〜福音の廃城〜
世界の守り神たる「ゲーマーズ」である戌神ころねと猫又おかゆ。
先に送り込まれた桃鈴ねねの行方を追いつつ、彼女とは別の方法で世界の混乱を収めようと画策する二人は、転移陣によって「カバー」へと向かうことにしたのであった。
しかしこの二人は、フブキとミオに比べて「カバー」の土地勘が無い故に、転移する際に「カバー」のどこに着地するかまでは考えていなかったらしい。
その結果、よりによって二人は福音の廃城、つまりは亡者の王であるウルハが巣食う城の側へ着いてしてしまったようである。
「えーっと、おかゆ?ここは……」
「敵の本拠地だね〜。ラスダンってやつじゃない?」
「なるほど〜。じゃあ、城の奥にはラスボスがいるってこと?」
「うん。覚悟決めなきゃね、ころさん」
「わかった!おかゆはこぉねが守るよ!」
「大丈夫だよ、ぼくも弱くないからねぇ」
「「せーのっ」」
「おらよーーー!!!(【取り返す鎖】)」
「はぁ〜。……古式抜刀術・【[[rb:逆殯 > さかあがり]]】」
ころねは指からドス黒いエネルギーを固めて放ち、続けておかゆが、ころねの攻撃でボロボロになった城門の残骸をまとめて斬り払う。
「いくよ、おかゆ!」
「突撃〜!」
城門跡から強引に突破する二人。
異変を察知した亡者達を蹴散らしながら、一気に最奥まで足を進めていく。
ころねは遊んでいるかのように亡者の群れにノンストップで攻撃を繰り返していたが、一方のおかゆは眉をひそめながら、城の奥へ奥へと進んでいくうちに大きくなっていく違和感について考えていた。
そして、とうとう「ウルハ」が待つ王の間へとたどり着いた二人。
重い戸を押し開け、ウルハの姿を視認したその瞬間。
おかゆは、抱いていた違和感の正体にいち早く気づいた。
「ころさん!!これは『ダメ』だ!『ダメ』なやつだよ!」
扉の向こうへ吸い込まれていくように突撃するころねを引き止めるおかゆだったが、時すでに遅し。
「……【[[rb:吸魂 > ソウルイーター]]】」
ウルハは杖を黒い泥の龍に変え、ころねの胸部めがけて突っ込ませる。
おかゆが後方で瞬きをした、その一瞬。
「あぅ」
ついコンマ数秒前、目を閉じるまでは元気だったころねが、
両手の指を闇の魔術で強化し、今にもウルハの顔面を吹き飛ばさんと飛びかかったころねが、
目を開いた時には、力なく横たわっていたのだ。
おかゆには、何が起こったかわからなかった。
しかし一つだけ、本能が感じ取ったにことがある。
「これはヤバいッ!神とかラスボスとか、そういいものじゃなくて……何か、もっと別の危険を感じる!!ころさん!起きて!逃げるよ!」
おかゆはころねの側へ駆け寄り、ころねの身体を抱えて一直線に来た道を戻る。
「……待って。もっと【雑音】と遊ぼうよ。ねぇ」
背後から、ウルハの声と闇の魔術が飛んでくる。
ウルハの部屋へ向かう途中に気づいた違和感の正体。
亡者の王が直接構えている城にしてはやけに亡者が少なく、申し訳程度に配置されていた警備兵も、並の人間でさえ楽に撃退できてしまいそうな程に弱かった。
「わざとだったのか……」
どうやらウルハは、おかゆ達をあえて誘い込んでいたようであった。
それもそのはず、侵入者の片割れは、闇に通ずる術を操ることができる、強力な「オトモダチ」候補がいるのだ。
みすみす見逃すウルハではない。
「ねぇ、もっと、一緒に、いよう?どうして、逃げるの?」
おかゆは魔弾やら闇の魂やらを避けながら、なんとか城門跡付近まで戻ってきた。
ここに転移陣を描いて、フブキ達が待つ拠点まで戻れば一件落着、ころねも助かるはずだ。
と思ったのも束の間。
「へへへ、おかゆ……おはよう」
おかゆは、首元に冷えた何かを感じた。
いつもの優しい温もりとは違う、冷たくて、全身に悪寒が走るような何か。
「ころ……」
「ゲームオーバーだよ」
ころねは右手の指に闇を纏わせ、おかゆのうなじを掴んで魂を指先に集めた。
「あー、やっぱりダメだったかぁ」
「いひひひひひひひ」
ころねの指先からは闇が溢れ出す。
爆発まであと数秒といったところだろうか。
「……ころさん。ごめん」
背中に張りつくころねを背負い投げし、抜刀。
おかゆは、光を失った目でころねに刃を向ける。
「オ、マ、エ、オトモダチ、じゃ、ない……?」
「キミこそ、今はころさんじゃないよね。……だったら友達でも何でもない、赤の他人だよ」
おかゆは涙一つも浮かべることなく、冷静に刀を構える。
そして、一つの握り飯を咥えた状態で深呼吸を始めた。
「ゆび……ゆびぃぃぃぃ!!よこ、せ、ゆびゆび……」
かつてころねだった存在は、体内から湧き出る闇に身体を飲み込まれる。
身体に闇とヘドロを纏って突進してくる、戌神ころねだったモノ。
元の可愛らしい少女の顔は見る影も無し、今や禍々しい闇の塊である。
わずかに残るころねの要素といえば、犬のように四足歩行であるということくらいであろうか。
おかゆの瞳に、やはり涙は浮かんでいなかった。
しかし、その口元と声は確かに震えていたのであった。
吸魂
狙った相手の魂を奪い取る、細く弱くも禍々しい光の糸
それは迷える少女の導き手であった
戦いは、いつも少女と共にある
そして裏切りも、また蜜の味なのだ