ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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地獄の業火

~ブッシュ森林・アルマ村~

 

アキの影響が薄まり、村は段々とその形を崩し始めている。

 

そんなアルマ村にて弓と矢を持ち、しかし呆然と立ち尽くすエルフが一人。

 

「何が……起きたの……」

 

不知火フレア。

警備隊長にして次期村長になる予定であった、エルフの少女である。

 

しかし、黄金に輝いていた草木や花は枯れて、建造物は崩壊し始めた村には住民も人っ子一人残っていない。

 

長老が捕まっていた筈の座敷牢も、もはや長老ごと崩壊してしまっていた。

 

アルマ村は、もう終わりだ。

 

「ノエちゃんとアキ先輩は……!?」

 

二人の行方が気がかりになる。

一刻も早く合流しなければと、立ち枯れた木々の幹や枝を飛び移りながら森中を駆け回るフレア。

 

しかしどれだけ探し回っても、その姿は見当たらない。

 

フレアは最後に、崩壊しつつも唯一辛うじて形を保っている建造物である大地の神殿の内部を探索することにした。

 

「うわぁ……村に、こんな場所があったなんて」

 

いつもは巫女であるアキが祈りの場として使っているため、入ることの許されなかった神殿内。

 

しかし、少し進むと景色は一気に様変わりする。

 

周囲の至る所には血液と肉片が飛び散り、本当にアキが祈りを捧げていた場所なのかどうかも確信できなくなってしまう程だ。

 

そして、最奥。

 

血と肉片、そして破れたエルフ達の服が散らばる祭壇に、佇む人影が一つ。

 

「……嘘」

 

左手に剣を持ち、ただそれを死体に叩きつけるかのように血肉を抉り続ける女騎士の姿。

 

右手は潰れ、もはや自我の有無さえも不明。

 

「いつになったら、全部壊し終わるんだろう……どこに行っても、鉄クズばっかりだよ」

 

「ノエちゃん……嘘だよね?どうして、どうして、そんな事を……アキ先輩は!?」

 

その言葉がフレアの口から飛び出てすぐ、ノエルの服にこびりついていた布片がフワリと落ちる。

それは確かに、アキがつい数刻前まで着ていたであろう巫女の装束と断定できるものであった。

 

「きみも、どうせそうなるんでしょ?」

 

ノエルは残っている左手で剣を構える。

 

「白銀ノエル」を失った彼女は、もはや愛しかった「不知火フレア」を認識することさえもできない。

心優しき女騎士は、ただただ目に映る動くものを壊す何かへと変わってしまったのだ。

 

「やっぱり、人間なんて信じなきゃ良かった。寝込みでも襲って、早いうちに殺しておけば良かった」

 

「ヴァァァァァ」

 

「……ノエちゃんのことなんて、好きにならなきゃよかった」

 

「壊さなきゃ、コわ、サ、な……」

 

「でも……ノエちゃんを好きになってしまう気持ちを、抑えきれなかった……警備隊長なのに、村の皆を守らないといけないのに……」

 

「ウウウウウォォォォォォォァァァァァァァァァ!!!」

 

普段のノエルからは決して出ることがないであろう、錆びついたような唸り声。

 

「……ねえ、ノエちゃん。今日はいい日だったよね」

 

一方のフレアは、そんなノエルとはうってかわって穏やかな口調で語りかけるかのように話を始めた。

 

「ヴヴヴヴ……」

 

「花は咲き乱れ、小鳥達はさえずってた」

 

「ァァァァ……!」

 

「……折角の清々しい日だったんだよ。だから、ノエちゃんみたいな化け物には」

 

「【死屍……!」

 

「地獄の業火に焼かれてもらうよ」

 

「斬り】!」

 

ノエルは剣にドス黒いオーラを纏わせて宙返り、一気に距離を詰める。

 

「【不死撃ち】」

 

しかしフレアはタイミングを合わせてバックステップで回避、そこに蒼い炎を纏うを撃ちこんだ。

 

「グゥゥゥ!」

 

ノエルの右肩に刺さったそれは、潰れていた右腕に完全なトドメを刺す。

 

人間のものとは思えない唸り声が、ノエルの喉から捻り出された。

 

「全てを終わりにしよう、ノエちゃん!」

 

「【死屍斬り】!」

 

「【連矢(れんや)・浮舟落とし】」

 

再び宙返りによって距離を詰めようとするノエル。

 

宙返りからの叩きつけるような斬撃、ワンパターンな攻めを完全に読み切ったフレアは、斬撃に移る直前の空中に留まる瞬間を狙って炎を弓に纏わせ、木の矢と炎で生成された矢を交互に放ち、疑似的に連続した射撃を行う。

 

それらの矢は見事にノエルの両腕を捉えた。

 

「ヴァァァァァァ!!アア、アアア……!」

 

ノエルの両腕に刺さった数本の矢から広がった炎は腕から肩、肩から脚へ移る。

 

「【葦蹴(あしげ)】……!やぁっ!」

 

そしてフレアはノエルの顎を下から上へ蹴り飛ばし、そのまま宙へ舞い上がってから降下と同時に炎を纏わせた刀で斬り伏せる。

 

「グググ、ヴヴ……!!ヴアアアアアアアオォォォーン!!」

 

アキから受けた分のダメージに加えて、フレアの畳み掛けるような連撃によって身体が限界を迎え始めたノエル。

 

「日を重ねるごとに、エルフが殺されていった」

 

天を穿つような、フレアの矢。

 

「グハァ!」

 

その肉は腹部に刺さり、その内臓を焦がした。

 

「村長も長老達も、いつの間にか消えていった」

 

その炎を纏ったは瞬く間に森の至る所へ落ち、ノエルとフレアだけが残った森は一瞬にして炎が支配する戦場へと生まれ変わる。

 

「フレア……」

 

「皆が次々と血塗れになって、死んでいって……アキ先輩も……そして、いつの間にかアルマ村に残ったのは私とノエちゃんだけになっちゃったね」

 

ノエルは剣を振り回すが、フレアは本来は使ったことも見たこともない筈の重力を操る魔術によってあらゆる角度からの回避を成功させる。

 

「ねえ。それって全部、ノエちゃんがやったんでしょ?」

 

そしてフレアは刀を納め、握った拳に炎を纏わせた。

 

「ァァ……!!(【狼の剣】)」

 

「……あの指輪は、約束の指輪。私達が今一緒にいて、これからもずっと一緒にいる。その約束の証になるものだと……そう思って、渡したんだけど」

 

「ブベッッ!」

 

ノエルの剣で脚で蹴り落とし、そのまま炎を纏わせた右腕を突き出すフレア。

 

「はぁ。……だから、約束はしたくない……って。あはは、このセリフ……あの人みたいだな、今までのセリフも、まるで。……もしかしたら、あのお話は意外と本当っぽいのかもね」

 

そして少し物憂げに、炎に包まれる自分の家に目をやる。

 

「……ここでノエちゃんを殺したところで、殺されたアキ先輩達も、村の皆も戻ってこない。蘇生も……多分無理だと思う。アキ先輩ならできたのかもしれないけど」

 

「ヴァァ、ヴヴ」

 

「『火は生命の源』なんて言われることもあるけど……私にできるのは、この炎でモノを焼くことだけ」

 

「フレ、ア……そ、ノ、ほのお、ハ」

 

「まあ……それも私がアキ先輩に頼っていただけで、本当はできたのかもしれないし……うーん、自分でもよくわかんないや」

 

「【死屍斬り】」

 

「でも、今から私が出来る事は一つだけ。……今ここで、ノエちゃんを止めること。アキ先輩も村の皆も手にかけた化け物が目の前にいるのに、何もしないで見ているわけにはいかないでしょ」

 

フレアは完璧な角度で刀を構え、死屍斬りをいなす。

 

「アア、アアア……」

 

「……ノエちゃん。私の声が聞こえているなら、動きを止めて聞いて欲しいんだけど……もしかしたら私達も、どこかの世界では親友だったのかもしれないね。……ノエちゃん、心当たりは無い?」

 

刀だけではなく弓も背中に掛け、手には一切の武器を持たずに、ノエルへ近寄るフレア。

 

「ヴ……フレ、ア……ヴ、ヴヴヴヴヴァァァァァァ!!(【死屍斬り】)」

 

しかし、その言葉は届いていないのだろうか。

 

やはりノエルは一瞬動揺したような素振りを見せつつも、死屍斬りの構えに入ってフレアの懐へ飛び込んでしまった。

 

「……ごめんね、ノエちゃん。聞こえてたらいいなと思って言っただけだから、気にしなくていいよ。さあ、続けようか」

 

フレアの刀とノエルの剣、何度目かの交わり。

 

まさに人外の如き身体能力で押していくノエルだったが、フレアは憧れた物語の英雄の影を背負い、左手で重力、左手で炎を操りながらノエルの凄まじい連撃を受け流していった。

 

もはや単なる戦いなどという言葉では片付けられない程に、一方的な念と混沌が入れ違うようにぶつかり合う殺し合い。

 

不知火フレアは、ただ一人の相手を消し去るためだけに顕現した修羅と化していた。




審判者


かつて、何処かの世界における地底にて人間を審判にかけた骨の怪物
多世界解釈を見出した審判者は、回廊にて悪魔と対峙したという

その物語は、何処かの世界でも人々に語り継がれている

不敵な笑みが印象的な彼は、不知火フレアが憧れる人物の一人であった
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