ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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巫女、故に

~アルマ村・大地の神殿~

 

フレアからノエルに指輪が渡って、数週間が経つ。

 

あれからというもの、二人の距離は急速に縮まっていった。

 

そして、それを神殿の入り口付近見つめる影が一つ。

 

「ふふっ。フレアちゃん、最近楽しそうで良かった」

 

警備隊長という立場も影響してか、アキの前以外では何かと緊張気味なフレアだったが、最近は口調も柔らかくなり、笑顔を見せることも多くなっていた。

 

「さて、もう少し練習しなきゃね」

 

アキは再び神殿内へと戻り、舞の練習を再開する。

 

「……ふぅ。今でも慣れないな。もう百何十年も練習してるはずなのに」

 

人間よりも寿命が長く、成長が遅いが、時間に対する感覚は人間に近いものをもつハーフエルフ。

 

人間はおろか、純血のエルフよりも体感寿命が長いハーフエルフ故か、若年にして幼少期より舞を教え込まれてきたアキであったが、「長い期間を経ても極みの域へと達しない自身の舞」に違和感を憶えてしまうようになってしまった。

 

本来ならば振り付けを完全なかたちで覚え、さらに一つ一つの動きを極めるまでには三、四百年かかることが普通である。

 

百数十年の修練で極みに限りなく近い領域に達したアキは、本来なら天才の領域に達しているのだが、本人が舞に対してストイック故に、自身の驚くべき成長スピードに気づかないのだ。

 

「【シャルイース】」

 

四時間にわたる練習の後、アキは御神体とされている土塊に舞を捧げ始めた。

 

巫女の一族であるローゼンタール家に代々伝わる舞は、足先や指先に加え、注意が向きづらい脇腹や二の腕はおろか、呼吸のペースや心臓の鼓動に合わせたテンポの調整に至るまで、恐ろしい程に精密な動作を求められる。

 

四十分程続くそれを、ミス無く舞い切ったアキ。

 

「はぁ、はぁ……」

 

しかし、その舞は自然なものでは無く、所々に力の無さを垣間見てしまうものだった。

 

アキは、無意識のうちに自身の人生を憂いていたのだ。

 

閉鎖的なコミュニティを築く狭い村の中で、生まれながらの巫女として、踊りや祀りに一生を捧げる。

 

特に最近はフレアや、新たな友人であるノエルと過ごす時間までもを舞に裂くことが多くなってきてしまった。

 

長老たち曰く、「厄災を鎮めるため」とのこと。

 

まるで自らの時を贄として捧げることを強いられているような状況。

心優しいヒーローでさえも、無意識のうちに感じてしまうという「理不尽」に対する怒り。

 

そして、温和なアキの理性がそれを認識することを許さない。

 

故に、どうしても腹の内に何か淀んだものが溜まってしまうのだろう。

 

アキは、ふらつきながら神殿を出て家路につく。

 

心身ともに消耗し切ったアキは屋敷へと到着するなりベッドに入り、そのまま失神してしまった。

 

その翌朝。

 

連日の無理が祟ったのか、或いは精神衛生の悪さが響いたのか、アキは体調を崩して寝込んでしまった。

 

「アキ先輩、大丈夫?」

 

「お見舞いの品、持ってきましたー!」

 

そんなアキの元を訪れるノエルとフレア。

 

二人が持ってきた籠には、金に近い黄色のベリーが山のように盛られていた。

 

それはアルマ村の住人が好んで食べているヘイゼルベリーではなく、村の外から訪れた人間の口に合いやすいとされているデュオベリーであった。

 

「ありがとう。ごめんね、せっかく来てくれたのに、こんな体調で……ゲホ、ゲホ」

 

アキは咳き込みながらも、ベッドの中から二人を迎える。

 

重症化はしていないものの、「ヨウガイ」というエルフ特有の喘息を患ってしまったのだ。

 

そして、それは治るまでに時間がかかってしまうことで恐れられている病気。

 

故に、補欠の巫女がいないアルマ村では、アキが体調を崩している間は神殿に舞を捧げられない日々が長く続くことになってしまった。

 

アキの体調は回復しないまま、一日、二日、五日、やがて一週間、二週間の時が流れる。

 

その間、大地の神殿には、新たな人間を村へ迎え入れることを許した大地に感謝と祈りを捧げに訪れるノエルとフレア以外が姿を現すことは無かった。

 

そんな中、ノエルとの接触で外部の考え方を知ったフレアは、アルマ村の現状に対して一つの疑念を抱き始めることとなる。

 

「ねえ、アキ先輩。一つ、気付いちゃったんだけど……」

 

「な、なぁに?」

 

「この村の長老達、やっぱり何かおかしいよ」

 

アキが寝込んでいる間、フレアは毎日通う神殿の様子に違和感を憶えたのだ。

 

「ケホ、ゴホ……何で、そんなこと思ったの?」

 

しかし、当のアキは長老達の振る舞いに何の疑念も抱くことは無かった。

 

ローゼンタール家は巫女の家系。

 

アキは物心がつく前から「そういう家」に生まれ、「そういう存在」であることが当然なのだと教え込まれて生きてきた。

 

フレアもローゼンタール家は「そういう家」なのだと、当たり前のことなのだと思っていた。

 

つい十日前までは、フレアでさえ微塵も疑っていなかったのだ。

 

何故にローゼンタール家が巫女の家系とされており、日々、その家に生まれた娘は神殿に舞を捧げることを強要されているのか。

 

アキが疑うことも無く、家畜が調教されるかのように巫女としての生を歩んでいる意味を、フレアは、日々ノエルと共に目にする神殿の様子から気づいてしまったのだ。

 

「……ハーフエルフは、贄だった」

 

「本当にどうしたの、変なこと言って」

 

気でもおかしくしたのかと、自身の体調をよそに、フレアの心配を始めるアキ。

 

しかし、フレアはそのままアキが伸ばした手を握って続ける。

 

「アキ先輩がいない間、神殿には私とノエルしか入ってなかったみたいで。掃除もされていなかったんだよ。舞どころか、掃除もされていなかった。あれ程、大地を信仰しているような長老達が、掃除どころか参拝もしていない。……おかしいと思わない?」

 

「それって……?だとしたら、もしもそれが本当だとしたら、村のおじいちゃんおばあちゃん達は……どうして、私に舞を教えたのかな」

 

「そして、この村で『ハーフエルフ』なのは、不知火家とローゼンタール家だけ。エルフの血が四分の一になることも四分の三になることも無く、『半分』のまま」

 

「そう、だね」

 

「この村を訪れることを許可される人間は、そう多くない。でもノエルみたいに、ほんのたまーにだけど、入村を許される人間はいる。多くの人間は入れないけれど、ほんの少しの人間だけは迎え入れるんだよね。この村」

 

「う、ん」

 

「そして、その数は一世代あたり必ず『二人』。そして今、この村で生きているハーフエルフは、私とアキ先輩だけ。そんな私達は警備隊長で、アキ先輩は巫女。二人とも、代わりが存在しない職業についたよね。アキ先輩の巫女は家系のせい……とも言えるけど、私の警備隊長って役目も……多分、なるべくしてなったんだと思う」

 

「えーと……?」

 

「つまりはね、アキ先輩。私が警備隊長にされたのは、村を守る上で捨て駒として最も扱いやすいからで、アキ先輩が巫女にされたのは、『信仰の欠片も無い連中が教え込んだ形式だけの舞』をさせる上で、最も時間を奪っても問題が無い存在とされているから……なんじゃないかって」

 

「そ、そんなことが……?な、何でそんなことを」

 

「そして、何でそんなことを思われているかっていうのは、ハーフエルフは人間とのハーフだからなんじゃないか……って。だから警備隊長と巫女っていう負担が大きい役目は、忌むべきハーフエルフに任され、そんなハーフエルフをあえて絶やさないために、一世代あたり二人までは人間を迎え入れることを許されている……。そう考えると、全てが繋がらない?私の被害妄想っていうか、邪推ならいいんだけど」

 

「……私達に混じる『血』も、『役目』も、偶然とは思えないってこと?」

 

「うん。……私達って、あんまり人間をよく思う風に教育を受けていないじゃん?私も、ノエルに迫られるまで……アルマ村以外に住んでいる人間って、怪物っていうか……蛮族みたいなものだと思ってたし。でも、ノエルはそんなんじゃなかった。アキ先輩。巫女として生きることを大切に考えるのもいいけど……少し、今の忙しい巫女の生活について考えた方がいいと思う」

 

「……正直、まだフレアちゃんの言ってることを完全には信じ切れない。けど、フレアちゃんが言ってることが本当だとしたら……確かに、こうして巫女として過ごしてる意味は全然分からないかも」

 

「ごめんなさい、急にアキ先輩の人生を否定するような事を言って。……今日はこれで帰るよ」

 

「ありがとう。じゃあね」

 

「うん、さよなら」

 

少し言い過ぎただろうかと、俯きながら屋敷を出るフレアの姿が見えなくなるまでベッドから見送るアキ。

 

「……フレアちゃんが言ってたことも気になるけど、まずは様子を見に行かなきゃね」

 

アキは時間をかけてベッドから起き上がり、巫女の正装に着替えて神殿へと向かう。

 

しかし、道中でアキは予想だにしなかったものに遭遇してしまった。

 

「陸上駆逐型|Radical-buster-crusade-TypesLeo《ラディカルバスタークルセイド・タイプスリーオー》、起動。……視界に魔物を捕捉。撃破します」

 

再び訪れた厄災の始まり、その一つ。

 

それは一斉に動き出す、人型古代兵器群。

 

Radical buster crusade TypesLeo、かつて激戦の果てに朽ち果て、魔に魅入られた者達。

 

「ラディス」と呼ばれ、人々に忘れられていたものであった。




Radical-buster-crusade-TypesLeo


かつて旧文明の聖騎士団によって作られた、人型女性アンドロイド「Radical-buster-crusade-Type3O」をベースに量産された人型アンドロイド

聖騎士団の対魔物戦では、決して低くはない性能と物量で魔物達を追い詰めた

しかし後に人間にも牙を剥き始めたため、たった一機の人型女性アンドロイドによって漏れなく機能を停止され、その存在は闇に葬られた

カミの叡智を以って取り入れた異世界の技術を用いて、特定の角度で攻撃を受けることで衝撃を大きく逃す構造を取り入れている

その名に、少なからず異世界人への敬意が垣間見えよう
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