ホログラム・パラドクス   作:最上虎々

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黄金の巫女、アキ・ローゼンタール 後編

~アルマ村・大地の神殿~

 

「【シャルイース】!」

 

「【踊り子の花】!」

 

アキが次から次へと植物を生やして作った障壁を、ノエルはメイスを軸にしたポールダンスのような回転蹴りで破壊していく。

 

「ノエルちゃん、しっかりして!私は古代兵器じゃないよ!」

 

「嘘つかないで!あなた達のせいで、騎士団は……!」

 

「だから、本当に何もしてないし『ラディス』でも無いってば!それに騎士団って……ノエルちゃんが所属してる騎士団?」

 

「その機械油に塗れた口で質問をするなッ!!」

 

ノエルのメイスは地を割り、そのまま飛び上がって腰の鞘から取り出した剣を左手に握り、着地と当時に回転切りへ繋げる。

 

「私がノエルちゃんを黙らせたとして……目を覚ました時、ノエルちゃんは元に戻ってくれるのかな……」

 

「元も何も、今だって団長は団長のままだよ!」

 

「そんな筈無い!さっきから古代兵器がどうとか、ラディスがどうとか、そんなことばっかりだよ!」

 

「団長は『白銀聖騎士団団長』なんだよ!?当たり前じゃん……皆のことを、フレアを、アキさんを、守らなきゃ……ggggg、ぐ、グルルルル……ppーーーー」

 

「そのアキロゼは私なのに……」

 

「pーー、ss、sー、s、uー、そん……そんな嘘までつかないでよッ!!その名前をどこで知ったの!?まさか、アキさんも……!このこの、……オンボロ機械めっ!【フォールオブゼロ】!」

 

アキは舞いを続け、生やした草木を盾にしながら森を逃げ回る。

 

「何とか、森の外まで誘導できれば……いや、でも……」

 

しかしブッシュ森林はかなり面積が広く、また、自身の「シャルイース」及び「シャ・ル・イース」は神殿から離れるごとに威力が減退する。

 

森から出るには距離が遠すぎる上、森から出ることはアキの「大地の巫女」という概念にとってアウェイな場所への移動を意味するため、大地の神殿に関係する力の一切を封じられてしまう。

とはいえ神殿付近で戦ったとしても、あまりにも強力なノエルに対してまともに戦っては敵わないだろう。

明確な弱点が存在しない程に大成したアキでさえも、である。

 

「【奇跡の大樹】!」

 

アキは祈りによって自身を触媒とし、黄金に輝く霊体の大樹を生成する。

 

黄金の大樹は信仰、祈り、すなわち精神を持つ者が抱く情報と概念を具現化したもの。

 

それは大地の神殿にも匹敵する神性。

 

それどころか、アキが直接的に生み出したものであるためだろうか。

その大樹がアキに限定して与える力は、とうに神殿のソレを超えていた。

 

大樹の元に立つアキは、両手を地につけて詠唱を始める。

 

「世界を照らす光よ、創生の大樹よ……」

 

「隙アリッッ!!」

 

大樹の元で詠唱を終えるため動きが止まっているアキが隙だらけであるということを見逃さないノエルは、すかさずアキに飛びかかり、首を吹き飛ばさんばかりの力を込めたメイスで渾身の一撃を頭部に叩き込む。

 

「空、森、町……私の知らないものが流れ込んでくる……」

 

しかし、まるで何も無かったかのように詠唱を続けるアキ。

 

「そんな……団長のメイスをまともに受けたのに!?」

 

「これは私の力、私の記憶、本当の私……!分かたれた二つの世界……!黄金の……!その名前は……!」

 

「やああああああああああああああ!!!はっ、やっ、せいっ、やぁっ!」

 

魔力とも何ともつかぬ力を増幅させていくアキ。

 

踊るような身のこなしで連続攻撃を叩き込むノエルだったが、アキへ命中した全ての攻撃は、その一切の威力が吸収されてしまう。

 

「私の世界よ、私に創生の力を……!」

 

「やめろおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!」

 

「【創生樹(ユグドラシル)】」

 

「な、なにこれ……ッッ!?」

 

アキの視界が黄金に染まる。

 

黄金の根、黄金の幹、黄金の葉、瞳に移る黄金の大樹。

 

それは内にも宿り、アキは己が見出した黄金の大樹と一体になる。

 

「ノエルちゃん……もう終わりにしよう。楽になっていいんだよ……」

 

「うるさい、うるさいよ!古代兵器は、私が……!!全部壊さなきゃ……そんな、誘惑に乗って……たまるかぁぁぁっ!」

 

白銀ノエルが固執する、ラディスを主とする古代兵器の殲滅。

 

しかし、もはやそれを知る者がノエルしか存在していない以上、何者がそれを数えるのだろうか。

 

現実には、ゲームのように標的を数えるシステムは存在しない。

 

そしてノエルには、それを知覚できる程の理性も悟性も、もはや残っていなかった。




とある英雄の末路


かつて英雄は狼と共にあった
しかし英雄は宵闇にて深淵に呑まれ、二度と戻ってくることは無かったという

そして今でも、狼は剣と共に英雄の帰還を待っている
狼にとって、彼はいつだって英雄だったのだ

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