ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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ムラサキの引力

~ムラサキ村~

 

とある日の黄昏時。

 

悪魔の保険医である癒月ちょこは食材を揃え、桜神社のキッチンに立っていた。

 

夕食の準備を終えたちょこは、メルを誘って散歩をしに境内から村へ降りていく。

 

シオンとトワは魔術の研究を、ぺこらはみこの面倒をみている。

 

今日も脅威など無い、平和な生活が続くと思っていた。

 

しかし。

 

ちょことメルの視線に飛び込んで来たのは。

 

「何よ、この状況……」

 

血みどろの肉片が散らばり、赤に染まった村であった。

 

「こんなことが起こってたのに、全然声が聞こえなかった……?」

 

ちょこは料理をしていたから聞こえなくても仕方無いが、暇を持て余していた上に五感が他の人型生物よりも遥かに発達しているメルでさえも聞こえなかったという事は。

 

「声を出す間も無く全員殺されたってこと……?」

 

ちょこの推測は正しかった。

 

「……」

 

それは声も出さず、刃がメルの首を捉え―――

 

「メル様、後ろーーーッ!!」

 

刹那、メルの首が宙を飛ぶ。

 

メルの視界は地に落ち、続いて未だ立ったままである自身の右足が視界に飛び込んで来た。

 

「え、何で!?どこから斬られたの!?メルの首!」

 

「メル様!?よ、よかった、よく分からないけど生きてる……」

 

首を落とされたが、夜空メルは吸血鬼。

 

その程度でくたばる生き物ではない。

 

しかし、首を完全に繋ぎ直すには時間か大量の血が必要なのだ。

 

「【血合(けつごう)】」

 

メルは周囲の死体から血を集め、急速に治癒を進める。

 

あっという間に自身の首を繋ぎ直してしまったメルだが、しかし現時点でつい数十秒前の斬撃を攻略できた訳でも、虐殺の犯人を特定できたという訳でも無い。

 

ましてや、いつどこから再びメルの首を落とした「何か」が現れるとも分からないのだ。

 

いわゆる袋の鼠というやつである。

 

「構えて、ちょこ先生。……まだ、さっきメルの首を切った敵の気配が残ってる」

 

「うん。……背中、合わせましょ。メル様」

 

メルとちょこは互いに背中を合わせ、死角を狭める。

 

「……!」

 

―来る。

 

「……!」

 

少しも声を出すこと無く、再びメルと、そしてちょこの首元へ斬撃が訪れる。

 

「【血壁(けつへき)】」

 

「【麻酔針(パラライザー)】」

 

しかし、二度目の攻撃は二人の同時攻撃により防がれる。

 

メルは血液で生成した壁を、ちょこは麻酔薬を塗った針を身代わりに、力を首ではない方向へ逸らしたのだ。

 

「ハァ、ハァ……」

 

ちょこの針が効いたのか、残像さえ残らない程のスピードで走り回っていた刀身が動きを止める。

 

「「お、女の子……?」」

 

ムラサキ村を一瞬で滅ぼし、一度はメルの首を落とした殺人鬼。

 

「ゥゥ……ハァ……」

 

その姿は、華奢な少女。

 

しかし二本の角と溢れ出る殺気、そして衣服に付着した大量の血液が、彼女が何者たるかを物語っている。

 

「メル様……シオン様とぺこら様とトワ様を呼んできて……!」

 

「でも、そしたらちょこ先生一人になっちゃうよ……?」

 

「ちょこは大丈夫。勝てる気はしないけど、そんなにすぐ負ける気もしないから」

 

身震いしたちょこは二人で鬼を止めることは不可能と判断したのか、メルに助けを呼ばせに行く。

 

「……!」

 

そして、再び音も無くちょこの首元を狙って走り出す鬼。

 

「来なさい……!」

 

麻酔針を構えるちょこ。

 

合わない目線の先に在ったものは、双方共に相手では無かったのだろう。




吸血鬼


生物の血から生命エネルギーを吸って生きる不死
食物からのエネルギー摂取効率は生前と比較して著しく悪くなっている

地域によってヴァンパイアと呼ばれるそれらの中には「ヴァンパイアロード」という上位種があり、それらは不死となってなお理性を保ち下位の理性無きヴァンパイアを操るという

また、突然変異で稀に血を固めて攻撃手段として使う個体も現れることがあるのだという
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