~ムラサキ村~
ぺこらが作ったスープを飲み終え、それぞれ自分の生活へ戻る。
ぺこらとメルは家事を、シオンとちょこは新たな魔法薬の開発を。
そして、みこは相変わらず目覚めることなく眠っていた。
「ねぇ、ぺこらちゃん」
「どうしたぺこ?」
「スープ……美味しかった」
「そうぺこか!吸血鬼のお口に合うか分からなかったぺこだから、そう言ってもらえて嬉しいぺこだよ」
「うん……。あのさ、ぺこらちゃん。……メル、実は今まで、人間のこと……ご飯としか思ってなかったんだ」
「そ、そうぺこか……。まあ、吸血鬼だし仕方ないぺこだよ」
何気なく切り出された、メルのカミングアウト。
しかし、ぺこらがそれに対して何ら引いたり責めたりするような言葉を吐くことは無かった。
「……責めないんだね」
「吸血鬼に『人間の血だけは吸うな』って言うのは酷ぺこでしょ」
「そうだけど」
「それに、過ぎた事をどうこう言っても仕方ないぺこだよ。今のメルちゃんはぺこーら達の仲間。それでいいぺこでしょ?ぺこーら、そういうの割と雑ぺこなんだよ」
「……ありがとう」
メルは今まで、たくさんの人間から血を吸って生きてきた。
ウルハの「オトモダチ」として、一時期は血を吸った人間を下等の吸血鬼に変えていたこともあった。
しかし「赤」に死の淵まで追い詰められ、そして初めて命の重みを知った。
夜空メルは、吸血鬼として生きる己に「人間性」を見出してしまったのだ。
食器を片付け終え、寝たきりのみこの元へ向かうぺこら。
その後ろ姿を見送った後、メルは一人、境内からムラサキ村近郊の平原を回り、食材になりそうな果物や野菜を集め、野を駆ける獣を狩り、再び境内へ戻る。
そして、
「ちょこ先生!メルに料理を……教えてくださいっ!」
血を固めて作った籠に大量の食材を乗せ、ちょことシオンが研究室として使っているボロ屋の扉をノックした。
「あら、メル様。料理を……って」
「わぁー!どうしたの、その食材ー!」
シオンはメルが持っている山盛りの食材を見るなり、目を光らせてはしゃぎ始める。
「ふふっ。今日のお昼はご馳走になりそうね、シオン様」
ちょこは、持っていたフラスコの中に入っていた液体を小瓶に移してコルク栓を閉めた。
そして、ちょこはメルを連れてキッチンへ向かう。
……特に用は無いが、シオンも一緒についてきた。
「じゃあ、よろしくっ!ちょこ先生!」
「よーし!張り切っていくわよー!」
「この食材で何を作る気なんだろう……?」
張り切るメルとちょこ、そしてそれを少し不安そうに見守るシオン。
2時間後。
ちょことメルが張り切って作った数々の料理がテーブルに並ぶ。
「わぁ、どうしたぺこ、これ」
「メルとちょこ先生で作ったの!シオンちゃんも手伝ってくれたんだよ」
ぺこらは適当にみこの分を取り分けて部屋へ持って行った後、メル達と共に席につく。
そして、全員が円形のテーブルに並んだ食材を前に向き合い。
「「「「いっただっきまーぁぁぁぁ?」」」」
「いただきます」の挨拶をしようとした、その時だった。
「のぉぉぉぉぉぉぉーー!?」
上空から、人らしき何かの影がテーブルに迫る。
「【
「風よ。舞い上がれ!……【ストームルーラー】!ぺこぉぉぉぉぉっ!」
メルは粘性が高い血を固めて網を生成し、そして数ヶ所をあえて固めないことで伸縮性のある網に仕上げ、影を受け止める準備を一瞬で整えた。
そしてぺこらは、人参を模した剣に刻み込んだ灰の記憶を呼び起こす。
それは巨人をも叩き斬る風の刃。
しかし、今はそれを突くことで、上空から今にもテーブルへと落下しようとしている影を押し返さんと構えをとる。
「うわぁっ!?」
ぺこらの風によって落下の勢いが収まり、一瞬、空中へ留まる影だったもの。
よくよく見てみると、それは悪魔らしき紫色の頭髪が特徴的な少女のようだ。
そして再びゆっくりと落下を始める悪魔の少女を、メルの網が受け止める。
「「「「セーーーフ!!」」」」
悪魔の少女以外の四人は額を撫で下ろし、メルはゆっくりと、テーブルと重ならない位置に悪魔の少女を下ろした。
「し、死んだかと思った……!」
目を丸くし、息を切らす悪魔の少女。
「な、何がどうしてこうなったぺこ……?」
「情報量が多すぎて、魔界の天才ヴァンパイアことメルにもさっぱりです」
確かに上空から降ってきた悪魔の少女は無事に受け止めたが、今、この場において状況を理解できている者は誰一人としていなかった。
一瞬であったが、この時程にまで境内の空気が混沌と化した事は後にも先にも無かったことだろう。
ストームルーラー
火の消えた地
罪に塗れた人々が暮らした街を支配した巨人が、自らを信じぬ者と友なる騎士に一振りずつ託した剣
これはかつて、ぺこらにスープのレシピを教えた騎士が持っていた剣から僅かに零れ落ちた欠片を、ぺこらが自身の愛用する剣に刻み込んだことで呼び起こされた記憶
その記憶は、きっと持ち主の力となる
風を支配するその記憶は、大いなるものの前でこそ真価を発揮する
だが、そうでなくともその記憶は、小さな風を纏うだろう