ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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月と蜃気楼

~???~

 

機械化した左腕に仕込まれた爆竹をばら撒きながら、両手に握られた刀を十字に振るフブキ。

 

爆竹から目を守った拍子に懐へと潜り込まれたミオは、咄嗟に脇差を突き出して刀を弾き、その勢いを利用して後方へと滑り出す。

 

「ミオ!あなたとなら、仲良くやれると思っていたのにっ!」

 

「冗談じゃないよっ!偽物だったとしても、あのフブキは間違いなくフブキだった!ウチが大好きだったフブキを殺した『稲荷』と、仲良くなんて……できないよっ!」

 

「ミオ……愚かな……!なら!稲荷博士のパワー、見せてあげようっ!」

 

「【瓢箪……」

 

「【秘伝・夜叉戮】」

 

「流し】」

 

フブキはニ本の刀を鞘に納め、刀身に邪気を纏わせる。

 

しかし、ミオは一度脇差しを納め、あろうことか一本の刀でフブキの妖刀を受け流した。

 

「すごい……」

 

眼前で繰り広げられる激闘。

 

無双の剣技を誇るあやめが、突く隙を見出せていない。

 

ミオが拒んだとしても、きっとフブキに横槍を入れるべきなのだろう。

 

しかし二人が纏う闘気に、魂が弾かれてしまうのだ。

 

「さすがミオ!修羅の刀を受け流すなんて!」

 

「ハァ、ハァ……稲荷……!その刀……」

 

「そうだよ。私の好きな世界の刀……」

 

二人は刃を交えながら、舌戦を繰り広げる。

 

「そんなのを持ち出して、何をする気なの……?」

 

「ちょっと……この世界の不死を斬るだけだよ」

 

「不死……?」

 

「そう、不死。この世界に捻じ込まれた、一種の『エラー』。あやめちゃんの蘇生、亡者の徘徊、古代兵器の再起動、深淵に呑まれた女騎士。……私は、この世界を続けたい」

 

「……どういうコト?」

 

「この世界は……人々が描いて、でも叶わなかった『異世界』。その幸せが、たとえ夢でも……夢だと気付かなければ、それは幸せな現実になるでしょ?」

 

「ごめんね、本当に……稲荷が何を言ってるのか理解できない」

 

「誰が、現実で生きるだけが正義だって言ったのかな……ってことだよ、ミオ。私達の現実は、ロクなものじゃなかったでしょ?だから……この世界を、無理矢理にでも続けなきゃいけないんだよ」

 

「……やっぱり、稲荷とは一緒にやっていけない。フブキを殺してなくても、同じだったと思う。……今、すっごい嫌な想像しちゃった」

 

「そっか。……世界に振り回された私の……私達の、最後の望みだから……。ごめんね、ミオ」

 

「勘違いしないで、この世界のカミはウチだよ。全部……全部、思い出したんだから」

 

交渉決裂。

 

フブキは二本の刀を交差させて構え直し、手加減をするための構えから、本気で相手を殺すための構えに直す。

 

「じゃあね、ミオ」

 

一方のミオも、闘気をもう一度練って居合の構えをとった。

 

抜刀。

 

「来い、稲荷……!」

 

開門と拝涙は、それぞれ赤と黒の炎を纏ってミオを捉える。

 

しかしミオは、フブキの太刀筋を完全に見切っていた。

 

「【秘伝・夜叉戮】」

 

「【瓢箪流し】」

 

一本の刀で、十文字を描くような居合斬り。

 

それが刀身を受け止めることは無く、しかしフブキの片方が機械化した両手を斬り落とす。

 

「なっ……!」

 

そしてミオは脇差しを抜き、瞬時にフブキの懐へ潜り込んで心臓へ刃を突き立てた。

 

「稲荷……!さよなら……っ!!」

 

「【エンド・オブ・ザ・ワールド】ォォォォッッッッ!!」

 

静止。

 

フブキを除いた世界の全てから、ありとあらゆる情報が停滞する。

 

「……」

 

「ハァ、ハァ……あ、危なかった……!やっぱり、ミオは強いねぇ」

 

「……」

 

「だけど」

 

フブキは息を切らしながら数歩だけ身を引き、今度は斬り落とされた両手の代わりに炎を手首の先へと纏わせる。

 

ここで、フブキの術によって停止させられていた世界中の情報が再び流れ始める。

 

「えっ……?」

 

その刃は、確かにフブキの胸を捉えていた。

 

しかし、そこで時が止まったならば話は別。

 

情報の塊の内側における、情報の停滞は即ち時間の停止と同義。

 

ミオの刃は、虚しくも空を切る。

 

「【秘伝・夜叉戮】」

 

そして二本の刀は、そのまま前のめりに体勢が崩れたミオの腹部と胸部を深く、深く斬り裂いた。

 

「う……ぁ」

 

「ごめんね、ミオ」

 

「斬って……あげられない……か……」

 

納刀。

 

動脈を斬られたためだろうか。

 

斬られた箇所からは勢いよく血が噴き出し、その血は霧のように辺りへ飛び散った。

 

「ミオ……ちゃん……?」

 

あやめは瞬時に踏み込み、ミオの側へと駆け寄る。

 

「……ふぅ」

 

軽い溜め息をつくフブキをよそに、ミオの身体を起こそうとするあやめ。

 

しかし閉じた瞳が開くことも無ければ、あの優しい声をもう一度聞かせることも無い。

 

「ミオちゃん!ミオちゃん!……そんな、ミオちゃん!!!」

 

言葉が次第に崩れていき、表情は歪み、泣き叫ぶあやめをよそに、フブキは未だ不自然に残る血霧の中へ姿を消していく。

 

「じゃあね、あやめちゃん。エラーが起こるまで、せいぜいこの世界を楽しんで」

 

そう言い残すフブキを逃がすまいと、辺りに落ちていた小石をフブキ目掛けて全力で投げるあやめ。

 

しかし、フブキはそれを右手の代わりに纏った炎で吹き飛ばし、そのままミオの残った血と共に消滅してしまった。

 

「ああ、ああああああ……!ミオちゃん、ミオちゃん……!ミオ、ぢゃ、あ、ああ……」

 

どこでも無い空間、そこに座したカミが二人と、鬼が一人。

 

カミの一人は死亡、もう一人も姿を消した。

 

そして、鬼は。

 

「アア、アアア、アアアアアアアアアアアア!!グゥゥッッ!グガァッッ!」

 

二本、否、二振りの太刀を手に暴れ回る不死改めナキリへと、逆戻りしていたのであった。

 

一晩にして、どこでもない空間は廃墟と化した。

 

街に住んでいた住民、そこに生き残りは殆ど無し。

 

稲荷が現れた今、この空間に用も無し。

 

そしてこの空間に取り残された、不死としての姿に憑かれたナキリはただ、太刀を手に彷徨うのであった。

 

僅かな間でも自我を取り戻し、生きた空間を。




秘伝・夜叉戮


拝涙と開門、二振りの刀を鞘に納め、瞬く間に抜く

修羅に堕ちた者の扱う、葦に潜んだ鬼の剣技
それを、稲荷博士が再現したもの

鬼は時に御霊を降ろし、強敵と刃を交えたという

だが、蜃気楼の刀に重みは無い
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