ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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焼け落ちた指

~焼け野原~

 

「フ、レ、ア……!(【死屍斬り】)」

 

「【不知火流(しらぬいりゅう)焔一文字(ほむらいちもんじ)】」

 

火花が飛び散る程に激化する剣戟。

 

深みに蝕まれる女騎士と、修羅と化したハーフエルフ。

 

「ァァァァ!!コわ、さ、な、いと……団ちょ、う、が、全部……!」

 

「……ノエちゃんと友達になった時、私は初めて人間を信じられたんだ」

 

「信じ、信じる、し、しん、【雑音】」

 

動きを止め、頭を抱え始めるノエル。

 

「この村が外部の人間を中々入れないのは、この村に人間の血に対する差別っていうか、恐れがあったからなんだけど……」

 

「グ、グゥゥ、ァァァァ……ヤ、メ……」

 

「今まではそれを当たり前だと思っていたし、私やアキ先輩がハーフエルフだから、自由が少ない巫女とか死ぬリスクが高い警備隊長とかの立場を押しつけられるのも、当然の宿命だと思ってた」

 

「もう、モう嫌、ダ、よ……」

 

「村の掟を信じて疑わなかった私が、ノエちゃんと話して……初めてエルフも人間も変わらないって、この村の常識は間違っているって……人間も当たり前に信じられる存在だって思えた。……笑っちゃうよね」

 

「何も……なにも、な、い、し、た、な……」

 

「その時にはもう、そこに『人間』のノエちゃんなんていなかったんだからさ」

 

フレアは「ハッ」と、己を嘲笑する。

 

「フレ、ア……」

 

その声に反応したノエルは、己の暴走がフレアを失望させたことにようやく気付き、一瞬限りの正気を取り戻す。

 

「ねぇ、ノエちゃん。話ができる内に聞いておくよ。……ノエちゃんは、これからどうしたいの?古代兵器を壊し尽くして、それから……何か、やりたいことはあるの?」

 

「フレア……。アア」

 

疲弊したノエルの心身は、とっくに限界を迎えていた。

 

文明が崩壊し、その身体が朽ち果てても尚、古代兵器を壊し尽くすという白銀聖騎士団長としての使命に取り憑かれた、たった一人の少女。

 

どれだけ強くとも、どれだけ正義に仕えていようとも、それは結局「ただの少女」であったのだ。

 

「最後に……何か、言いたいことはある?」

 

「フレア……たす、けて……」

 

ノエルが再び正気を失いかけるとともに、フレアへ伝えた最後の願い。

 

「わかったよ、ノエちゃん」

 

フレアは、ノエルに残った僅かな理性が捻り出した言葉を噛みしめ、完全に正気が消え去ったノエルを瞬く間に斬り捨てる。

 

「ァ……」

 

「……どこまでも付き合うよ!そして、必ず殺す!」

 

右肩から左脚までに深い傷を負ったにもかからわず暴れ続けるノエルを、さらに抱きしめるフレア。

 

「グ、ゥゥゥ……!」

 

「【世界燃焼】」

 

そしてフレアはノエルを抱きしめたまま、全身を激しく燃焼させてノエルごと辺りの全てを燃やし尽くす。

 

「アアアアアアアアアァァァァァァァ!!!」

 

ノエルは悶え苦しみ、フレアを突き放さんと自身を抱きしめる腕の中でもがく。

 

「……ずっと一緒だよ、ノエちゃん」

 

しかし、その腕は決してノエルの拘束を解くことは無い。

 

フレアに強く抱きしめられたノエルにも炎は移り、二人の身体は少しずつ、燃え盛る炎に呑み込まれていった。

 

「フレ、ア……ああ、フレア……ぁぁ……」

 

運命と世界に導かれた二人の少女、その最期は、彼女達が何者の祝福をも否定した結果であった。

 

文明を跨ぎ、深みに囚われた不死の騎士団長。

 

黄金と共に村を見出し、その村に身を焦がした少女、不知火フレア。

 

これが、狂気を孕む程に真っ直ぐ生きた二人の末路であった。

 

 

数日後。

 

かつて黄金色に輝いていた森は、今やその灰のみが残った焼け野原と化していた。

 

エルフが暮らしていたとされる村の面影は無く、神殿とされていたであろう石造りの巨大な建物も、今や「煤まみれの石」以上の役割を果たしてはいない。

 

……この森には、奇妙な伝承がある。

 

野原の中心部に転がっている、人骨の破片。

 

それに紛れ、寄り添うように置かれている二つの指輪。

 

それだけは焼き尽くされた森の中でも朽ちること無く、傷一つ無いまま残っているそうな。

そして指輪はどちらとも、何者かの魔術によって燃え続けているのだそうだ。

 

新たな主人を求めてか、或いは燃え続ける世界を現実に起こすためか。

 

いずれにせよ二人は、二つの指輪だけは、たった一つやそこらの世界が滅びようとも消えることなど無いだろう。

 

きっと、何処かの世界では親友なのだから。




死屍斬り


白銀ノエルが忌まわしき鉄クズを狩るために見出した剣術
前方宙返りによって一気に距離を詰め、深みの冷気を纏った大剣を叩きつける

それは光の亡国にて、深みに蝕まれた英雄が得意としていた剣術
或いは黄金の麓にて、かつて死した戦士の灰として刻み込まれたもの
この剣術は、それらによく似ている

詭弁な英雄譚は、語るものがいてこそのそれなのだ
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