ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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深淵歩きの少女

~ブッシュ森林~

 

「【死屍斬り】」

 

「【シャ・ル・イース】」

 

ノエルは前方に宙返りをして距離を詰め、左手に持った剣に冷気を込めてを振り下ろす。

 

しかしアキは華麗に身を翻して回避し、黄金に輝く蔓を伸ばしてノエルの身体を拘束する。

 

「ぐっ!!」

 

必死にもがくが、人智を超えた力で拘束するノエルは不死たるノエルでさえも到底敵わない。

 

「【シャ・ル・イース】」

 

そしてノエルの身体は光に焼かれ、その武装は若干が剥がれ落ちる。

 

メイスも錆びつき、もはや使い物にはならなくなった。

 

綻んだノエルの身体。

 

しかし、その四肢と瞳は確かに殺気を帯びたままであった。

 

「uuuuuu、ウウ、ウウウ……ゥゥゥゥウウウウウウウヴヴヴァァァ!!」

 

ノエルのメイスが、アキの頭頂へ降り落とされる。

 

「これでトドメ……。さようなら、ノエルちゃん」

 

「ラディスゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!!【死屍斬り】ィィィィィィッッ!!!」

 

「【シャ・ル・イース】」

 

アキは、神性の塊である黄金の弾丸を飛ばす。

 

メイスが崩壊したノエルは、残っていた剣で間一髪、それを破壊して距離を詰めようと右足を前へ出す。

 

しかし、神性の弾丸を破壊した際の反動に負けたノエルには、そのまま背後に宙返りして体制を立て直すのが精一杯だった。

 

「【死屍……」

 

「それっ!」

 

そして尚、アキの攻撃は止まらない。

 

続けて放たれた神性の弾丸は、ノエルの右手を瞬く間に潰した。

 

「ぅああああああああああッッッッッッ!」

 

「【シャ・ル・イース】」

 

アキの右手がノエルを指す。

 

すると、黄金の大樹から光の矢が降り注いだ。

 

降り注ぐ矢の雨。

 

しかし、ノエルは死の淵にいながらも剣を構え、視界に入る矢を全て弾き返した。

 

「はぁ、はぁ……」

 

右手は潰れ、愛用のメイスも破壊されてしまった。

 

鎧は所々が破壊され、残っている箇所も綻んでいる。

 

錆びついた剣を左手に持ち、覚束ない足で尚もその地に立つノエル。

 

意識は深みに呑まれ、かつての面影は無い。

 

「……また、目つきが変わったね?ノエルちゃん」

 

それは完全に別人のようで、白銀ノエルとして抱いていた「古代兵器の破壊」という目的さえも忘れたかのような、殺気さえも感じられない虚無の果てさえも超越したかのような表情。

 

耐え難い痛みと僅かな生命力の果てに、それはドロドロとした黒を内から吐き出し、そのものを猟犬と化した。

 

「……(【死屍斬り】)」

 

「ッッ!?」

 

冷気では無い、しかし禍々しい何かを剣に纏わせ、また前方へ宙返りしての斬撃を繰り出すノエル。

 

それはあまりにも禍々しく、あまりにも世界の理から離れている力。

 

そして黄金の力ではそれに対処できないと判断したアキは、咄嗟に回避行動をとった。

 

「ハァーーー……」

 

ノエルは叫び声も挙げず、ただ溜めていたかのような吐息をゆっくりと吐く。

 

「今の、今の力は……ノエルちゃん、まさか……まさか!」

 

「カフッ」

 

口に剣を咥え、ノエルは手足を使って木々の間を飛び回る。

 

「速いっ!!ど、どこから来……!」

 

アキは、辺りを飛び回る剣先を補足できない。

 

そして後方左斜め45度の角度から、その騎士、或いは猟犬が姿を現す。

 

「(【狼の剣】)」

 

刹那、アキの右肩から左の腰までが裂けるように紅く染まった。

 

「ぅ……ぇ……?」

 

さらに紅は一瞬にして黒に変色し、みるみるうちに全身を蝕み始める。

 

斬撃から浸食、その間僅か一秒。

 

「ハァァァ、ハァ、ハァ……」

 

黄金の大樹は一瞬にして枯れ果て、宿っていた神性も、徐々にアキは喪失しつつある。

 

瞳は霞み、その四肢は機能を失う。

 

「そん、な」

 

そして数秒の間にアキの身体はピクリとも動かなくなり、そのまま枯れ果てた細枝となってしまった。

アキの黄金は、謂わばこの世界の概念や意識の塊。

 

一方の深淵はそれらと相反する無、固定された形を持たぬ混沌。

 

故に、極めて現実を削ぎ取る力が大きかったのだろうか。

 

白銀ノエルたるを失った猟犬は、一撃にして黄金の巫女たるアキを葬り去った。




とある神父の物語


獣の溢れる血の街にて、禍々しきそれらを狩り尽くすべく動いた神父
しかし返り血に塗れた彼もまた、いつか血に呑まれ獣と化したという

ブローチから視線を外し、オルゴールの音に耳を塞ぐ
それは彼の人間性、酷にも残った幸せの記憶なのだから
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