ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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白黒×ディストーション 前編

〜???〜

 

ゲーマーズが世界を見守る、どこでも無い場所。

 

二柱……もとい二人のカミを中心とした、管理者にして監視者たる存在、「ゲーマーズ」よって治められているこの地は、この地だけは、邪なる者の侵入を許さないと、そう思われていた。

 

しかし。

 

突如として空間の裂け目から現れた、鬼のような何か。

強いて名をつけるのであれば修羅であろうか。

 

それは旋風(つむじかぜ)のように、或いは猛き獣のように、肉を裂き、石を断ち、空を切る。

 

そして駆けつけた二人のカミも、為す術なく[[rb:腑>はらわた]]を引きずり出されてしまった。

 

カミを失った世界は、終焉へ向かう。

 

人々は狂い果て、理はねじ曲げられ、世界は拡散する。

 

それが、大神ミオの水晶に映った未来の姿であった。

 

「……これはマズいことになるかもねぇ」

 

ミオは急いでタロットカードを取り出し、シャッフルした大アルカナの中から一枚を引き、世界の命運を占う。

 

出てきたカードは「死神」。

それも正位置、つまりはそのまま解釈するという意味を持つ啓示である。

そして死神のカードは、「終わり」を意味するもの。

 

つまり、そのまま「世界の終わり」という意味の啓示が降ったというわけである。

 

あまりにも不吉な映像とタロットカードの占い結果。

 

ミオがフブキにこの結果を伝えると、フブキは血相を変えて村へと駆け出して行き、街の人々を引き連れて戻ってきた。

 

「ミオ、街の人々を奥に案内して。わたしは鳥居前を警備しておく」

 

「……わかった、任せて」

 

ミオは、逃げてきた人々を奥社へと案内し、窓と扉に封印と魔除けの札を貼り、封鎖する。

 

境内には見慣れない刻印が、光を放ちながら其処彼処(そこかしこ)に浮遊している。

それは朱く光る五芒星であった。

 

桜の花弁は舞い散り、空は暗転する。

 

水晶に映った未来。

 

それは、未来を知る事が無かった際に起こる出来事を示したものであり、元となる因果の姿。

 

つまり水晶に移った映像は、「誰も未来の姿を視認しなかった世界」の映像という事である。

 

しかし、ミオはその未来を覗いた。

 

つまり、その未来を変えるために行動できるようになったという事だ。

 

悲惨な未来を知って尚、変わらない因果を辿ることを選ぶ者は少ないだろう。

 

俗に言う「神様」であろうとも、それは変わらない。

 

そして、術者本人であるミオ自身と相棒であるフブキは、その未来視を信じていた。

 

概念が集うこの世界及び境内の喪失は他の世界にも大きな損失を招く。

 

故にこそ、迅速に行動をとる必要があったのだ。

 

……と思い込んでいたがために、ミオは後で悔やむことになったが……私もそれは同じだった。

 

「……来ましたねぇ。招かれざる客が」

 

蒼天は赫に染まり、鳥居は崩れ去る。

 

魔界より顕れたるは、怨嗟の鬼。

 

哀しみと怒りに身を焼かれ、次元を超えて刀を振るう、修羅と化したナキリであった。

 

「ヴヴヴヴ……」

 

尖った牙を剥き出しにして唸りながら、フブキとの距離を一歩ずつ詰めるナキリ。

 

互いに一歩ずつ踏み出せば、刀の先端が届くまでに距離が縮まったところで、ナキリは抜いていた太刀を再び抜刀し直すような仕草を見せた。

 

これが理性を失ったナキリなりの開戦礼なのだろうか。

 

フブキも刀を抜き、神経を研ぎ澄ませる。

 

そして、

 

「【偽巌流(がんりゅう)百鬼獄斬(ひゃっきごくざん)】」

 

「なっ!?」

 

理性が無い故に後先を考えない、全力の一撃。

 

まさか、抜刀した次の瞬間に必殺技が飛んでくるとは思っていなかったフブキは、想定外の威力に、思わずガードを解かれてしまう。

 

「【偽鏡心明智流(きょうしんめいちりゅう)断焔(たちほむら)】」

 

「やべっ!!?」

 

そして、フブキの体勢が直るよりも前に、ナキリの太刀からは、よろめく狐を一刀両断せんとする二撃目が繰り出された。

 

そんな中でもバックステップで距離を稼ぎ、何とか二本の太刀に蹴りと回転斬りを合わせて、両足の裏を[[rb:黒炎>こくえん]]に焼かれる程度のダメージに抑えたフブキ。

 

とはいえ、足の裏に火傷を負ってしまったフブキは、動くたびに両足の痛みが響いてしまう。

 

神の業である奇跡で何とか傷を癒そうとするも、炎を黒炎たらしめている闇が妨害しているのか、フブキが左手から発しているはずであるはずの波動が患部に届かない。

 

「イヤ……」

 

そんなフブキをよそに、眼前の狐が視界に入っていないかのように刀を下ろしたナキリは、独り言とも唸り声とも判別できない音を漏らした。

 

「どうしてって何ですか!?何の話なんですか!?」

 

フブキは刀を構え直し、隙だらけのナキリに向かって渾身の突きを繰り出す。

 

「【雑音】」

 

ナキリは納刀と共に後方へ飛び上がり、宙返りでフブキの突きを避きながら何かをブツブツと呟き始めた。

 

「えーい!訳のわからないこと言ってないで、これでも受けてみろってんですよー!【超阿修羅功・粒子剣舞(スサノオ)】ッ!!!」

 

ナキリの着地に合わせて、フブキは突きの体勢から宙返りしながらの斬撃へと繋げる。

 

「【血斬り】」

 

そして魔術によって刀を一時的に分裂させ、回転斬りから目にも止まらぬ連撃を繰り出すフブキであったが、血を纏った二本の刀に防がれてしまう。

 

さらにナキリが刀に纏わせた血がフブキに飛び散り、フブキの腹部から胸部にかけて、服が血の赤に染まった。

 

「この血……すごく妙な匂いですねぇ……不死者だからでしょうか」

 

フブキは服に付着した血に違和感を覚える。

 

死体特有の腐敗臭ではなく、邪気が放出する刺激臭でもない。

 

それでも心身が蝕まれていくような、そんな匂い。

 

「……戻らない」

 

「へ?」

 

「余は、もう……何も変えられない」

 

「ナニヲイッテイルンデスカ……?」

 

ナキリは懺悔するような口調で、単語を無理矢理繋ぎ合わせるように何かを呟き始めた。

 

「ウオオオオオオアアアアアアアアア!!」

 

そして取り戻した刹那の正気を失い、二本の太刀でフブキへと斬りかかるナキリ。

 

「また単調な攻撃を……」

 

接近する刀身に対し、フブキは回避ではなく防御の構えをとった。

 

「ヴヴヴヴヴヴ!」

 

ナキリの剣技はあやめよりも劣っている。

 

しかし、「血斬り」によって血を纏った刀から繰り出される斬撃の前に、回避はもはや意味をなさない。

 

それを察していたフブキは守りに徹し、カウンターを狙うことにしたのだ。

 

「【拒絶風】」

 

フブキは刀を曲剣のように振り、渦を巻くように辺りの空気を操る。

 

範囲を抑え、完全に攻撃を受け流すのみに集中した剣技。

 

「【偽鏡心明智流(きょうしんめいちりゅう)断焔(たちほむら)】」

 

一方でナキリの刀が纏っていた血は、フブキを斬撃によって焼き払わんと火を噴き始めた。

 

「やっぱり、守りに集中しておいてよかったですよっ!!」

 

生み出された空気の渦は血と炎を呑み込み、斬撃をも受け流す。

 

「ァァ」

 

そしてフブキの読み通り、二本の太刀を振った直後のナキリには僅かに隙ができた。

 

「喰らいィィィィィィィィィィ!!」

 

腰を落とし、居合の構えをとるフブキ。

 

しかし、彼女にはすっかり忘れてしまっていたものがある。

 

「【血霧】」

 

「血斬り」によってフブキの服に飛び散ったナキリの血が、ただの血である筈がなかった。

 

付着していた血はフブキを包み込むように霧となって散り、視界を血の赤に染めた。

 

「なっ、どこへ!?」

 

姿を消したナキリを警戒し、思わず居合の構えを解いてしまうフブキ。

 

戦いが下手というわけではないが、文字通り腐っても達人であるナキリには一歩引けをとってしまっている。

 

「さようならだ余、何も変えられない『カミサマ』」

 

血の霧、その中に影が一つ。

そして滴る赤は角の下、瞳から溢れ出ているように見えた。

 

白上フブキには、それが見えていたのだ。

 

しかしフブキはそれを見てしまったが故に、構え直した刀を振ることができなかった。

 

それは太刀から滴り落ちる血か、或いは太刀ではなく大太刀が纏っているものか。

 

否、否。

 

「そんなことって……私が見た世界の……!」

 

「【偽巌流(がんりゅう)百鬼獄斬(ひゃっきごくざん)】」

 

ナキリの凶刃はフブキの肉を裂き、腹部を貫く。

 

「ケホッ、ケホッ!かひゅ……」

 

妖刀刹那羅刹が引き抜かれた腹部の風穴からは血が噴出し、フブキはその場に力なく倒れた。

 

さらにナキリは、そんなフブキにトドメを刺さんと鬼神刀阿修羅を右手に携えて一歩一歩フブキへと近寄っていく。

 

「ア……ア……」

 

ナキリは瞳を赤に染め、大太刀を倒れているフブキの首に突き刺そうと構える。

 

「私……は……カミとして……ヒュー、ヒュー……」

 

「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!」

 

フブキの暗転した視界には、刹那、ミオの顔がよぎった。

 

「……ごめん、ミオ」

 

ミオは今、何をしているのだろうか。

 

人々の避難は済んでいるのだろうか。

 

これからナキリは新たな命を、或いは存在を求めて足を進める筈だ。

 

ミオには、迷惑をかけてしまうことになる。

 

しかし私にはもう何もできないと、残された僅かな体力で歯を食いしばった。

 

フブキの涙が地を伝い、ナキリの大太刀はフブキの首元に振り下ろされる。

 

「【戦車(チャリオット)】ッ!!」

 

「ぐえ」

 

しかし、その刀身がフブキの首と接触することは無かった。

 

「……へ?」

 

「お待たせ、フブキ。……後は任せて」

 

フブキの視界からはナキリの脚が消失し、代わりに見慣れた黒い獣の脚が映る。

 

ナキリに突進した巨大な黒い獣は再び人の姿を取り戻し、刀を抜いてフブキの前に立ちはだかった。




瞳の真実


瞳の本質は視ることにある

還らぬ名に狂うとも、遺るべき像と啓くべき蒙は在り続ける
視えずとも、背くべきではないのだ
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