~ブッシュ平原・ムラサキ村付近~
ちょこが投擲した麻酔針を受け、視界がぼやける「赤」。
「意識が……保てない……!」
その隙を突いて、ちょこは身体を再生している最中のメルを抱きかかえて「赤」と距離を離した。
「大丈夫?君はここで休んでいて。事情は分からないけど……あの女の子は、ちょっと『ヤバい』気がする」
「あ、あり……がとう……?」
そして、芝の上に降ろされたメルは地に伏したまま、「赤」に削り取られた骨と肉を再生しながら、ちょこと「赤」との戦いを目で追い始める。
「さて……かわいい女の子を助けたい一心で、咄嗟に横槍を入れちゃったけれど……ちょこ一人で何とかなる相手かしら……?」
「もう!!どうして邪魔をするのよ!もう少しで、あのヴァンパイアちゃんも壊せたのに……」
「壊すって……。何が目的かは知らないけれど……あなた、何だか楽しんでいるように見えたわね?」
「うん!はあちゃまの芸術は、程よい破壊にあるからね!」
「……なら、私は魔界最後の保険医として、全力であなたを止めさせてもらうわ!」
「やれるものならやってみなさいっ!!【
白衣からメスと針を取り出したちょこの頭上で、はあとだったものは赤い雷を纏った右腕を地に叩きつけんと振り下ろした。
雷は周囲を焼き尽くしながら、「赤」の右腕が杭のように地へと打ち付けられると同時に、雲一つ無い晴天へと赤い電流と衝撃を爆発させるように。
ちょこは羽を広げて飛び上がり、さらに後方へ宙返りすることで、「赤」の右腕から繰り出される雷と電流が誘導されない範囲へとを移動することで猛攻を回避する。
「【
そして、麻酔薬が塗られた針を空中で六本同時に飛ばした。
「はあちゃまに同じ攻撃は二回も通用しないよッ!」
しかし、それらは全て「赤」が纏っていた赤い雷に弾かれ、次から次へと針を伝う雷によって、全てが粉々に砕け散ってしまった。
「やぱり、さっきみたいにはいかないわね……」
赤井はあとではなく、はあちゃま或いは「赤」なるものに同じ技は二度通じない。
「あーーっはっはっはっ!次こそ壊してあげるっ!【
そして、次の一手を繰り出す「赤」。
赤黒く、生命力と死の呪いを孕んだ混沌とした邪気のような何かが、無数の弾丸となって「赤」の両手から発射された。
「やっ、とっ、おっと!」
ちょこは次から次へと針を投げて魔弾を防ぎつつ、投げた針をすり抜けてきた魔弾を回避し、なんとか「赤」との距離を詰める。
ちょこが「赤」と対峙するにあたって、近距離戦でもそこそこ不利ではあるが、遠距離戦はもっと不利だと感じたのだろう。
「詰めてきたね!いいよ!近くで戦った方が、もっと繊細に傷つけられるもん!」
「ガチィ!?今までの攻撃から、繊細さなんて1ミリも感じなかったけど……!?」
「はあちゃまの芸術も破壊も、全部繊細なのよっ!それっ!」
続けて「赤」はちょこへと迫り、連続で赤い雷を纏った拳を振るう。
早く、強く、ちょこの全身を破壊せんと迫る赤色の拳。
ちょこは高く飛び上がって回避するが、「赤」が重力などまるで無いかのように拳を振りながら空中まで浮き上がってくるとまでは予想していなかったのか、飛行時間の限界が迫り、身体が自由落下を始めてしまう。
「マズい……!」
限界が近いとはいえ、着地時に身体が地面へ叩きつけられないよう、一瞬の飛行時間は残している。
しかしそれでは着地こそ無事にできるものの、落下中と落下直後は一切の防御が不能となってしまった。
「隙アリねっ!これであなたも、私の芸術品の仲間入りよ!」
「……くっ!」
「【
ちょこの着地に合わせて再び右腕に纏わせた赤い雷を叩きつけんと、「赤」は腕を振り下ろす。
しかし、ちょこはその攻撃を待っていたのだ。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたちょこは、ちょこは空中に六本の針を投げ、自身の着地地点にも針を刺す。
ちょこは赤い雷が、針と針とを伝っていたことを忘れていなかったのだ。
「ちょこにだって、同じ技は通じないよ」
「アハハハ!そうかもねっ!でもあなたが今投げた針、一本も当たってな……」
「赤」がそう言いかけた瞬間、赤い電流は上空に飛ばした六本の針で描かれた六角形と地面に刺さった一本の針を伝い、六角錐の牢獄を作り出す。
「【
「ぎゃあああああああああああ!?」
「赤」が右腕に纏わせていた赤い雷は制御を針に乗っ取られ、「赤」の全身を貫いた。
身体は痺れ、右腕の雷は放電し、バランスを崩して地面に叩きつけられる「赤」。
「……さあ、今なら見逃してあげるから、立ち去りなさい!」
「や、やだよーだ……はあちゃま、天才芸術家だもん……!全部、吸い尽くしてあげる!【
針を構えながら、「赤」を追い払わんと手を払うちょこ。
しかし、「赤」は再び距離をとったことをチャンスと見込んでか、もう一度、生と死の魔弾を連続で放った。
「【
一瞬にして、「赤」の魔弾はちょこが一斉に投げた針の弾幕によって打ち消される。
「そんな……!何で、何ではあちゃまの攻撃が全部通らないのよー!」
「私は悪魔の保険医だから、そういう攻撃への対処法は大体知ってるの。戦う前はどうなるかと思ったけど……ちょこには、相性が良い相手みたいだったわね」
「いや、嫌ーーっ!はあちゃま、こんなところでやられたくない!」
「【麻酔……」
「【
ちょこは弱った「赤」を眠らせて保護せんと麻酔針を投げようとしたが、「赤」は身体の負担を考えずにリミッターを解除し、全速力で逃走。
追いかけようと飛び上がったちょこだったが、あまりにも速く走る「赤」に追いつくことは不可能と考え、すぐさま休んでいるメルの元へ向かった。
「大丈夫?立てる?」
「いや……まだ、ちょっと時間がかかるかも」
「そう。……ねえ。あなた、名前は?それにすごい勢いで傷が再生してるみたいだけど……」
「私はメル。吸血鬼なんだ。だから、しばらく待っていれば傷は治るはず。……でも、ちょっと血が足りないかも」
メルは傷口からの出血は勿論のこと、体内に残っていた血も傷の治癒に使うため、今や血が枯れかけているようだ。
「なら、ちょこの血……飲んでいいよ。ほら、首。ここ噛んで」
そんなメルに、ちょこは躊躇すること無く首を差し出した。
「ど、どうして?いいの?普通、血って大切なものだから……結構躊躇うと思ってたんだけど……」
「可愛い女の子に血を吸われるなんて、ちょこにとってはご褒美でしかないからいいのよ?」
地に伏すメルに合わせて、自身も寝転がるちょこ。
「そ、そう……?ありがとう。じゃあ、遠慮なく……かぷっ」
そして、メルはちょこの左肩から血管へ、ゆっくりと牙を刺して血を吸う。
「んっ……」
メルの牙が血管に刺さりと掃除に、唇がちょこの肩に当たる。
思わず、ちょこは声を少し漏らしてしまった。
「んぐ、んぐ……ぷあっ」
メルはちょこから牙を抜き、その際に傷口の血を固めることで、止血を済ませた。
「あっ。……もう、いいの?」
一方のちょこは少し物足りないような顔で、再び立ち上がって伸びをする。
「うん。もう大丈夫……」
メルは、何故だか少し顔を赤らめていた。
「さぁて、とりあえず、ここは危ないから……村に案内するわね。うんしょっと!」
「ひゃっ!?ちょ、ちょっと!?」
ちょこに抱き上げられ、羞恥心が一気に押し寄せるメル。
「勢い良く飛ぶから、しっかり掴まって!行くよ!」
「は、恥ずかしいよ!ちょこ先生!」
「恥ずかしがってるメル様、かわいい……」
「かわいいじゃないよーー!!」
しかし、そんなメルの抵抗を華麗にスルーし、ちょこはメルを抱きかかえたまま空を飛んでムラサキ村の境内へと向かった。
そして境内に着いた後も、メルは当分、頬の紅潮が収まらなかったのだそうな。
麻酔針
癒月ちょこ特製の麻酔薬が塗られている針
刺さった対象から気力を奪い、意識を削ぐ
技術さえあれば手が小さい少女でも容易に投げることができる大きさ
故に速い針は見えづらく、癒月ちょこの針は鎌鼬と密かに恐れられた