ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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白黒×ディストーション 後編

~???~

 

あと一歩のところで首元に大太刀の刀身が触れそうだったものの、黒い獣の姿でナキリに突進したミオの助けで何とか窮地を脱したフブキ。

 

しかしフブキは大量の血を流したまま、気を失ってしまった。

 

「きっと、あなたにも事情があるんだよね。……頬に血涙の跡がある」

 

「ア……ア……!」

 

「けれど、あなたをこのまま放っておくことはできない」

 

ミオは持っていた刀を抜き直して構える。

 

「余の愛した世界は終わってしまった……余の愛した世界は終わって、しまった……終わって、終わって、終わって終わって終わって終わって終わって終わって終わって終わって終わって終わって終わって終わって」

 

一方で正気と狂気の狭間を彷徨いながらも、思考をバグに占有され続けているナキリは、頭を抱えながらブツブツと何かを呟き始めた。

 

「なーに言ってんだー」

 

「余は、余は、あああ、ああ【雑音】」

 

血涙を流しながらその場に膝を突いて崩れるナキリ。

 

自身が血涙を流していることにやっと気づいたのか、或いはそれを指摘したミオに救いを見出したのだろうか。

 

しかし、ミオはそんなナキリを突き放すかのように刀を振り、その刀身は間一髪で飛び上がって斬撃を回避したナキリの左目を掠める。

 

「ちぇっ、斬り損ねた」

 

フブキ達と世界を見守っている時とは違い、凍てつくような殺気を纏いながらの戦闘。

 

正気と狂気の境目で揺れるナキリに、その殺気に満ちた瞳はあまりにも刺激が強すぎたのだろう。

 

ナキリは震えあがり、その場に二本の太刀を落としてしまう。

 

「あ、ああ……ウル、ハ……余、ノ、オトモダチ」

 

「ウルハ……亡者の王かぁ。何であなたからその名前から出るのかは分からないけど……だったら、尚更あなたを倒さなきゃいけないね」

 

刀も持たず、その場に立ち尽くすナキリを相手に、ミオは躊躇する素振りも見せずに右足で地を蹴り、宙を舞いながら刀を振りかぶった。

 

「余、ノ……『神様』……ドウシテ……」

 

「神様……?ウチ達がどうかしたのかな」

 

「世界、ノ、魔界、ノ」

 

「もーわかんねーよー!!とりあえず、死んでないけどフブキの仇ー!!」

 

ナキリは何やら言葉をブツブツと呟いていたが、問答無用とばかりにナキリの眼前へと飛び込むミオ。

 

「ア、アア、ヴヴヴ」

 

「くらえーっ!」

 

しかし、そこは流石ナキリと言うべきだろうか。

 

刀身の軌道を読み取り、しっかりと刀で防御する体勢をとった。

 

「【一瞬閃撃】」

 

そしてナキリは瞬く間にミオの刀を一刀両断する。

 

ミオの手に在る鞘は無傷のまま、刀身は地面へと突き刺さった。

 

「……やっぱり、刀は苦手だー!フブキは刀で衝撃を受け流せるみたいだけど、ウチは無理だぁー!……というわけで……お、おええ」

 

刀を失ったミオは、口内に生成したポータルから吐き出すように大剣を落とす。

 

「……ヴヴヴヴヴヴ!」

 

「おえっ、ケホ、ケホ、これを……そぉぉぉぉれっ!!」

 

ミオは槍投げの要領でそれを投擲。

 

「ガアアッ!」

 

しかし、やはりナキリの防御は鉄壁。

 

ミオも分かってはいたが、やはりナキリにその程度の攻撃が通用するはずも無く、大剣は大太刀から飛んだ少量の血だけで大剣を弾かれた。

 

より速く、より強く、そしてより大量の血を纏わせ、しかし大粒の脂汗を垂らしながら、必死に二振りの刀を振り続けるナキリ。

 

一方で、全ての斬撃を拳と腕だけで受け流し続けるミオ。

 

両腕は自身とナキリの血に塗れ、激痛に耐え忍びながらも、何とか致命傷は避けている。

 

防戦一方のミオに対し、ナキリはペースを乱さず刀を振り続けているように見える今の戦況。

 

しかし、ナキリの顔は明らかに青ざめていた。

 

ミオは段々と動きに粗が出始めるナキリの隙を突いて懐へ潜り込む。

 

「【神性付与(エンチャント)解呪の啓き(ハイエロファント)】」

 

「ッ!?」

 

「【愚者の乱打(ザ・フール)】!」

 

そして、瞬く間に魔力を纏わせた拳からナキリの胴体に連撃を打ち込んだ。

 

「グエ……」

 

ナキリの身体は宙を舞い、そのまま境内の石垣へと衝突する。

 

主人の手から離れた二振りの刀はその場に刺さり、石畳に深く刺さった。

 

「ふぅー。これで一件落着、かな」

 

「ぐぅ」

 

「さて、起きたら洗いざらい話してもらうよ。これまでの経緯を、ね。それと……フブキも、ゆっくり休むんだよ」

 

ミオは気絶したナキリと、倒れていたフブキの身体を抱き上げて境内へと運びこむ。

 

そして二人を布団に寝かせたミオは住人達を村へと送り返し、自身の傷ついた腕に霊薬を塗りながら、座布団に座って緑茶を飲んでいた。

 

「……こうして一人でいるのは久しぶりかもしれないなぁー。おかゆんところねは大丈夫かなぁ、ねねちは元気にやってるかなぁ」

 

ミオの独白は、誰の耳にも入ること無く空に消えた。

 

それから数時間後、フブキは意識を取り戻す。

 

「おはよ……あイテテテ!」

 

布団から起き上がってミオの元へと駆け寄ろうとしたフブキだが、怪我が響いて起き上がることができない。

 

「おはよう、フブキ。無理しなくていいよ。あの鬼の子は別の部屋で解呪を済ませて寝かせたから」

 

「いやー!ごめんねー、ミオ!まだ起きられそうにないや」

 

「うんうん、大丈夫。ゆっくり寝ててよ」

 

「ありがとう。ミオ」

 

布団から話しかけるフブキに微笑みかけるミオ。

 

そして、ミオは無事で良かったと言わんばかりに胸を撫で下ろした。

 

ナキリとの戦いを終えて一息つくフブキとミオ。

 

しかし、彼女達の中には一抹の不安が残っていた。

 

カミ及びカミが許した存在以外の侵入を許さないこの地に、暴走した鬼が侵入してきたのだ。

 

何故に世界はナキリの侵入を許したのか。

行方不明の「ゲーマーズ」とねねは無事なのか。

ナキリは目を覚ますのか、目を覚ましたと狂気は取り払われているのか。

 

死闘の後、勝利の美酒を味わいたい時ではあるが、カミであるフブキとミオは未だ警戒を強いられることとなったのであった。

 

ミオは、再び眠ったフブキの右手を取る。

 

「フブキ。……ずっと一緒だよ」

 

そして、その手を握りながらフブキの寝顔を見つめた。

 

今の「カバー」は予断を許さない程に混沌としている。

 

しかし今、この時くらいは、ささやかな幸せを享受しても罰は当たらないのではないか。

 

境内にはただ、ナキリとフブキの寝息とミオの小さな笑い声だけが在った。




魔界


暗きに沈む世界
それは「カバー」の内側にして裏側に存在していた

血で描かれた絵画が世界を創るのならば、血にこそ意思であり魂すなわち世界の基があるのではないか
そして「カバー」の何処かに在った者の血は暗く、内に世界が宿るのだという
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