~カバー南部~
お菓子の国が消失してから数時間後。
フレイとの激戦を経て帰還したノインを迎え入れたルーナは、姫森城跡地へと向かう。
「ここが、ルーナのお城だった場所なのらね。……今もう、ただの砂場なのらけど」
今や荒野に残された僅かな水跡は「アクア」が確かに存在していた証拠であり、所々に規則正しく配置されている砂の塊は、確かなルーナの理に在った、ルーナイトの達の残滓であった。
「ねぇ、ルーナ。さっき言ってた『ラスボス』って誰のこと?」
まつりは、何かを決意したように姫森城跡を立ち去ろうとするルーナを呼び止め、妙に意味深であった「ラスボス」という単語が指すもの、その意味を問う。
「ルーナの使命は、壊れた世界を受け入れて、まつりちゃを元の世界に帰すことなのら」
「壊れた世界?」
「……この世界はもう寿命なのらよ。……この世界だけじゃなくて、その外側も、なのらけどね。だから、ちゃんと終わりを受け入れて新しい世界を創る準備をしなきゃいけないのら。……でも、そんな当たり前の事を受け入れられない人もいる。まつりちゃをこの世界に召喚したのは、そういう人達なのらね。……だから、ルーナはまつりちゃを元の世界に送り返して、運命を受け入れる準備をしなきゃいけないのら」
「うーん……やっぱり、ルーナの言ってること……よくわかんないや」
「いいのらよ。きっと、しばらくしたら嫌でも理解しちゃうのら」
ルーナは腰に下げていた剣を鞘から抜き、空を切る。
すると、そこには本来存在してはならない筈の虚空、空間の裂け目が現れた。
「これは……」
「さ、まつりちゃ、ノインちゃ。……海に行くのらよ」
まつりとノインの手を掴み、裂け目へと近づくルーナ。
「待って、ルーナ」
「どうしたのら?」
しかし、そんなルーナの奇行とも思えてしまう妙な行動と発言の数々に、まつりは戸惑いを隠せず、その手を引っ張り返してしまった。
世界の終わりだとか、運命を受け入れるだとか、突然そんな事を言われても理解どころか、納得などできたものではない。
まつりの反応は当然のものだろう。
「一旦、冷静にならない?今のルーナ、すごく焦ってるように見える」
「そりゃあ焦るのらよ。死んじまった人の身体が腐るのと同じで、世界も壊れたら全部がおかしくなっていくのら。……だから、早く何とかしなきゃ……」
荒野に雨が降り始める。
「ルーナ。……どういうことなの?寿命って何?運命って何?」
「……本当に、何も知らないのらね。……それとも、忘れちまったのら?」
ルーナはまつりの眉間を一突き、意識を奪う。
「あ……」
まつりの視界は暗転。
どこまでも落ち続ける身体。
虚空に身体を包まれ続け、それらは情報と知覚の中へ。
しかしそれは深淵のような邪悪と狂気ではない、ただ映画のような、或いはフォルダのような、そんな暗い穴を落ちていく内に、まつりの意識も闇の底へと消えていった。
走馬灯を巡り続けて昨日を繰り返すような、そんな感覚の果てに。
夏色まつりは、一つの契りを見出すこととなる。
水滴
霊は水辺を好むという
そして、立ち去った後には水滴が残ることもある
被造物は造物主の識る概念しか纏えない
ならば、造物主の生まれは何処なのだろうか