~ブッシュ平原~
正気を取り戻してから時間が経った金髪碧眼の少女、赤井はあと。
彼女は己の身に起こったことをすっかり忘れ去ったはあとは、懲りずにムラサキ村の外れ辺りを徘徊していた。
狂気というものはそう簡単に訪れるものではない。
「ふんふんふんふん、ふんふんふ~ん」
鼻歌を歌いながら、スキップで平原を歩き回るはあと。
彼女は野の獣を狩り、実を摘み、自由気ままに暮らしていた。
正気を保っている時の彼女は、本当にそれだけの存在なのだ。
しかし。
それは、彼女が「赤」に呑み込まれていない時の話。
赤く染まり、「はあちゃま」と名乗った彼女はもはや「赤井はあと」ではない。
触れるもの全てに過剰な生命エネルギーを与えて氾濫させるそれは、まさに狂気によって生命を弄ぶ狂気の果てにある力。
彼女の肉体に死はあり得ない。
そして、精神の方は既に狂気の内にある。
波打つ溶岩の如く、ドロドロとした生命力を内に宿す彼女は、まさに生に満ちた故の不死。
生命力を考えない故の不死ではなく、生命力が尽きない故の不死。
彼女は、生命体としての限界に到達しようとしていたのだ。
「うーーーん!!今日も気持ちいい風ねー!」
内から溢れる生命力を活力として、己の不死をただの元気と勘違いしてはしゃぐはあと。
深く息を吸い込み、己の精神を狂気で満たす。
はあと自身は気合を入れているだけのように感じているようだが、その血管と神経、そしてそれは精神を、確実に紅い生命力で満たしていく。
蝕まれた「赤」は、「赤井はあと」よりもさらに速く、さらに堅く、さらに猛々しい。
もはや彼女は「ウルハ」と双極を為す程の、新たなる「亡者の王」たる器と化していた。
「あはははははははは!!すっごい清々しい気分!!最強はあちゃま、ここに見!参!」
生命力を氾濫させながら、「赤」は破壊と芸術を求めて走り出す。
ムラサキ村が「赤」の視界に収まる。
「あった!あそこあそこー!!」
かつて、桜神社の社を破壊した日。
「赤」は、かつて最高の芸術を味わった。
自らが破壊した、神社のお社。
そしてそれ以上に、生命力が溢れて止まない自身を追い詰めた巫女の奇跡。
あろうことか、尽きぬ「赤」の生命を削り取った光。
彼女はそこに、己の生命力のように尽きぬ芸術性を見出したのだ。
決して飽きる事の無い、究極の芸術。
桃色に輝く光の中に見えた、生命に対する際限無き破壊。
「この村で、またあの光と戦いたい……!!あの神社で、あの神社……デ……?」
ムラサキ村の門へ、一直線に走る「赤」。
しかし突如、その視界は空中で停止。
前進する手足のみが、視界の下部を埋める。
「……え?」
「シマ、イ……」
「首、ガ、落チ……?」
次元切断。
狂気と狂気はやがて引かれ合い、一つの大きな歪みになる。
これまたあろうことか、ナキリの刃が「赤」の首に、世界を超えて引き寄せられてしまったのだ。
コロコロと転がる己の首を前に、呆然と立ち尽くす「赤」。
しかし、すぐに元の手足は塵と化し「赤」の首から下に新たな肉体と衣服が生成される。
「はぁ、はぁ……凄かった……!君、何て名前?」
そして、何も無かったかのように立ち上がった。
「ア、アア……。余、ト、同ジ……赤色……命、ノ、力……」
「赤」は両手に力を込め、生命力の塊を纏う。
次元を超えて姿を現したナキリも刀を構え、臨戦態勢をとった。
この戦いには、ぶつかる信念など無い。
ただ、力に身を奪われた二人が、その力の赴くままに動く。
それだけであった。
しかし、非情にもテープは巻かれていく。
物語に、人が見た記憶に、それは確かに残っていたのである。
偽りの剣
かつて、何処かの世界を生きた剣豪の太刀筋を再び現す術
しかし贋作では究極の真作には至らず、純粋な技量は真作に劣る
鬼は力に飢え、また、狂気に満ちた後は失った技にも飢えていた
故にだろうか、鬼の刀は純粋な力のみで時空を超えたのだ