~天界・カイン港跡~
指先が手の平へ食い込む程に拳を握りしめ、全身から闘気と殺気を放ちながらすいせいの元へじわじわと近寄るかなた。
「アハハハ、ハァ……私は、あの人に、あの人への贖罪を……!筋書きを……!」
「贖罪だか何だか知らないけど……僕はここで、貴方を確実に葬り去る。天使だからとか、天界の復興に支障をきたすとか、そういう理由じゃなくて、完全な僕の支援で、貴方をこの世界から追放する。……まるで、人間みたいだよね。自分勝手な理由だけで人間一人を殺せちゃう天使なんて。でも、これでいいんだよ」
「ハハハハハ、ハハ、ハ、ハ、私の、ワタシ、ワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシ」
恍惚とした笑みに呑まれるかのように涙を流しながら、その場に膝から崩れ落ちても尚、笑い続けるすいせい。
「今更、僕一人で街の復興なんてできないし、僕達……『天使』が何に仕えていたのかも、もはや誰も思い出せない。すいちゃんは狂っちゃうし、今の僕はきっと、この辺りの誰よりも強い。……こんな状態で、この世界がまともな訳ないでしょ」
「ああ、そうね、確かにまともなんかじゃないわ!!ワタシはワタシであることが、どうしようもなく、どうしようもなく『違う』のよ!!ワタシは、ワタシは……!!あああああああ!!」
すいせいは辛うじて取り戻した意識を全て削り取って、今度こそ完全なる「星街すいせい」の消去を行った。
一方のかなたは、誰かへと向けた独白を続ける。
「……だから僕はせめて……この身体が保つ限り、ココが残してくれた世界に僕自身が正しいと思えるカタチで決着をつけるよ。すいちゃんの言う、力と星による破壊じゃなくて……本来有るべき、終わりの姿へ。それが天に属す者、『天使』の役目だと思うから」
そして湧き出した言葉の全てを雲海へと吐き出し終えたかなたは、再びすいせいへと近寄る。
「ああ、あああああ、皆、待っていて……!そして、あの人に、謝らせて……」
「……うん、うん。でもさ、まずは」
「……ッ!?」
「トワに謝んなよッ!!!」
かなたの拳から、渾身の一撃が繰り出される。
「ごああああああああっ!!?」
それを腹部に受けた【雑音】は、崖際まで吹き飛ばされる。
地を転がり、すぐ数メートル先からは崖際だというのに、ピクリとも動かない。
しかし、間違いなくソレの生気は消えていない。
「うおああああああああああ!!よくも!よくもトワを!!トワををををををををををををを!!!」
そして、焦点を合わせる間も無く【雑音】の全身を殴り続けるかなた。
しかし、かなたがどれだけ【雑音】を殴り続けようとも、【雑音】の身体を崖から雲海の下へと落とすことは無かった。
「……ワタシは、ワタシは……ザザザザ、ザザ」
傷だらけになり、それでも狂気に溺れ続ける【雑音】。
しかし正気など微塵も残っていない彼女の肉体は、そう在るしかなかったのかもしれない。
「これでとどめ……」
「【流星群】」
そんな星の少女は地に伏したまま、爆発する光の弾をかなたへと絶え間なく飛ばし続ける。
とどめを刺さんと拳を構え直していたかなたは、星の雨による妨害を受けて後方へ。
星の力は命の力、生命エネルギー。
そう解釈した星見が存在したのだろうか。
確かに、星の少女から放たれる光は、世界の理でさえ辛うじて有り得る程度の爆発を帯びている。
超新星爆発。
憧れと妄執の果て、具現化した生命の力。
星の少女は、確かにそれを見出していた。
「うわっ!!?」
光弾がかなたに命中すると、それは辺り一帯を破壊する程の爆発を引き起こす。
かなたの筋力を以てしても、その損害は軽微では済まされなかった。
全身の骨は軋み、肉は酷い打撲をしたかのように痛む。
思わず、かなたは膝を突いてしまう。
「ワタシ、ハ、星……堕トス、ベキ、……永遠ノ、世界ヲ……」
「もう、輪廻なんて懲り懲りなんだよ。『あの子は星になったんだよ』……なんて、真に受けるからこんなことになるんだ……!だから、僕はここで全てを終わらせなきゃいけないんだ……!ココ、僕に力を貸して……!僕に、この許されない世界のシステムを壊す力をッ!!!」
かなたは立ち上がり、両腕を天に掲げる。
その瞬間、彼女の羽は橙色の光を帯び始め、背後にはかつて在った飛竜の幻を纏い始めた。
「星ノ、息吹ヲ……生命ノ……息吹ヲ、オオ……!!【彗星ナナセ】」
すいせいの両手から、群青色のエネルギー砲が放たれた。
辺りに土煙を撒き散らし、光は時空を歪めながら、かなたへと一直線に向かう。
「さあ、ココ。僕達の『すべて』を以て、尊大なる星に、罰でも何でもない、ただの怒りをぶつけるよ」
天界は星空より下にあるが、空は星々にさえも「星空」として見出される。
ならば、かなたが見出すべきものは一つであった。
「【
天を貫き星をも穿ち器用に飛び回る竜のように、かなたは翼を輝かせ、握った鉄のような右手の拳を前方へ突き出し、光の中へと飛び込む。
「ハ、ハハハ、ザザザザザ……ザザ、ザ、ザザザ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
渦巻き、全てを呑み込む星の力。
しかし、かなたの羽から浮き出た竜の幻影が、それらの全てを弾き返した。
かつて在った、友の形見。
かなたは、それを温もりに見出していたのだ。
「ザザザザ……アア、トキ、ノ……ザザザザ……」
星の少女が放つ彗星は、いつの間にか幻から放たれていたブレスに打ち消される。
そして少女と天使の距離は、視界に相手の顔が収まりきらない程度にまで近づいた。
「さよなら、すいちゃん」
殴。
「が……ぁ」
星の少女は、崖下へと落ちていく。
かつて、星の少女は善き悪魔を地の果てへと突き落とした。
何の前触れも無く、常闇へと追いやったのだ。
「ハハハ、ハ、ハ……ワタシハ結局、何モ……ハハハ、ハァ、ハァ……」
これは天罰か、或いはただの律による報いか。
「さ、行こっか」
かなたは少女の肉体が霧散し切る前に空へと振り向き、再び羽を輝かせて空中へと飛び立つ。
「……次に会う時は、今度こそ本当に友達として会おうね、すいちゃん」
天使はそう言い残して天界を去り、星空へと飛翔していった。
星空が、或いはかつての都が、その先にはきっとある筈なのだから。
輪廻
古くより人間達に見出されてきた生命の律
しかし見出さぬ神も在った輪廻というものは、非常に曖昧である
輪廻であろうが昇天であろうが、結局は、せめて愛した者が底へ落ちぬよう
死後の安楽を願う祈り、或いは黄泉がえりへの願いであったのだろうか