~サーバ海~
「ふふふふーふふん、ふふふふーふふん、ふふふふーんふーんふーんふーんふーふふん」
「船長ぉ……それ、何の歌?」
鼻歌を歌いながら、船のオールを漕ぐマリン。
そんなマリンの背後から、あくあは顔を覗くように聞く。
「これはねぇ。昔、船長が一味の皆と一緒に歌っていた歌ですよぉ。テーマソングってやつ?一流の音楽家に作ってもらったやつなんだワ」
「へぇ~。船長、昔はすごい海賊だったんだね」
マリンの自慢話を聞いて、素直に感心するあくあ。
「昔『は』って何ですか昔『は』ってぇ~!......と、言いたいところですけど......残念ながら今の船長は、昔の船長より明らかに劣化してますねぇ。自分でもわかりますよぉ。......今のマリンたんは、弱虫ですから」
「船長?」
マリンは、鼻歌を歌っていた先ほどまでの機嫌が噓のように俯き、胸元から家から持ってきた数少ない一味との集合写真を取り出して見つめた。
「もう長く経つのに......未練たらたらですよ、もう。キミたち......るしあ......。......ごめんね、あくたん。船長、こんなに弱いところ見せちゃダメだって思っていたんですけど......やっぱ海に出ると、思い出しちゃんだワ」
「......」
瞼の下からは雫を滴らせ、しだいに嗚咽を始めるマリン。
「はぁ。船長ってば、ダメダメですね。せっかく、あくたんとの初デートなのに、昔の一味を思い出して泣いちゃうなんて。......この海の下には、一味の皆がいるのかな。いっそのこと、マリンも......」
「......」
「本当にごめんね、あくたん。こんな、辛気臭い、独り言......ぐすっ。マリン、ちょっと黙ってるね」
これ以上あくあに情けない姿は見せまいと、帽子を深くかぶるマリン。しかしあくあは、そんなマリンの様子とは対極的に、珍しく声を張ってその名を呼び、彼女を強く抱きしめた。
「あくたん......?」
「船長!いや、マリンちゃん。......あてぃしには、マリンちゃんがどれだけ苦しんでいるのか、どんなに悲しい想いをしたのか、全然わかんないよ。でも、あてぃしはマリンちゃんの恩人だし、今この船を動かしている宝鐘マリン船長は、少なくともあてぃしにとって初めてできた恩人で、大切な人だから。弱いところも見せていいし、どんなに泣いてもいいよ。だから......不吉なこと言わないでよ。『いっそのこと』なんて、死んでも言わないでっ!」
あくあは、マリンの肩に寄りかかって叫ぶ。
マリンは、今まで聞いたことが無かった大声に驚き、目を丸くしたまま固まってしまった。
「……」
「あっ……ごめん、船長。あてぃし、あんまりこうしてエゴを押しつけるみたいなのしないから......耳元で大きな声出しちゃった」
冷静になったあくあは、マリンから身体を離し、そのまま俯いてしまった。
自分は救ってもらった立場。
それなのに、マリンとの仲はそこそこ深まっているとはいえ自分は何を言っているのだと、冷静になって自身の感情に任せた言動を後悔する。
自分が拾った少女にこんなことを言われたら、きっと二度と口を利く気がしなくなってしまうだろう。
しかし、
「あくたんっ!!」
そんなあくあの心配をよそに、今度はマリンの方からあくあを強く抱擁し返した。
「せんちょ?」
「ありがとう、あくたん……。あたし、えぐ、ひっく、くぅ、う、うう……」
マリンはあくあに抱きついたまま、しばらく涙を流し続けた。
「マリンちゃん、大変だったね。よしよし」
「うくっ、くっぐ、うう、うわあああああああ!」
広い広い大海原に、波の音。
あくあの胸に包まれて泣きじゃくるマリンの声が混じる。
あくあはマリンをもう一度抱擁し、マリンの頭を撫でながら抱きしめた。
大いなる青の中に、赤と紫。
それは、いずれ来る目覚めへの萌芽であった。
死
死は生命の特権に非ず
いずれ訪れる完全なる死とは、概念の消滅であろうか
しかし、認識と忘却は表裏一体である
なればこそ、語られる歴史が必要だったのだろう