~死者の谷~
仲間を失った悲しみを巡るひと悶着から一夜。
雪花ラミィ、桃鈴ねね、獅白ぼたん、尾丸ポルカの四人は改めてテントに集まり、残り僅かな旅の計画を練り始めていた。
「ここから福音の廃城まで歩いて3日。その間、道中でどれだけの亡者に襲われるかは分からない……弾とグレネード……足りるかなぁ」
残った武装の少なさに不安を覚えるぼたん。
これより先は、亡者達の本拠地。
必要なリソースもそれなりに必要になってくる。
そして、ぼたんを残して全てが消滅してしまった銀獅子族の文明を用いた武装は、現在ぼたんが持っているものを除いて技術ごと消滅してしまった。
今までの戦いで銀獅子の銃器や火器などに頼っていたぼたんは、最終決戦に向けて、節約を重視した武装の整備を始める。
「敵のボスは亡者の王……それに、あの獣もまた襲ってくるかもしれない……不安の種は尽きないねぇ」
ポルカはホログラム発生装置の調整を行い、その後、残った座員達とテントの片付けを始めていた。
「ハァ……。うん、よしっ。魔力の調子も大丈夫かな」
ラミィは身体中に魔力を循環させ、魔術の使用感、調子を整える。
身体から離れない刻印が痛むが、それ以外はベストコンディションに近い状態であった。
「……フブキ先輩とミオ先輩が何を考えてるかは分からないけど……とりあえず、今はやれることをやらなきゃ」
スバルとわための二人を喰らった獣の中から出てきたのは、彼女の知っている白上フブキと瓜二つの獣人。
もはや己を「カバー」へ遣わせたカミの考えも、もはや分からない。
しかし迷いの中でも、出来る事はある。
これ以上犠牲を出さずに亡者の王を殺す。
今のねねには、そうするしか道が無かったのだ。
「……ァァ」
誰のものとも判別できない、掠れながらも、しかしとても透き通った声。
「あれ?座員さん……じゃないよね、誰だろう?あっ」
ねねがテントから顔を覗かせると、そこにはボロボロに敗れたパーカーに身を包んだ猫の獣人と、その少女に背負われて気を失っている茶髪の獣人の姿があった。
「……ぅ……ゲホッ、ゲホッ!ヴ……ァ」
眼前に姿を現したねねに何かを伝えようとしたが、身体が持たなかったのだろうか。
掠れた声、二回の咳。
そして、間もなく倒れ込んでしまった。
「た……大変だぁーーーーっ!」
息も絶え絶え、意識も消えかけといった様子の猫に対し、死んだように微かな息のみをして眠っている犬。
二人を抱きかかえ、ポルカの元へと向かうねね。
確か、この二人は。
見覚えのある顔、感触、匂い。
「ありゃー!どうしたの、この二人」
「何か声がすると思ったら、目の前で倒れちゃって……!二人とも知り合いだから、亡者の王が仕向けてきた敵ではない筈!おまるん、助けてあげられないかな!?」
「うーん。こういうのはラミィに任せた方が良いかも。ラミーィ!ちょっとー!」
ポルカはラミィの元へ走っていき、それに気付いたラミィもポルカの元へ駆け寄っていく。
数時間後。
ポルカの薬箱を漁り、薬草を調合して、故郷に伝わっていた薬を生成したラミィ。
それを二人の獣人に飲ませ、ラミィとねねは経過を観察していた。
「ラミちゃん。この薬……」
「村にいた時……勉強してたんだよね。ラミィ、これでも昔はあんまり戦いが得意じゃなかったから……せめて、薬学で役に立てたらいいなと思って」
「……村の人達は……元気にしてるかな」
「村の人達って……?」
「へ?」
「ん?」
「「……」」
沈黙。
「ふぁぁ」
「あっ」
「起きたー!おはよう、久しぶりだね!『おかゆ先輩』っ!」
その間を縫うように、眠っていた猫の獣人改め「猫又おかゆ」が目を覚ました。
「……ここは?それと……何でねねちゃんがいるの?ころさん?ころさんは!?」
そして寝袋から飛び出すなり、ここを訪れる際に背負っていた犬の獣人である戌神ころねの身体を、狂ったように探し始めようとする。
しかし、自身の隣にころねの身体を見つけるなり、一安心したようで胸を撫で下ろした。
「ころね先輩なら、すぐここにいるけど……どうしたの?二人も『こっち側』に来てたなんて」
横で「この二人も知り合いなのかぁ」と、おかゆところねの顔をまじまじと見つめるラミィをよそに、久しぶりの再会を喜ぶねねに対して、神妙な面持ちで口を開くおかゆ。
「ねねちゃん。それと……微かに声が聞こえてたんだけど、ラミィちゃん?も、出来れば聞いて欲しい。……実はぼく達、一度亡者の王に挑んだんだよね」
「うん」
「でも、亡者の王はまだ消えていない」
「……まさか」
ねねの鋭い勘が光る。
「ぼく達は負けた。そして、ころさんは……亡者の王に魂を奪われたんだよ」
おかゆは両手を握り、ゆっくりと噛み締めた己の言葉を吐き出すように、そう言い切った。
「えっ……?じゃあ、ここにいるころね先輩は……?」
「ころさんは、辛うじて生きてるけど……魂が抜けたままじゃ、いつ本当に死んじゃうか分からない。……だから、お願い。ねねちゃんと……ラミィちゃん。それと、他に仲間がいるなら……ぼくと一緒に、亡者の王を倒すのを手伝って……っ!!」
ボロボロと溢れる涙を拭いながらも、確かな意思が込められた願い。
それはラミィとねねだけではなく、テントの外で話を盗み聞いていたぼたんとポルカにも届いていた。
「その話っ!おまる座のポルカ座長が聞き逃さなかったぜっ!」
「新しい仲間なら大歓迎だよ。それに、ねねちゃんの知り合いなら安心だしね」
テントへ飛び込み、おかゆの手を握るポルカ。
大方、テントの片付けを済ませていたのだろうか。
ぼたんが指差したテント設営地跡は、以前と変わらない草原の姿に戻っていた。
最低限の物資だけを持ち、戦闘要員ではない座員達を物資と共にこの地へ残すことも皆に伝えた上で、後は簡単な出発の準備をするだけになった今。
おかゆの意志も聞けたことで、ねね達の迷いは無くなった。
「……今、この瞬間より!私達おまる座一行が6人は、亡者の王討伐に向かう!誰一人欠けること無く、何一つ失うことなく、目標を達成することを第一目標とするッッッッ!!いざ、福音の廃城へ!」
「「「「「オ―――ッッッッ!」」」」」
ポルカは座長らしく、激しい号令をかける。
彼女に続き、皆も声を上げた。
ある者は迷いを振り切る為に、ある者は復讐の為に、ある者は部下の為に、彼女達は亡者の王である「ウルハ」の討伐を目指す。
少女達の旅は、とうとう終わりを迎えようとしていたのであった。
開門
黄泉の門を開く、一振りの刀
人はそれを、「黒の不死斬り」と呼んだ
それを、稲荷博士が持ち込んだもの
葦の国を死守せんとした者が持ち、そして剣聖を黄泉還らせた
それは不死をも断ち斬る刃である
斬撃、刺突、そのいずれも非常に強力だが、力には代償が要るものだ
手にした者は不動の業を背負い、いずれは修羅、或いは怨嗟に呑まれるという