~アルマ村・大地の神殿~
長老達が拘束されてから、はや数ヶ月。
最初のエルフ行方不明事件の犯人は見つかるどころか、手がかりの一つさえも見つけることができないまま、一週間に数人のペースでエルフが殺され続けていた。
だんだんと村人が減っていく村で人々は互いに村民への警戒心を強め合い、過激な犯人捜しに繋がりかねない噂も流れ始めている。
もはや意味の無い祈りであろうとも、その祈りに己が意味を持たせんと、アキは黄金に輝くサーコートを纏い、これまた黄金の護衛達を連れて神殿へ向かう。
そして祈りと舞を捧げ、訳あって神殿に残ると言う三人の護衛を残し一人、神殿から出るアキ。
何の偶然か、そこでアキと入れ替わるようにノエルが神殿へ入っていった。
「ノエルちゃん?アローナ……」
「……」
手を振って挨拶をするアキだったが、ノエルはまるでアキの存在に気づいてさえいないかのような素振りでアキの真横を通り過ぎ、そのまま神殿に足を踏み入れる。
「ノエルちゃん、大丈夫かしら……」
やはり、連日の行方不明事件によって強化せざるを得なくなった警備を一人で担当しなければならないことが負担なのか、ノエルの表情は目を開けながら眠っているかのように、どこか虚ろであった。
アキは、そんなノエルの表情を気にかけてか神殿前の切株に座り込む。
そして、ノエルが神殿から出てくるまで待機することにした。
「……」
十数分後、よろめきながら神殿から姿を現すノエル。
しかし、その表情は今までに見た事が無い程に曇っていた。
「ノエルちゃん、大丈……わっ、何、その血!?」
全身には何者かの血、そして、それは神殿に入る際には付着していなかったもの。
神殿内で何者かに襲われたのだろうか。
大地の神殿は長老達にとっても物心ついた時には在ったものであったため、まだまだ未解明な要素が多い。
故に、何かが原因で普段現れない罠や防衛システムが飛び出してきてもおかしい話ではないのだ。
「はぁ、はぁ」
「ノエルちゃん、誰にやられたの!?今、治……す……?」
しかし、ノエルの手にチラりと見えた黄金のバッジが、それを否定する。
「……ど、ddddど、dd、どd、ど、ど、う、し、た、の、フ、フレア、ふれあふれあふれあふれあ、【雑音】」
「ノエルちゃん。あの護衛ちゃん達はどうしたの?」
「護衛……?ご、ggggg、護衛、古代兵器……古代兵器。は、敵だから、こ、こ、こわした、kkkkk、壊した、壊した」
「古代兵器……でも、この血は……ノエルちゃん、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫大丈夫ダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブ、この、血、は、ダンチョウ
、のじゃ、な、い、から」
ノエルの口から流れ出る、とても正気とは思えないセリフ。
ブツブツと、しかし時に叫ぶような声量で、何度も何度も同じ言葉を口から漏らし続けるノエル。
そしてノエルは、護衛が残っている神殿から自身のものではない血が付着した状態で出てきた。
神殿の中で起こったこと、ノエルの身に何が起こったか、その結果は火を見るよりも明らかであった。
文字通り、どこかで燃える炎よりも目の前に立ち尽くす真紅に染まった女騎士の方が、明らかに違和感を抱く対象としては相応しいだろう。
「そうかぁ。……はぁ。その血がノエルちゃんの血じゃないってことは……。フレアちゃんには悪いけど……ここでノエルちゃん、貴方を葬るしか無いみたいね」
正常性と人間性その二つを失い、漏れ出すは雑音のみ。
ノエルの内にはケガレが巣食い、もはや不死であったその身に、「白銀ノエル」は存在しなかった。
「もっと、壊さなきゃ……古代兵器を……!古代兵器、こだいへいきこだいへいき、もっと、こわさなきゃ!!!こわしてこわして私の、せめてもの……!」
「貴女が壊しているのは古代兵器じゃなくてエルフだよ、ノエルちゃん」
「古代兵器の言う事に耳は貸さないって決めてるから、ごめんね!!【フォールオブゼロ】!」
「エルフだって言ってるのに!【シャルイース】!」
ケガレに狂い、全てが古代兵器に見えているのか。
アキの静止を古代兵器の戯言と思い込み、聞く耳を持たないノエル。
そんなノエルを黙らせんと、アキは舞によって回避行動をとりながらの詠唱を始める。
ノエルのメイスが激しく襲い掛かるがアキはそれをものともせず、あくまでも舞いによって攻撃を引きつけて紙一重で躱していた。
「団長のメイスが……なんで、どうして当たらないの!?」
「ふふっ。少し前までの私と同じだと思っていたら……ノエルちゃん、やられちゃうよ?」
今のアキは、かつて在った大地の巫女たるアキ・ローゼンタールではない。
新たなる巫女にして、黄金に輝く樹々に映える神殿より新たなる信仰を、新たなる黄金を見出したもの。
「黄金の巫女、アキ・ローゼンタール」に、もはや弱点など存在していなかった。
彗星ナナセ
かつて、星の少女が見た彗星
それを魔力によって再び顕すもの
星の少女は、かつて星となった
故にだろうか、星のイメージは忠実である