んだのだろうと思い、その事には触れなかった。

 

しかし、その数秒後。

 

「……あ、ごめんなさい、やっぱりダメだったかも」

 

大丈夫だと言い張っていたはあとが、突然膝を突き、崩れ落ちるように座り込んだ。

 

やはり、急に大量の血を失ってしまっては、どれだけ強い人間でも少なからず身体への負担は避けられないものなのだろう。

 

「大丈夫じゃないじゃん……ほら、メルに身を任せて。とりあえず人間のフリして、すぐそこにある村の人に助けを求めるから……」

 

メルは急いではあとの側へ駆け寄り、ヴァンパイア特有の怪力を活かして、意識を失いかけたはあとを抱き上げようとした。

 

「【雑音】」

 

メルがはあとの脚を右腕で持ち上げようとした瞬間、突如として耳元で小さな雑音が、チラつくように鳴り始める。

 

「【聞き取り不能】」

 

そして、はあとの頭部を左手で持ち上げ、メルがいわゆる「お姫様抱っこ」の体勢ではあとを持ち上げようとした、その時だった。

 

「えーっと……誰かわかんないけど」

 

 

ふと、右腕が軽くなる。

 

そして、それを認識するよりも先に、視界が急に広くなった。

 

否、広くなったのではない。

 

視界そのものが後退したのだ。

 

しかし、特に前を向いたまま後ろへ足を進めた覚えは無い。

 

「え?……があっ」

 

「あなたも、赤くしてあげるっ!」

 

 

 

メルは信じられなかった。

 

今、己が心配して抱き上げた少女に。

 

血に渇き切っていた己を蘇らせた、恩人である少女に。

 

一瞬で腹に蹴りを入れられ、丘の傾斜に激突させられてしまったことを。

 

「(どうして、さっきは血を分けてくれたのに……突然、こんな……?)」

 

メルは、一瞬の間に考える。

 

この少女は、一体何者なのだろうか。

 

命を救ってくれたと思えば、何の脈絡も無く豹変しては、本気でその命を狙いにくる。

 

「はあちゃまっちゃまー!!天才芸術家、はあちゃま降臨っ!!」

 

まだ、身体が動かない。

 

腹部に受けた蹴りの衝撃で、骨盤と大腿骨を砕かれてしまったようだ。

 

人間よりも傷の回復が早い吸血鬼とはいえ、粉々に砕け散った骨を修復することはできない。

 

今後こそ、万事休すか。

 

せめてもの悪足掻きとして、自身に残っている血を全て首より上に溜め、死の直前に顔面ごと破裂させることで、こちらへ向かってくる「恩人だったもの」を道連れにしようと覚悟を決めた時だった。

 

「間に合って!【麻酔針(パラライザー)】!」

 

「うぇー!?危なっ、目が、目が……うう?」

 

メルの背後、丘の向こう側から、白衣を見に纏った一人の女性が「[[rb:赤 > ソレ]]に向けて麻酔針を飛ばし、動きを止めていたのであった。




外側


肉体は檻とされる

故に複製はし難く、ヒトがその姿を変えることはない

俗に囁かれる変身譚のそれは、打ち砕かれた者の本質、或いは代替品の類であったのだろう
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