ホログラム・パラドクス   作:最上虎々

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目覚め

~カバー南部~

 

「……はあっ!?なに、これ……?」

 

脂汗を流しながら目を覚ましたまつりは、目の前に立つルーナを見て、声を震わせる。

 

「思い出したのらね。まつりちゃ……いや、【雑音】ちゃ」

 

「ど、どういうこと……!?世界はどうなったの!?ここはどこ!?フブキは!?」

 

「『フブキ』……かぁ。まつりちゃがどこまで思い出したのかは分からないのらけど、その名前で呼ぶってことは……まだ完全に思い出せていないだけなのか、それとも世界か何かが干渉しているのか……まだまだ色々考えなきゃいけないのらね」

 

ルーナはため息をつき、右腕を顎に当てて何かを考え始める。

星々が宿ったルーナの瞳は、いつになく光が当たっていなかった。

 

「何が起こってるの……?まつりは誰?フブキって誰?ルーナは何者?世界って……!?」

 

「ルーナの口からは話せない……と言いたいのらけど、実はルーナもそこんとこはあんま知らねーのらよ。ルーナが知ってるのは今、まつりちゃが見た世界の、そのまた一部なのら」

 

「まつりは何で、あんなものを見たの?ルーナ、どうやってまつりにあんな世界を見せたの……?」

 

未だ、錯乱状態のまつり。

 

それもその筈。

まつりは喫茶店で怪しい通知を目にしたかと思えばお菓子の国の王室で目を覚まし、そうこうしている間に国が灰と化したり、廃墟と化したお菓子の国の王女が小難しいことを言い始めたりしたのだ。

 

残る「円卓」も、もはやノインのみとなってしまった。

 

むしろ、この状況で平然とルーナに絡み始めようものなら逆に狂気を感じるというものだ。

 

「ルーナの力は、ルーナの中にある概念を『ルーナイト』として分けるもの。まつりちゃが見た世界は、ルーナ自身が『現実』のルーナイトとして使える力が見せた、『まつりちゃが見た現実』なのら」

 

「まつりの、現実」

 

まつりが見た世界は、確かに存在する。

ルーナの言葉の意味を、どうしても理解し切ることができないまつり。

 

「混乱するのも仕方無いのらけど、とりあえず、何があったのかを憶えておいてくれればいいのらよ。……その上で一つ、大切な質問なのら」

 

「な、何?」

 

出会った時には一瞬たりとも見せなかった、ルーナの真剣な表情。

 

「まつりちゃは……『現実』の世界を続けるべきだと思うのら?」

 

現実。

 

そこが本来、まつりが在った筈の場所だろう。

 

しかしどうだ、あの世界は。

 

「まるで、地獄みたいだった」

 

空間は歪み、人は狂い、親友のフブキ……或いはそれに似た何かまでもが、世界の強引な存在に取り憑かれている。

 

「じゃあ……あの世界の存続には、反対なのら?」

 

まつりは一瞬、口を噤む。

 

しかし、すぐに答えた。

 

「皆が、フブキがおかしくなるくらいなら……世界なんていらないや」

 

自棄になったのか、渇いた笑みを浮かべるまつり。

 

「そうなのらね。……『同士』まつりちゃ。ノインちゃを連れて、海に行くのら。……伝説の大海賊、まり……マリン船長を、探しに行って……嘘だらけ、エラーだらけの現実を、倒しにいくのらよ」

 

「『同士』ってことは、ルーナも同じなんだ。……わかった。行こう、ルーナ姫」

 

まつりの絶望を表情から察し、崩壊した世界の無理な延命を拒む同士であることを確信したルーナは、そっと胸を撫で下ろした後、まつりの手を握り、声が届かない範囲で待たせておいたノインの元へ合流する。

 

「もー、待ったよー?ルーナ姫、何か話してたの?」

 

重いどころの話ではない計画について話していたルーナとまつりを、笑顔で迎え入れるノイン。

 

彼女の分け身にして近衛。

 

しかし、そんなノインの表情は、誰よりも緩んでいた。




見知った地


瞳の主は死を憂いた
友の死を、場の死を、世界の死を

腐り、欠け、抜け落ちた世界はもはや戻らず、虫食いのように世界は歪んでいく

全てを失った少女は幾度の夢に埋もれ、それでも尚、新たな生の世界を望んだ

狩人にならば伝わろう
血に溺れた街の上に眠る、漁村の生まれなき子
その哀れなる末路を

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