~死者の谷~
大空スバル、角巻わため。
おまる座は二人の仲間を失ってから3日が経過していた。
「……ラミちゃん、ししろん、おまるん。……そろそろ、これからの動きを決めない?」
ラミィ、ぼたん、ポルカの三人を同じテントに集め、再出発に向けての話を始めようとするねね。
「……ごめん、ねねち。もう少し……時間を貰ってもいいかな」
しかし、死んでいるかのように虚ろな目ですぐさま立ち上がり、ポルカはテントを去ろうとする。
無理もない。
幼き頃から一緒に過ごしてきた、姉貴分のような二人を失ったのだ。
その精神的苦痛は、如何ほどのものなのか。
それはきっと、想像もつかない程だろう。
「待って、おまるん!」
しかし、ねねはそんなポルカの尻尾を掴んで引き留めた。
「ぴゃいっ!?ちょ、ちょっと、ねねち!?」
尻尾を引かれ、思わず飛び上がるポルカ。
獣人の尻尾を引っ張るのは、諸々の理由でタブーなのである。
「ご、ごめんっ!でも、いつまでも落ち込んでいても、この世界はどうにもならいよ……?」
「……分かってるよ、そんなの。でも……」
「とりあえず、残った四人で亡者の王を止める。それが、今のねね達にできることだと思うんだ」
「それも分かってる」
「じゃあ、今はやられちゃった二人のためにも、亡者の王を倒す旅の計画を……」
「ポルカだってそうしたいよっ!!!早く城に突撃して、亡者の王を倒して!この世界で起こってる混乱を鎮めたいよっ!!でも!!今は!!どうしても、わため先輩とスバル先輩の顔が頭から離れないんだよ……。ちょっと前までは普通に笑ってた、あの二人の顔が……!よく分からない獣も出てくるし、わため先輩とスバル先輩を食べたその獣は、ねねちと顔見知りみたいな雰囲気も醸し出してるし!もう、分からないんだよ……ポルカはねねちを信じていいの……?この世界は……何なの……?教えてよ、ねねち!!ラミィ!ししろん!誰か、教えてよおおおおおおおおおお!!!!!!」
秘めていた感情が爆発する。
その目からは涙が滝のように流れ、鼻水を止める余裕も無く、顔をくしゃくしゃにして泣くポルカ。
「おまるん……」
「……」
顔を伏せるラミィとぼたん。
ねねはそんなポルカの側へ寄り、そっとその肩を抱く。
「ねねち……。ごめん、突然怒っちゃって」
「ううん。ねねの方こそ、ごめんね。……もうちょっと、ポルカの気持ちを考えるべきだった。……辛いよね、ポルカ。昔から一緒だった人が、一気に二人もいなくなっちゃったんだもんね」
「ねねち……ねねちいいいいいい!!もう、もう……これ以上、誰も失いたくないよ……!ラミィも、ねねちも、ししろんも、残った座員さん達も……!もう、誰も失いたくない……!失うのが怖いんだよぉ……!!」
「……おいで、ポルカ」
そして、そのまま正面に向き直ったポルカをさらに強く抱きしめ、涙で塗れた顔を自身の胸で包み込んだ。
「もがっ!?」
「よしよし。……大丈夫だよ、ポルカ。……こういうのは、ラミちゃんの方が上手かもしれないけど……」
「う、うう……」
ねねの胸元が、徐々に濡れていく。
その後、ポルカは小一時間に渡って、ねねの胸元で泣いていた。
そして結局、この日に作戦会議が行われることは無かった。
こんなことがあった後では作戦会議にも集中できまいと、翌朝に日を改めることになったのだ。
「ねえ、ししろん」
「何?ラミちゃん」
抱き合うねねとポルカをよそに、テント外を散歩するラミィとぼたん。
「……これから、どうなるのかな」
「……わかんない」
「ししろん」
突然、ぼたんに抱きつくラミィ。
「どしたの、ラミちゃん」
「ちょっと、こうしていたくて」
「そう」
仲間の消失に泣くポルカであったが、一方のラミィもラミィで、内に秘めたものに苦しめられていたのであった。
しかし、それはぼたんにさえ話すことがかなわない。
話そうにも、何故か口が動かないのだ。
「(呪い……!)」
「……ん?何か言おうとした?」
「ううん、何も」
唇を噛みしめ、痛みと虚しさを堪えるラミィ。
気付けば、その目からはポルカ程ではないが涙が零れていた。
「ラミちゃん。今日だけは、お姫様じゃなくてもいいよ」
「……ありがとう、ししろん」
ぼたんに寄りかかり、嗚咽を漏らすラミィ。
かつての日々を共に過ごした四人。
彼女らは皆、勇ましき者であった。
しかし、この日は。
この時だけは。
悲しみを、内に溜まった全てを吐き出すようなことがあっても、罰は当たらないのではなかろうか。
コマンド90・ピクセルコフィン
世界の法則を歪め、空間を裂くだけの単純な術
「カバー」の深みに直接関わるだけに、あまりにもこの世界に根付いてしまった者には使用できない
粒子を固めて刀にも似た形の棺桶を形成する
その刃は、きっと神にも届くであろう