~福音の廃城~
「……ぁぁ」
廃城にて。
ウルハは一人、虚ろな瞳で足元に視線を向けていた。
「ねぇ。貴方はそれでいいの?」
一人。
いる筈の無い人間が、目の前にいる。
森のような緑の頭髪に、青と黒のドレスに身を包んだ少女。
自分と同じ容姿の少女。
亡者の王となるにあたってドレスを一新し、髪色も薄紫色になる、その前の自分にそっくりな人間。
「え?」
「るしあは、望んでいなかった筈だよ。亡者の王になって、皆を殺して……この世界は、どんどん崩れていく。それでもいいの?」
「それで、いい……?いい、の、か、な、【雑音】、わか、ら、ない、どっち、が、いい、のか」
「る、し、あ。るしあって、言えなくなってるの……?」
「【雑音】、【雑音】」
るしあと名乗る少女は、ウルハの右手を両手で握る。
「……はぁ。まあ、いいや。どうせ、るしあだけじゃ何もできないし」
「あ」
そして、そこに一秒。
口づけをして。また部屋の隅に腰を落とす。
「変な感じだね、自分の手にキスするなんて」
「わたし、は、オトモダチ、ヲ」
「……意識も自我も無い友達を友達だなんて……いうのかな」
座り込んだまま、動かないるしあ。
「……【雑音】、【雑音】」
一方、何かへ向かってか細いながらも必死に声をかけようとするウルハ。
そこにいるのは、ただ一人の亡者。
かつて死霊術師だった彼女は、ここにはもういない。
「ふふっ。どうしたの、ウルハ」
「あ、あ……」
「……もう、後戻りはできないよ。何とかできるように、るしあも頑張るからさ。ウルハは、来るべき時を待ちなよ。今のウルハにできるのは、それだけだよ」
「あ、ああ……」
戦いを、死に様を、或いは生き様を、この世界に見せつけるのだ。
瞳に映ったものは、それが何であっても、真偽がどうであっても、観測者にとっては本当になる。
「この世界の正体が何だったとしても……絶対に消せない記録を世界に残す。ただ、それだけ」
これは、少し先の物語。
玉座の他には何も無く、ただそこに亡者と化したウルハが座すだけの間。
そこに、轟音が響き渡った。
全高4メートル、幅3メートル程の大扉を破壊し、室内へと侵入する6人の少女。
「……待って、た」
「やっと会えたね、亡者の王様」
「あ、あ、う、ううう……!!!【追う神喰らい】……ッッッッ!!」
訪れた「その時」。
因果の果てに、観測者は待っているのだろうか。
或いは、観測者ではない何かが望む結果を、握り潰されようとした現実の中で必死に演じていただけだったのだろうか。
それでも玉座から動こうとしないウルハと対を為すように、世界はまた少し、動き出そうとしていた。
追う神喰らい
火の消えた地
かつて神の宮であった地にて出来損ないの神を喰らった者、その残滓
それを死霊術によって一時的に呼び出したもの
彼は生前に人を喰らい、神をも喰らった恐れ知らずの聖職者であった
だが今や、薪と化して久しい
とはいえ腐っても神喰らい、それを呼び出すには相応の贄が要るものである
故にだろうか、彼の動きは犬のようなそれを感じさせる