ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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戌神ころねの喪失 後編

~福音の廃城~

 

震える唇を嚙みしめ、何度も刀を構えなおすおかゆ。

 

「……はぁ。ごめんね、ころさん」

 

「ォォォォラァァァァヨォォォォォ(【取り返す鎖】)」

 

「【逆殯(さかあがり)】」

 

ころねに纏わりついた闇の塊は、ころねの時とは比べものにならない程に巨大な闇の弾丸を生成し、おかゆの頭部を吹き飛ばさんとばかりに放つ。

 

しかし、おかゆはそれを見逃さず守りの態勢をとり、刀でそれを弾き返した。

 

弾かれた闇の弾丸は風を切り、周囲の空間ごと喰らいつくさんと城門に大穴を開ける。

 

「ハァァ……(【黎の爆弾】)」

 

おかゆが再び刀を構える前に、闇の魔術によって召喚され大勢の魂が腹部で爆発した。

 

「ぐえっ」

 

闇を大量に含有した魂による爆発が直撃してしまったおかゆは腹部を抉られ、口と腹部からは血が噴出する。

 

「アイ……してルよ……ぉヵ……ュ」

 

そんなおかゆの姿が見えているのか見えていないのか、さらに続けて口内からヘドロを放出しようと構える「戌神」。

 

もはや邪神として完全に深淵へと飲み込まれてしまったソレは、最後に残っていた想いを吐き出して吹っ切れたのか、躊躇うことなく大量のヘドロを吐き出した。

 

「ありがとう、ころさん。ぼくも愛してるよ」

 

おかゆは刀を鞘へと納め、その場に座り込む。

 

戌神の口から放出されるヘドロは、何故かすまし顔で正座したままのおかゆへと容赦なく押し寄せる。

 

「ゴァァァァァァァァ」

 

戌神の目からは、大粒のヘドロが涙のようにこぼれ落ちている。

 

おかゆは戌神とかなり距離をとってヘドロがおかゆに接触するまで、あと2、3メートルといったところだろうか。

 

何を思ったのか、おかゆは自身の舌を嚙み切り、その切り落とされた舌を城門の瓦礫が散らばる地面に叩きつけた。

 

舌からは大量の血が噴き出し、巻かれた根本は喉に詰まり、気道を塞ぐ。

 

「……かっ、かぁ」

 

当然ながら気道を舌の根本に塞がれたおかゆは窒息し、その意識は徐々に削がれていった。

 

「ぉヵュ……?」

 

刹那、戌神の動きが止まる。

 

その時。

 

おかゆはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、直後にその身体は爆散した。

 

「【変化(きょじんか)焚神、迦具土神(カグツチ)】」

 

舌は炎を宿し、それと共におかゆの新たな身体が形成されていく。

 

「ァ……ァ?」

 

「見ててよ、ころさん。これがぼくの能力、その神髄だよ」

 

「ユビ、ユビ」

 

おかゆの能力はその身を巨人と化すというものである。

 

今まで本人でさえ全く明かしていなかったその仕組みは、「直近に食べたおにぎりを起爆剤に身体を爆発させ、一瞬のみ空間を裂くことで周囲の地形を巻き込み、それらと融合する」というものであった。

 

そして迦具土神は日本神話に登場する神であり、それをモチーフとした変化をしたためか、土や瓦礫を巻き込んで作り出した新たな肉体は、常に身が燻っている。

 

滅多に使わない能力である故、巨人形態にかなりのブランクがあるおかゆだが、この身体に違和感は感じていなかった。

 

「……ころさん。今、助けるね」

 

「ユビ、ユビユビ……」

 

全長22mの巨大な土と瓦礫によって生成された猫の獣人と化したおかゆは、付近に切り立つ大岩を引き抜き刀に見立てて構え、炎を纏わせる。

 

「【炎の巨塔】」

 

おかゆは大岩で戌神のヘドロを纏った身体を薙ぎ払うように叩き斬り、辺りは飛び散ったヘドロで火の海と化した。

 

「グゥゥゥゥゥゥ」

 

ヘドロが徐々に燃えていくにつれて、捕らわれたころね本体の身体も露になりつつある。

 

おかゆは炎を纏った拳を握り、闇で生成された戌神の尾を叩き潰した。

 

身体の一部を失ったことで纏っている闇がさらに薄くなった戌神は、ころねの身体を完全に背面へと露出させている。

 

今しかない。

 

「うおおおおおおおああああああ!」

 

過去に無いほどの声量で叫びながら、おかゆはころねの身体を闇から引きずり出した。

 

「ガ、ガガッガ、ゴ、ア、ア、ア、ア」

 

「戻ってきて、ころさん!!」

 

絡みつく闇の霧を払い除け、「取り返す鎖」本来の姿である人間の指を模した魔力の塊で生成された触手を千切り、柔らかなころねの身体を手中へと収める。

 

「ァァァァァァァァァァァ」

 

唸りながら、ころねの身体を奪い返さんとする戌神を左手で抑え、その醜悪な頭部を握り潰すおかゆ。

 

心臓部であるころね本体を引き抜かれてしまった戌神は力を失い、その闇と僅かに残ったヘドロは分離し、周囲へと拡散し始めた。

 

「ころさん!大丈夫!?」

 

おかゆは変化で生成した迦具土神の身体を捨て去り、本来の身体を再生成して、ころねの元へ駆け寄る。

 

「……」

 

しかし、ピクリとも動かないころねの身体は闇に蝕まれ、すでに冷え切っていた。

 

「ころ……さん?」

 

ころねの頬に、おかゆの涙が数滴落ちる。

 

おかゆの視界は徐々にけ揺らぎ始め、やがて涙に埋め尽くされた。

 

どれだけ経っても、ころねはその目を開かない。

 

それもそのはず。

 

一度吸われた魂は、「ウルハ」の元に留まり続ける。

 

そして、ころねの魂は「戌神」の生成に使われたわけではない。

 

つまり、ころねの魂はまだ「ウルハ」の手中に有り、「戌神」として動いていたものは、名も無き悪霊の魂使ってころねの記憶から生成した粗悪なコピー品というわけである。

 

「取り戻したのは……ころさんの身体だけかぁ。はははは、はは」

 

おかゆは、抱き上げようとしていたころねの身体から手を放し、引きつった笑みを浮かべる。

 

「あっはっはっはっはっは。あははは、あははは……」

 

そして間もなくおかゆは、大声で笑い始めた。

 

幼少からの親友にして、唯一の相棒。

 

そんなころねを文字通り身を削ってまで取り戻したと思った矢先、そこに魂が宿っていなかったと発覚したのだ。

 

気が狂ってしまうのも無理はない。

 

ましてや己の身体を一度破壊する切り札を持つおかゆは、より身体という「器」、それに意味を感じないのであろう。

 

そんなおかゆにとっては「愛するお友達の身体が戻りましたよ」という知らせなど、所詮は蛇の生殺しに過ぎないのである。

 

 

 

おかゆが小一時間、息も忘れて笑い続けた頃。

 

福音の神殿を取り囲むように雨雲が広がり、一寸先さえも灰に染まる程の大雨が、立ち尽くすおかゆを殴りつけるように降り注いだ。

 

身体が冷えたのだろうか、笑いながらも力無くその場に崩れ落ちるおかゆ。

 

しかし、その姿を目にする者はいなかった。

 

こうして「戌神ころね」は、文字通り消失したのだった。







炎の力は命の力

とある世界には、それを繰る剣士が夢を蝕む魔を断ち切り、しかし華々しく散ったという伝説がある

炎はいつか消える、だが消えるまでは燃やし尽くすのだ

炎よ、猛くあれ
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