ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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知らぬ者

~アルマ村・大地の神殿~

 

三日後の朝。

 

大地の巫女であるアキから、村人全員に招集がかかった。

 

「……今日は、皆に良いお知らせと悪いお知らせがあったので、集まってもらいました」

 

いつに無く曇った顔のアキ。

 

大地へ捧げてきた舞や、抱き続けてきた信仰そのものに意味がある訳では無いことが判ってしまった時でも、これ程までに生気を感じない表情はしていなかった。

 

アキの、血を全て抜かれたかのように白くなった顔から、只事では無いと察すフレアとノエル、そして数百人のエルフ達。

 

そして、その中でも特に関係が深い数名のエルフは、事態に気付いているようであった。

 

「……何があったの、アキ先輩」

 

力無く息を漏らすアキへ駆け寄り、今にも倒れ込みそうな彼女の肩を持つフレア。

 

「あ、ありがとう、フレアちゃん……」

 

「無理しないで、アキ先輩」

 

「ううん、大丈夫。……改めて、皆に良いお知らせと悪いお知らせをしなきゃいけません。まず、良いお知らせは……警備隊長のフレアちゃんが、村長に立候補したことです。とりあえず、一人は候補者が出たから……この村をまとめる人がずっといない……なんてことにはならないと思う」

 

「「「「おおーーー」」」」

 

新村長候補の登場に湧くエルフ達。

 

しかし、そんな知らせをしているアキの顔は、やはり晴れてなどいなかった。

 

「それで、悪い知らせっていうのは……。悪い、知らせって、いう、のは……」

 

アキの瞳から、涙が零れ落ちる。

 

視界は歪み、もはや認識への作用を諦める。

 

しばしの沈黙。

 

顔を濡らしていた涙は渇き、ゆっくりと時と共に視界が戻るアキ。

 

しかし、その瞳は微かに色褪せて霞んでいるようであった。

 

改めて、認識してしまったのだろうか。

 

絶望を、顔も見ぬ間に去っていく者達を知ってしまうことの悲しきを。

 

「アキ先輩、大丈夫?」

 

「大丈夫。これは、巫女の私から言わなきゃ。……っ、……。ここ数日で、五名のエルフが姿を消しました。……サラちゃん、シアちゃん、マリちゃん、シノちゃん、ヌエちゃん。遺体は見つかっていないから、生きてるかもしれない……いや、生きてて欲しいけど、正直……この日数じゃ、絶望的だと思う」

 

アキの口から漏れ出した衝撃的な知らせに、エルフ達は騒然とし始める。

 

段々と声が大きくなるエルフ達。

 

「……少し、話を聞いてもらえるかな」

 

しかしフレアは、そんな彼らの騒ぎ声が埋め尽くす広場を、たった一声で静寂へと返す。

 

「……だから、皆に伝えておきたかった。……どうか、気をつけて。具体的な対策は思い浮かばないけど……皆、とにかく死なないで……ください」

 

そして、アキは涙ながらに皆の無事を祈りながらに話を終え、そのまま誰と目を合わせるでもなく、一人で大地の神殿へと向かった。

 

一方、無言でアキを見送ったフレアは、ノエルと共に持ち場へ移動する。

 

昨日、フレアがノエルに「付き合って欲しい事がある」と言っていた理由。

 

本来は長老の間にて、自身が新たなる長老もとい村長を目指す志をノエルに表すつもりだったが……その理由は、意図せず「警備の厳重化」という目的へ変わってしまった。

 

フレアにはやるせない気持ちが残ったが、アキの発表で、少なからずノエルにはその意が通じただろうと、そう思い込むことでフレアは己を納得させる。

 

つくづく運が無いと、フレアはそう呟いて警備を始めた。

 

数週間前。

 

ノエルを村へ迎えて以降、度々議論されていた「外部から森へ迷い込んだ人間への対応」。

 

フレアとノエルの関係が発展したことで、それを幾分か寛容にすることを目指すと、村人達による多数決で決定した。

 

故に、ここ数週間の侵入者対策はフレア一人で緩く担ってきたわけだが……そんな中で起きた、エルフ達の失踪事件。

 

数日間で原因不明の行方不明者が五人も出ている以上、外部の人間がエルフを誘拐している可能性も捨てきれないため、門前の警備に騎士団長であったノエルを配置することになったのだ。

 

「はぁ……長老達の件が一段落したと思ったら、今度は死人が出始めて……」

 

「皆、ピリピリしてるね。……でも壊れた古代兵器の跡地は毎日巡回して、動いてるやつがいたら壊してるから……内部に離反者がいるって訳じゃないと思うんだけど……」

 

「やっぱりまだ動くやつは動くんだ。……うーん、しばらくノエちゃんを門番に回さきゃいけなくなっちゃったし、新しく古代兵器対策専門の隊を作った方がいいかもね」

 

フレアは警備隊の名簿から選りすぐりの女戦士達を選出し、近いうちに所属を変えるように書き込んでおいた紙を貼っておく。

 

「でも団長とフレアが一緒なら、きっと誰も入って来れないよ。それに団長は脳筋の力持ちなんだから、警備は任せて!フレアは、安心して村長になって!」

 

「……ありがとう、ノエちゃん」

 

フレアは弓を整備しながら、張り切ってメイスを振っているノエルに背後から抱きついた。

 

「わわっ、フレア、どうしたの急に」

 

「……少し不安で。村を守っている警備隊の長なのに、もう五人も行方不明を出しちゃって……私、こういう状況には強いはずなんだけどな」

 

己には運が無かった、立候補したタイミングが悪かっただけなのだと解ってはいる。

しかしフレアは、まともではない現実を目の当たりにしたことで、己がリーダーとしてアルマ村を統べていく器となる自信を失ってしまったのだ。

 

珍しく思い詰められた様子のフレアを、ノエルは包み込むように抱き返した。

 

「……大丈夫だよ、フレア。どんなものにも、終わりは来るから。きっと、こんな怖い日々もいつか終わるよ。だから、あんまり考えすぎないで」

 

「ノエル……」

 

「フレアには皆がついてる。もちろん、わたしも。新しい長老の誕生を、皆が待ってるんだよ。だからフレア。あんまり不安に思わないで」

 

「……ありがとう、ノエル」

 

フレアとノエルは、その後も警備を続けた。

 

それは数刻に一度、門から村へ入り込まんとする獣を追い払うだけのものであったが、それでも二人にとっては、不安と微かな恐怖が引っ掛かり続ける日々に残った、少しばかりの愛する者と共に過ごす時間だったのだろう。

 

そして日暮れ。

 

ノエルと手を繋いで村へ帰るフレアの顔は、笑顔とまではいかなくとも、どこかしら安堵しているかのようなものであったようだ。

 

犠牲を出してしまったことよりも、これ以上犠牲を出さないようにと、フレアは夜な夜な、古代兵器群と侵入者に対しての対策を練るためデスクへ向かう。

 

武と知、己が識り、持つもの全てをもって村を守り続ける者にならんと、フレアは弓を整備するのであった。




ハーフエルフ


閉鎖的なアルマ村において、純粋ではない混ざりもののエルフは恐れられた
今でも老いたる者達によって続く差別はその名残であろう

混ざり者は恵みを逃しやすく、また狂気を孕み、その身を燃やすのだという

樹を焼く火も闇を受け入れる火も、そのいずれもが、人を薪にするのだから
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