~アルマ村・大地の神殿前~
「聞き慣れない声……あれ、フレアちゃん?と……そっちの人は?」
「あ、アキ先輩……!?」
ノエルがアキに発見された翌日。
入村手続きを終えたノエルは、同行していたフレアと共に、改めて大地の神殿へと向かった。
アキに見つかってしまった際、同行していた村の長老達にも見つかってしまい、突然現れた女騎士に驚いたエルフ達には魔物と等しく警戒されたノエルだったが、警備隊長であるフレアの知り合いであるということを明かすと、村の人々は瞬く間に警戒を解き、ノエルをすんなりと村へ迎え入れた。
「ノエルのこと、仮にも余所者だから隠してきたけど……なんだ、意外とあっさりだったね。ちょっと怪しいかも」
フレアは神殿前のベンチに腰掛け、額を拭いながらため息をつく。
自身が村人から信頼されているが故であるとは知らずに、村人達のノエルに対する反応を怪しむ程に心配していたことを隠す気も無いフレア。
「でも、村に入れてもらえてよかった!真面目なフレアのことだし、きっと村では信頼されてるだろうから、そのフレアが知り合いだって言ってくれれば大丈夫だと思ってたよ」
しかし当のノエルは、心配など一切していなかったようである。
それも、フレアの性格をよく知ってのことだろう。
ノエルがフレアの左隣に腰掛けると突風が吹きつけ、辺りの花弁が宙を舞い、花吹雪が彼女達を彩った。
「わぁ……」
「きれいだね」
「うん。……ねぇ、ノエル」
「どうしたの?フレア」
「……これを」
そう言って、頬を染めながらフレアは懐から指輪を取り出す。
「えーーと???これは?」
「不知火家に代々伝わる指輪だよ。貴重なものだから、あんまり持ち出さないようにしてたんだけど……最近、スペアを見つけたからあげる」
「え、いいの?そんなに大切な指輪、貰っちゃって……」
「うん。エルフじゃない知り合いなんて、初めてだったから……その……」
フレアは必死にノエルの顔から視線を逸らし、自身の右手に左手を添え、ノエルの左手の薬指に指輪を手に嵌めようとする。
しかし、思うように指輪が嵌まらない。
本人は自覚できていなかったが、フレアの両手は大きく震えていたのだ。
「ふふっ」
「ノ、ノエル?」
「手、握るね」
ノエルは自身の右手でフレアの右手を握り、自身の左手、その薬指へと近づける。
そして、二人の右手に支えられた指輪は、しっかりと、薬指の第一関節の少し奥に嵌まった。
「……ありがとう」
「団ちょ……私の方こそ、ありがとう。大切にするね」
「うん」
「フレア?」
「ノエ……」
「ん」
「むっ!?」
両手に持った指輪から視線を外し、再びノエルの顔へと視線を向けるフレア。
その瞬間、ノエルはすかさずフレアの後頭部に左手を回し、自身の唇をフレアのものに重ねた。
「えへへ」
「……んむぅ」
微笑むノエルに、フレアは紅潮する頬を左腕の袖で隠す。
突風が吹きつけ、辺りは陰り、木々の葉と葉は擦れ合う。
そのカサカサという音の中に、時折り隙間風のような音が混じった。
フレアを抱き寄せた、ノエルの手。
その手は、吹きつける風のように軽かった。
不知火家の指輪
火が落ち続け、廻る世界
その世界に在る女神が愛した者へ贈ったという指輪
嵌めた者の身体を護り、心身を強靭なものとする加護を宿す
数多の夜を超えた指輪には、相応の想いも宿るのだろう