~アルマ村・大地の神殿前~
大地の神殿付近にて再起動した古代兵器、「Radical buster crusade TypesLeo」もとい「ラディス」。
その数は五十体。
「展開。疑似神器『ガラティーン』」
かつて旧文明を生きる人間が、魔物の強大な力に対抗するため作り出した最終兵器、「Radical buster crusade Type3O」、通称「ロボ子さん」。
文明崩壊直前に製造された最終兵器、その量産型であるラディスは、ロボ子さんが装備できる武装と同じものを使用できるように造られている。
それを示すかのように、彼ら或いは彼女らは一斉に「ガラティーン」を展開した。
そして、その前に立ち塞がるアキ。
「これは……よく分からないけど、放っておいても良いことは無いよね」
アキは地面に両手の平をつき、周囲の地面から剣のような形の巨岩を突き出し、防壁を形成した。
「敵性対象の排除を……!?」
「【シャルイース】」
舞に合わせて、地面からはラディスの腹部を貫く岩が飛び出す。
一体、二体と、次々に破壊されていくラディス達。
それらが人間のような容姿をしているが故にアキは心を痛めたが、それでも、村人に牙を剝かんとするラディスを放っておいてはならないという判断は揺るがなかった。
「【疑似神罰……」
「【シャルイース】」
高密度の魔力を放射せんと構えをとるラディスの一機。
しかしアキは舞によって周囲の植物を操り、ツルをラディスの全身に巻きつけ、四肢と首を千切ってそれを破壊する。
「グギャッ」
「ごめんなさい。あなた達も、望んで暴走しているわけじゃないかもしれないのに」
巫女の舞「シャルイース」、或いは「シャ・ル・イース」。
長老達に教え込まれたそれに意味は無く、ただハーフエルフであるアキの時間を奪うための、虚ろなる祈りに似た空虚なるものであったとしても、アキはそれに意味を見出していたのだ。
かつて、幼き日のアキは、舞に支配されていたかのような生活に辟易していた。
僅かだが、そんな日々は彼女に狂気さえもたらし、遂には親友によって、それらに意味など無かったと思い知らされる。
それでも。
今までの人生が、苦しみが、意味無き、ただ忌むべき敵役たるローゼンタール家に与えられた苦しみに縛られた生活が、全て無意味だったとしても。
「大地の巫女」たるアキ・ローゼンタールは、既に完成していたのだ。
それは大地と植物、自然と呼応する力。
長老達にとってはそうで無くとも、アキにとっては、紛れもない大地の舞であったのだ。
「ギギギ、ヤメ、テ、ヤメ……」
人の言葉を真似し、「やめて」と言いつつも、ラディスは胸部から飛び出したレーザー砲に魔力を集め始める。
「さようなら。次に会う時は、どうか自由に生まれてこれますように」
アキは呼び出した大木を右手で掲げ、ラディスの砲台めがけて投げ飛ばす。
大木はラディスの胸部を貫き、核を破壊する。
「ギャアアアアアアアアア!!」
「マモノ、メ、ユルサ、ナ、イ……」
やはり、ラディス達はアキを魔物と誤認識しているようだ。
しかし誤解を解くにも、相手は暴走した古代兵器。
ラディス達は目から涙を流しながら、身体を震わせてアキの
アキは既に覚悟を決めていた。
自身が巫女であろうとも、人が描く神のように全てを救うことはできない。
それでも、古代兵器までは救えなくとも、この村で共に生きてきた住人達……身勝手な長老達と若いエルフ、そしてフレアとノエルには、自身の手が届く。
「私の名前はアキ・ローゼンタール!大地の神殿に仕える巫女!たとえ舞に意味が無くても、たとえ巫女なんて役目が無くても、たとえ外の世界が私の想像より寂しくても、その逆でも!!私は大地の巫女だから!今、ここであなた達を止める!止めないといけない!!」
ここで残った三十体あまりのラディスを放っておいては、アルマ村はおろか、ブッシュ森林やその外も安全なままではないだろう。
「【ドーバー・キャノン】」
「【シャ・ル・イース】!」
ラディス達は一斉に肩部から二門の大砲を展開し、アキに狙いを定めて発射する。
アキは大木に似せた魔力の塊を、周囲に何本も形成した。
しかし滅びた文明の遺産とはいえ、ラディスの武装は伊達ではない。
大木の幹はすぐに抉られ、すぐに魔力の塵と化してしまった。
「【ドーバー・キャノン】」
「【シャ・ル・イース】!」
「【ドーバー・キャノン】」
「【ドーバー・キャノン】」
アキと自然が再び繋がるよりも早く、次の砲弾が撃たれる。
放たれた砲弾のいくつかは再び形成した魔力の大木で防がれたものの、アキと自然の呼応よりも早く放たれた砲弾は、それらをすり抜けてアキの視界を埋め尽くす。
「【シャ・ル……!?」
【雑音】。
鉄塊とアキとの距離は10メートル。
アキの脳は全身に回避命令を下す。
しかし身体が動くよりも先に、1メートル前まで迫っていた。
間に合わない。
アキは、もはや立ち尽くしたまま身体を動かすこともできず、文字通り迫り来る死を前に、ただただ考えるしか無かった。
「【
「【フォールオブゼロ】!!」
そこに現れたるは、警備隊長である不知火フレアと、不死身の女騎士ノエル。
爆発音に気づいてか、最低限の装備を持って駆けつけたようだ。
砲弾はアキの眼前でフレアの火矢によって撃ち落とされ、ノエルはメイスで、ガラティーンを構えてアキに迫っていたラディスの数体を叩き潰した。
「フレアちゃん!?ノエルちゃん!?どうして……?」
「もう、アキ先輩?まさかとは思いましたけど、何で体調良くないのに神殿の様子見に行っちゃうんですかっ!」
「だって……あんなこと言われたら気になっちゃうじゃん!それに、古代兵器が動き出すだなんて、夢にも思わなかったし」
【雑音】。
「もう、古代兵器はいつ起動するか分からないんですから、油断しちゃダメですよ!」
【雑音】。
「ごめんごめん!二人にも、心配かけちゃったね。……さあ、残りを片付けるよ!フレアちゃん、ノエルちゃん!」
「「了解っ!!」」
体勢を立て直したアキは、再び舞を始めて自然との繋がりを回復させる。
そして、ノエルはメイスを構えて木の枝に飛び乗り、矢を切らしたフレアは刀を抜いてアキの前に立ちはだかった。
「【シャ・ル・イース】!」
「【冷たい重打】!」
「【
アキは近辺に大量の木を生やし、フレアとノエルの高所を確保する。
木から飛び降りたノエルは冷気を纏わせたメイスを地に叩きつけて地面ごと6体のラディスを凍りつかせ、フレアがそれを舞うような回し蹴りで砕いた。
さすがのコンビネーションに、そんなフレアとノエルを少し羨ましいと感じてしまうアキ。
【雑音】。
狂う者は、己に潜む狂気を自覚できないという。
音が、聞こえる。
そして、それを認識できている内は正気が保証されているらしい。
私も、そう在る。
彼女も、きっとそうなのだろう。
【雑音】
「【踊り子の花】」
ノエルは地に突き立てたメイスを軸として、周囲のラディスを一機、また一機と蹴り壊し。
「【
そしてフレアは炎を纏った刀を構え、次々にラディスを真っ二つに断ち切る。
その間、アキはずっと「シャ・ル・イース」を舞っていた。
一秒たりとも集中を欠くこと無く、意味を持たぬそれを、ただ舞っていたのだ。
そして、二十秒後。
「【シャ・ル・イース】!!」
アキがとことんまで簡略化した舞を終えると、周囲に魔力で形成された黄金の大樹が生み出される。
「ギ、ギャアア、ヤメ、テ、コロサ、ナイデ……」
樹々の輝きは周囲の金属をみるみるうちに劣化させ、ラディスの全身を粉微塵と化す。
「ありゃ、これもダメかぁ」
「団長のメイスも……」
それらはフレアの刀やノエルのメイスにも影響を及ぼし、神殿の建材である石の一部に含まれていた金属も綻び始めた。
「コロサナイデ、ボクタチ、シニ、タク……」
「【
甘い声と泣き言で何とかアキを惑わさんとするラディス達。
しかしアキの心が揺らがぬ証拠か、或いは彼らを一刻も早く楽にしてやりたいというアキなりの思いやりなのか、黄金の樹々は黄金の羽となり、アキの背から周囲へと金色の粒子を拡散させて金属という金属を完全に消し去る。
「ギギ、ギ……」
「さようなら。また、どこかで」
アキは手を天に掲げて消えゆく金属片を掴むように右手を閉じ、離すように再び手を開いた。
そして、それを見ているだけであったフレアとノエルは、もはや持ち手も残らなくなってしまった刀とメイスの残りかすを払い捨てる。
アキは展開していた黄金の羽を解除し、魔力黄金の粒子と化して離散。
それはまるで都会に降る雪のような、しかし燃え尽きつつある灰のようであった。
「……終わった、のかな?」
「そう、みたいだね」
安堵の溜め息をつき、その場に座り込むフレア。
そんなフレアに合わせて、ノエルもその場にゆっくりと腰を下ろし、フレアに寄り添った。
「二人とも、ありがとう。大地の巫女が二人の戦士を称えます。……って、『大地の巫女』……なんて立場、本当は存在しないのかもしれないけど」
アキは寄り添うフレアとノエルの前に跪き、感謝の意を述べる。
差し出されたアキの右手を握り返したフレアは、ノエルとアキの手を引き、神殿へと走り出した。
「ノエちゃん、一緒に祝おう!巫女の祝福を!アキ先輩は、きっと本物の巫女様だ!!長老達が言っていた幻想の塊が、本当に形になったんだよ!」
「アキ先輩。まだ、団長はアキ先輩と出会ったばっかりだから、あんまりアキ先輩のことは分からないけど……あの力は、生半可な努力じゃ使えないってことは分かる。……この村の人達が言っている『大地の巫女』っていうのには、意味なんて無いのかもしれないけど……今のアキ先輩は、紛れも無い聖者だよ」
そしてフレアは握っていた手を自身の側へ引き寄せ、ノエルとアキを抱きしめた。
黄金の雪が降る大地の神殿、その内部では、少女達の熱い抱擁が交わされている。
【雑音】。
しかし今やその音も掻き消され、村と神殿には静寂が流れた。
巫女の真実
大地の巫女は巫女に非ず、それに意味など見出されない
警備隊の長と同じく、忌むべきハーフエルフから時を奪うためのそれであった
しかし、大地の巫女は云う
それが何の意味も無い隔離であるとも、私がそう在り続けようとする限り、私は紛れもない大地の巫女なのだと
理想とは、昏き虚に真実を見出すものなのだろう
そして、時に気と月は人が触れるものだ